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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第二章 解放のディザイア
71/102

10,解放への願望(3)

      ◇


 ……時間は少々遡る。


 男風呂の脱衣所には、人っ子一人としていなかった。

 この分では、温泉は俺達二人の貸し切りも同然だろう。

 まあ、過密状態よりはましか。

「広~」

 感嘆の声を上げるテラ。

 女子風呂の方でも、リンかリーンあたりが言ってそうな台詞だ。さしずめリーンは確実に言ってそう……。

 心なしかはしゃいでいるように見えるテラを横目に、とりあえず結構巨大な桶が置かれている洗い場に行く。

 シドー風、それも古風を売りにしているからか、シャンプーやリンスの類はなく、石鹸があるくらいだった。

 身体を洗ってから、湯船につかる。

 湯の温度は適温と言ってよく、身体がリラックスするのが感じられた。

「ふぃ~~」

 テラも、心地よさそうに声を上げた。

 温泉に含まれる成分を考えるに、疲労感はすぐに消え去るだろう。

「いやー。気持ちいいもんだな~」

「……そうだな」

「得した気分になるってもんだ」

 気分も高揚してきたのか、テラは得意そうな表情で言った。

 得した気分かい……。

 たしかに、ここの宿泊費は、本当はかなりの高額だったからな。

 でも、怪奇現象が起こるって噂は、本当なのだろうか。

 俺としては、悪霊のタタリとか遭遇したくもないが。

「極楽だわ~」

 本当に悪霊だったらどうすればいいのだろうか。

 教会とか神社とか、この近くにあっただろうか?

 俺たちに霊を払う特殊な力はないし……。

 心霊に対抗する魔法も、現段階では効果が薄いものしか開発されていない。

「おまえもそう思うだろ、リュウト?」

「……あ、ああ」

 曖昧に頷いておく。

 極楽とか、テラの思考が一気に老衰しているような気がするが、成人すると、こうなってしまうのだろうか?

