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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第二章 解放のディザイア
64/102

3,学園風景(2)

      ◇


 授業は一時限目から戦闘実技だった。

 授業内容としては、魔法を併用した対人戦闘術の模擬戦である。

 場所は校庭。

 魔法によって設けられた安全フィールド内(対人戦闘において攻撃によるダメージをある程度軽減し、致死になるような攻撃は魔法、体術問わず全て無効化する)にて、いつものように、俺はテラと組んで一対一で行っていた。

 一ペアずつ、一試合三分で、安全フィールド全域を試合場リングにして行う。


「てやっ!」

 鋭い回し蹴りが、俺の眼前を掠めていく。

「は!」

 続けて、押し込むような掌底が迫ってくる。それを、俺は背後にステップを踏むようにして回避する。

 彼我の間合いは、おおよそ五メートルほど。

 ブラウンの髪の毛に、堀の深い顔立ち。がっしりとした体格の少年は、不敵に笑った。


 ……その瞬間、ぴりぴりっ、と首筋に厭な感覚を覚えて――、

 俺は、右腕を前に突き出した。


 掌に、膨大な魔力が集まっていく。

 魔力の渦が、竜巻のように荒れ狂う。

「『ウィルベルム』」

 呪文を紡ぐ。

 集束していた魔力が、竜巻となってテラに襲いかかった。

 しかし、テラもまた、こちらに右掌をかざし、魔法を唱えていた。

「『ノーマ・レイ・ベルム』!!」

 地属性が付加された魔法「レイ・ベルム」が、巨大な魔力の塊が、真正面から竜巻と衝突した。

 魔法の属性において、地属性は一番に習得しやすい属性――という認識がされている。

 だが、それで地属性魔法が弱いと言われるわけではない。

火、風、水、これら魔力の性質を変化させる変質属性と違って、地属性と空属性が分類されている特異属性は、魔力を変質させたりする力はない。しかし、魔法の威力、性能そのものの向上性においては、変質属性を上回る。

 ……単純な話。

 変質属性である風属性を付加させた俺の魔法と、特異属性たる地属性を付けたテラの魔法と。

 威力そのものは、テラの方が確実に上だろう。

 まともにぶつかれば、どちらが打ち破られるかは想像に難くない。

 けれど、実際のところ、二つの魔法は拮抗した。

 威力で劣っているはずの風属性の竜巻は、地属性の魔力の塊と正面からぶつかっていた。

 理由は単純。俺が、魔力量にものを言わせただけの、ただのゴリ押し戦法だった。

 俺の魔力量と正面からぶつかれるテラの地属性魔法がすごいのか、それとも、地属性の魔法に正面から張り合える俺の魔力量がすごいのか。俺個人としては、後者だと願いたいものだ。


 しかし、結果だけを見れば――、

 結局、特異属性の魔法を威力で押し返せるわけもなく、竜巻は押し戻されることとなった。


 巨大な魔力の塊が、迫ってくる。

 俺は、足にぐっと力を入れ、跳躍することでそれを回避した。七、八メートルほどは跳躍しただろうか。足の下を、超重量の魔力の塊が通り過ぎていく。

 落下していく浮遊感の中、空中で、テラに向けて右手をかざす。再び、魔力が集束していく。

「『ヒラドベルム』」

 掌の先に集まっていた魔力が、蒼い水属性を伴いテラに向けて発射される。それは、まるで津波のように、テラを押し流さんと迫る。

 テラはそれに対して、障壁魔法を展開することで迎え撃った。

 半透明で半球状の防御魔法がテラの周囲に展開され、俺の水属性魔法からテラを守る。

 その一瞬、俺とテラの視線が交わる。

 テラは、にやりと不敵に笑っていた。

 何かを仕掛けようとするでもなく、テラは、俺が着地する様子を見ていた。

「さて、ここからだぜ!」

 これからが本番だと、テラが意気込んで言う。

 ――が、拳を固く握りこんだテラが、今まさに攻撃を再開しようとした、その時だった。

『そこまで! 時間切れ!』

 安全フィールドのすぐ外で、制限時間を計っていたリンの声が響いた。

 三分って、案外に短いものだ。これならカップラーメン完成もすぐに感じられる。ネワギワにカップラーメンとかはないんだけど……。

「ッだー! チクショー! 時間切れかよ」

 テラが喚いていた。

「テラ、早いとこ出よう。後がつっかえる」

 名残惜しそうな様子のテラにそう言って、俺は安全フィールド内から外に出た。テラも、不完全燃焼なのか未練