 まだ十代ティーンなのにな。

「ん? どうしたリュウト」

「いや」

 思わず溜め息を漏らした俺を、テラが首を傾げて問うてくる。

「……俺達ももう十五だなーっと」

「ああ、それな。もう九年もたつんだな。オレたちが初めて出会って」

「……始めは、リンは俺たちに敵対的だったな」

 俺たちというか、主に俺に対して敵対的だったが。

 イルサは完全に俺を殺そうとしてたっけな。

 懐かしいものだ。あれからまだ、九年しかたってないのに……。

「なついな。あれからもう九年か」

「……いろいろあったな」

 決闘でイルサと死闘(?)を繰り広げたり、夏休みにウルスタイガーに襲われたり、急遽定期戦に出場することになったり、あとリンに告られたか……。

 さらに今年は、俺にとってかなりの凶年になるという占いをもらってしまった。

 それを裏付けるかのごとく、二月は散々な目に遭った。

 その時期に噂になっていた火事の原因とも言える、ドロップアウトした不良放火魔集団とセイラのいざこざに、半ば無理やり巻き込まれたのだ。

 あの時は、全身大火傷を負ったりして、少しヤバかったな。

 二月末に決闘を吹っかけてきたあのモヒカンについては、ウザかったの一言だけだが。

 何ともなしに、また溜め息が漏れる。


 ――今年は大変な一年となる。


 去年、イソラの占いによって出た予言だ。

 さて、今はまだ五月の一の日。

「今年」が終わるまで、まだ八か月ほどは残っている。まだまだ、災難は続くということか。

 そう考えると、この旅行もまた、よからぬ災難のイベントに思えてくる。ちょうど、最近霊が出るとか、手頃な噂もあるし。

 なんだか、リラックスできないな。

 急にしけたというか、なんというか……。

 絶対に何かが起きるのではないか、という確信めいた考えが湧きだしてきてしまった。

 殺人事件とか、起きなければいいが。

 ……結構、物騒な方向に思考が向いていってるな。

「おまえがリンを振った時は、オレたちの友情の終わりを予感しちまったっけなー」

 ふと、テラがそんなことを言う。

「……俺も、もうリンとは友達じゃいられなくなるかもしれないと思ったな」

「なあ。実際、ひやっとしたどころじゃなかったぜ」

 うんうん、と当時のことを思い出すように、テラは頷いた。

「リュウトってさ、どんな女が好みなんだ?」

「は?」

 いきなりな質問だ。

「いやさ、リンのことでふと思ったんだ。リュウトの好みの女って、どんななのかなーっと」

「……黒髪か金髪。できれなセミロング以上」

「ん?」

「俺の好みが知りたいんだろ」

 正直に話してやったんじゃないか。

「ほう……。つまり、カミネかトレムがいいわけだな?」

「むん?」

 言われてみれば、二人とも黒髪か金髪だな。

「……そうだな」

「ほう、認めやがったか。どっちの方がいいんだ? やっぱりカミネか? 同棲関係って、もっぱらの噂だし」

 同棲……まあ意味は合ってるけど……。

「いや、彼女好きな人がいるって言ってたし……」

 今はもう会えない、とも言っていたが。

 ……あれどういう意味なんだろうか。想い人が死んじゃった、とかだろうか?

 まあ、気に留めることでもないか。

「へー。そりゃ知らんかった」

「誰にでも話すような内容じゃ、ないしな」

 むしろ、セイラの周囲へのスタンスを見る限りでは、話すことは絶対ないだろう。

 俺に話してくれたことを、俺に心を許しているからと捉えるか、単に気まぐれと割り切るのか。

「あのカミネに想い人がねー。リュウト的にはどう思ってるんだ?」

「別にどうも。恋愛感情って、人の感情の中で一番わかりにくい感情の一つだと思うし……」

 コントロールしづらいからな。

 自分の思考ものも、他人の想いものでも。

 ……そう言えば、どうしてさっき、金髪なんて答えたのだっただろうか?

 黒髪と答えたのは、前世の記憶が強く尾を引いていたからだ。記憶の中の彼女。俺が、前世で好いていた女性。

 彼女の容姿が、俺の好きな女性への指向に影響しているのは、認めざるを得ない。

 黒髪で、長い髪で、すらりと細い身体つきに、色白の肌。

 とても綺麗な彼女には、黒色中心の洋服や和服がよく似合った。

 ……もっとも、和服姿の少女というのは、俺にとっては紙一重で苦手意識が湧きおこってしまう装束だったが。


 ――では、金髪とは何だ?


 俺はどこから、金髪という属性を見出だしたのだろう。

 記憶を遡ってみても、わからない。とりあえず、経験として蓄積してきた二十年分の記憶の中には、ないか。

 では、それ以降の記憶の中で、なんらかのきっかけがあったということだろうか。

 美少女ゲームのヒロインか、ラノベかアニメか漫画のヒロインか……。どうもしっくりこないけど。

 ……どうでもいいか。

 溜め息をつくと、揺らめく湯気が一瞬、吹き散らされる。

「おまえ、結局好きな娘とかいないのか?」

「……現時点ではいない」

 溜め息交じりに、そう答えた。

 さっきから溜め息ばかりしている。溜め息ばかりしていると幸せが逃げる――という言葉を昔聞いたことがある気がするな。

 でも、仕方ないと言えば仕方ない。

 今一度、俺は溜め息をつくのだった。




 一通り温泉を巡った後、最後にサウナへ入った。

 室内は、むっとくるような蒸し暑さで満ちていた。

 ほんの十分もたてば、テラはもう限界だと一人退室していった。俺はまだ大丈夫だったから、まだサウナにいるが。

 そして、テラが出ていってから、さらに数分がたってから。


「おや、君はさっきの」


 そう言って、サウナへ一人の青年が入ってきた。

 どこかで見たことがあるような……そんな気がした。

 先ほど、二階ですれ違った青年であると気づくのに、時間はかからなかった。

「……どうも」

 さすがに何も返事をしないほど、無愛想なつもりはない。

 蒸釜の中にいるような息苦しさの中、言葉を発すると体の内側まで蒸されるような感じだった。

「はっはっは。これは奇遇だね」

「……そう、ですね」

 青年は、この暑苦しい息苦しさを感じさせないほどのテンションで話しかけてくる。

 こっちは、もう頭が軽くクラクラしかけてきたってのに。

 名前はたしか、ラッセル・ホルーだっただろうか。

 ……ホルー家。

 ラスパーナ王国の貴族の家系。あの、モヒカン頭と同じ家の出……。

 俺の中で、小さくない警戒心が生まれる。

 ――だが。

 モヒカンではないんだよな……彼。普通に長髪ってだけだし。

 ……貴族で富豪。この二つの意味って、重複するんだろうか?

 青年、ラッセルは、俺の隣にすとんと腰を落ち着けた。

 改めて、この青年を観察する。

 肌はやや褐色がかっている。髪の色は白。顔立ちは、堀の深いハンサムな作り。

「なあ、リュウトくん。いや、カワキくんだな。初対面だし」

「……名乗りましたっけ?」

 この男とは、さっきが初対面のはずだが。

 ラッセルは、得意そうな表情を作って頷いた。

「いや、君と話すのはこれが初めてだ」

 ……心を読まれたりとか、したのだろうか。この男エスパーか?

「そうだね、カワキくん。君は凄く疑問に思っている。そうだろう?」

 頷くことで、答える。

 いちいち肺に暑い空気を取り込もうとは、思わなかった。

「で、僕は君の疑問に答えてあげるつもりだ。でも、その前に僕の質問に答えてはくれないだろうか?」

 ……なんか面倒くさそうな奴だな~。

 とりあえず、頷いた。

 ラッセルは白い歯を見せて笑い、こう訊いてきた。


「君は……前世を信じるかい?」


 正直なところ、予想していたわけではない。

 予想外の質問だった。

 でも、俺の性質上、こういうことで動揺するのは、ほんの一瞬のことだ。

「信じますね」

 即答した。

 回答までの時間の短さに、ラッセルの方が意外感を表していた。

「……うーむ」

 と何故か困ったような唸り声を上げるラッセル。

「なんか、僕の想定していた反応と大きく違うなぁ。僕の予想では、少なからず表情が硬直するというか、固まるというか」

「……すいませんね」

 眉毛がピクッ、と動くくらいの反応はしたと思うが。彼の中では、それでは小さすぎたのだろうか。

 ラッセルは、苦笑しながらかぶりを振った。

「いや、別にいいさ」

「……で、俺の名前を知ってるのは……何故です?」

「ああ、そうだったね。うん、ズバリ訊くけど、君、転生者だろ」

 特に間を溜めたり、芝居がかった演出したりとかはせず、ただ、断言するような口調でラッセルは言った。

 ――何故わかる、と一瞬疑問がよぎる。

 なんで、自己紹介もなしに俺の名前や、前世のことまで……。

 もっとも、輪廻転生の概念を持ち出したら、現世に存在する生き物全てが転生者になるけどな……。

「……誰かに言ったことは、ないんですけど」

「うん、やっぱり動揺しないね、君」

「内心は結構驚いてますよ」

 ラッセルは、爽やかに笑った。何がそんなに可笑しいんだか。

 というよりも、この男、俺の質問にまだ答えていないんだが。

「……そろそろ答えてくれません?」

「ああ、うん。どうも調子狂うな~」

 苦そうに笑いながら、ラッセルはこちらに向き直り、


「僕には特殊な“目”があるのさ。視たものの詳細な情報が詳しく視界に表示される、そんな魔眼がね」


 右手で顔半分を意味深に覆い隠し、やけに低い声でそんなことを言うラッセル。

 反応に困った。

「………………」

「ちょっ、ごめん。ごめんなさいふざけました! でも本当のことだから! 本当にそういう“目”を持ってるんだ!」

 わかったから、あんまり大きな声を出さないでほしい。

 友達とか思われちゃうだろ。今ここに俺たち以外誰もいないけど。

「……わかりました」

「本当に?」

 どこかほっと安堵するような表情を浮かべて、ラッセルが縋るに訊いてくる。

 だから近づいてくんじゃねえっての。

「中二病のイタい人でしょ」

「違ーーーーーーーーーーう!!」

 ここ一番、でっかい声でラッセルが絶叫する。

 しかし、ラッセルを弄るような嗜虐心は、俺にはなかった。

「なるほど、同じ口か」

「ふぁ?」

 間の抜けた声を出すラッセル。


「……ネワギワの世界に、『中二病』なんて言葉はないでしょう?」


 そもそも中学生という階級すらないからな。

 前世における中二病は、ネワギワじゃ邪気眼とかで呼ばれてる。

「自分には古代の特殊な魔法の才能が眠ってる」とか「自分は魔王の生まれ変わりである(ちなみにネワギワで魔王と言えば、もっぱらウバー神話に登場する魔王将ラ・スパナーのことを指す)」とかほざく奴のことをいい、主に高年部に上がってしばらくした少年に(稀に少女にも)見られる特有の言動のことを言う。

 ……まさに、先刻のラッセルみたいな発言のことをいうのだが、この場合ラッセルは邪気眼ではないな。

 ラッセルは、遅ればせ俺の言いたいことに気づいたようだった。

「カマをかけたのか」

「まあそうですね」

 特に後ろめたいような気持もなかったので、即答した。

 ヒドい、とラッセルが眉を八の字にして詰め寄ってくる。何がそんなに非道いんだか。

 だが、これで疑問は解けた。

 ラッセルが転生やら前世やらの話を振ってきたことと、俺の名前や、前世のことを知っていた理由。

 無論、この男が演技をしていないならの話だが。

 一通り愚痴ると、ラッセルは一息ついた。

「まあ、でも、ならこれでわかったわけか」

「ええ。あなたも俺と同じかどうかは、半分わかりませんでしたけど。否定しないってことは、あなたも転生者――てことで、いいんですか?」

 正直に言えば、転移してきた可能性もあった。

 ラッセルは、一瞬きょとんとするが、すぐに慌てたように頷いた。

「ああ、僕も君と同じで、前世の記憶を持つ者だ。いやあ、いるんだなぁ、僕と同じような人」

 張り詰めていた緊張が緩んだように、ラッセルの表情にもどこか弛緩したような印象があった。

「……“記憶持ち”は、それほどレアってわけじゃないですけどね」

 前世の記憶があるなんて話、人生の中で一回は耳にするかしないか。

 とにかく珍しいケースであることに変わりはないが、前例がないほどレアというわけではない。

 もっとも、異世界の“記憶持ち”は、さすがに俺も聞いたことはなかったが。

「ほんと、この世界じゃ大変だったんだ。生まれ変わったはいいけど、言葉覚えるのが凄く難しくて……四年もかかった」

 ……そりゃあ、教科書も何もない状態で、既に日本語で思考できる人格が別の言語を習得するのは、至難だろうな。

 例えるなら、日本語オンリーで育った者が、予備知識も何もなしに四六時中英語オンリーな環境に放り込まれるようなものか。

 相手が何を言っているのかわからない。

 名詞、動詞、形容詞、接続詞、などなど……。

 これらの関係を目隠し状態で習得するのは、たしかに時間がかかりそうだ。

 ……でも、俺は結構すんなり覚えられたな。それこそ、聞いたことあったっけ? てなるくらいにすんなりと。一年もかかんなかった気がする。

「でも、よかった。話が通じる人がいて」

「……そうですね。通じるといいですけど」

 俺的に、彼の前世と俺の前世が、同一の世界であるという保証はどこにもないと思うんだよな……。

 細かいところに相違点があるけど、全体として見ればほぼ同一に見える世界なんて、数えきれないほどある。

 それこそ、パラレルワールドという言葉がしっくりくるほどそっくりな世界なんて……。

 分岐点がかなり大昔であれば、ネワギワの世界くらいにかけ離れた世界観になったりするが。

 果たして、彼の前世は、俺の前世と同一の世界だったのか。それとも一般的にはそっくりだが、どこかしら違いがあるパラレルワールドなのか。

 というか、ネワギワだってパラレルワールドの一つなんだけどな……。

 ラッセルは、何から話そうか、とテンションが高そうな口調で言う。

 なんのことはない。とりあえず、疑問に思ってることを訊くことにした。

「ホルーさんは、貴族で大富豪だと聞きました」

「あー、まあ、たしかにね……」

 ラッセルの表情が、かすかに曇る。

「貴族で富豪って、どういうことですか?」

「うん、そうだな……。貴族ってのは、言うまでもなく僕の家のことを言うんだけど……。富豪ってのは、僕個人のことを言ってるらしいんだよね、どうも」

「……こんがらがりますね。貴族としての資産とは別に、ホルーさん個人の財産も持っている、ということですか?」

「そう! それ」

 自分で言っておいて何だが、よくわからん。彼個人の財産は、そのまま家の財産になるんじゃないのか?

 それにそもそもどうやって稼いだんだ?

 言うまでもないことだが、ネワギワのテクノロジーはかなり進んでる方だ。

 あくまで、魔法が存在する世界としてはだが……。

 前世でいう、二十一世紀頃の技術とほぼほぼ同レベルだ。中には、さらに進歩しているものもちらほらとあったりする。

 この世界で前世の知識を利用して材を築くなら、少なくとも二十二世紀の知識はないとな。

 では、単に彼が貴族以外の仕事で稼いだのか……?


 ……貴族以上に金が手に入る仕事なんてあるんだろうか?


 少なくとも、貴族やってるより小さい収入なら、やりたいなんて思わないと思うが。

 どういうことか、本人に直接訊くと、彼は笑いながらこう答えた。

「あれは、十七の時だったかな。そう、今から五年くらい前だ。僕はある目的のために、小さな山を一つ買ったんだ。ああ、長年溜めこんできたお小遣いを使ってだ。僕はそこで、ガーデニングをしようと思ったんだ」

 ……何故そうなるんだ?

 自分の家でできなかったのか。

 貴族の家系なのだから、菜園するだけの広さの庭はあるだろうに。

 ガーデニングするために小山を一つ購入する……金持ちの考えることはよくわからん。

 しかし、それが彼の財産にどう関係するのだろうか?

 ラッセルは、話を続ける。

「僕はそこで、一人で山を開拓し始めた。幸い、開拓するにあたって必要になる魔法は習得済みだったからね。で、だ。開拓を始めると、どうだろう……地面から湯水のように溢れだしてきたんだよ……石油・・が」

 ……………………。

 ……………………。

 ……………………。

「あれですか。『石油王に俺はなる』ってやつですか?」

「いや、さすがに石油王にはなれないよ。でもまあ、それ以来運に恵まれてね。温泉の源泉も掘り当てたことがある。今じゃもう、貴族辞めたって一生食ってけるだけの財産だよ」

 爽やかそうに、そんなことをサラっと言う。

 もう何でもアリだな。

 神様が金持ちの王になれって言ってんじゃないのか。羨ましい。

「ガーデニングの方は、どうなったんですか?」

「ああ、もう今はやってないよ」

 哀れガーデニング。

「じゃ、次は僕から質問していいかな」

「……いいですよ」

 うん、と頷き、ラッセルは訊いてきた。


「君も何か、特殊な能力を持ってたりするのかな?」


 自分の目を指しながら、俺の目を覗きこむラッセル。

「…………いえ僕中二病とかじゃないんで」

「いや違う違う違う。え、君、転生する時に何か貰ったりしなかったの?」

「………………はい?」

 何言ってんのこいつ。やっぱ頭イタい中二病か?

「え、神様に会ってない……? 死んだすぐ後」

「……はい」

 そもそも俺死んだ瞬間を覚えてないんだけど……。

 でも、会ったかどうかで訊かれれば、答えは「会ってない」だ。

 ネワギワの世界に生まれ落ちた時のことは、よく覚えている。無論、母さんの腹の中にいた時から覚えているというわけではないが……。

 要は、生まれる前にそういう変な人物に出会った記憶があるかどうかだ。

 俺には、そんな記憶はない。ラッセルの言う、神様とやらにも会っていない。

 ということは、ラッセルは死んだ直後に神を自称する誰かに遭い(誤字にあらず)、魔眼を授けられて転生した、ということだろうか。

 俺とは別口なんだな。

 そうなってくると、その神様とやらが少し気になる。

 そう言えば、魔法使いは他人の魂を転生させることができる、という話を聞いたことがあった。

 たしかに、生物の魂を別の生命へ転生させる魔術は存在する。

 そして魔法の領域ならば、異なる世界線上にある二つの世界同士を跨ぎ、転生させることもできる。

 それならば、転生させる際に魂に細工を施して、生まれながらに特殊な能力を持たせることも、可能なのだろうか……?

 まあ、可能か不可能なのか、どちらにしても魔法使いなら気まぐれで他者を勝手に転生させるくらい、やりそうなことではあるな。

 しかし、ラッセルが会ったという神様が、神様を偽る魔法使いなのか、それとも本当に絶対神の存在なのかはわからない。

 まあ十中八九は魔法使いの悪戯だろうが。

 残念だったな、ラッセル。

 お前が出会った神様、実はただの魔法使いだってよ。


 ――と、そこまで考えた時。

 頭の中が、急にぼやけたように霞む。

 湯だったように、ぼんやりと意識が薄れる。

 頭の重量が重くなったとうに、ふらふらと揺れる。

 身体に力が入らない。

 眠い。


 そのまま、俺の意識は唐突に暗転した。

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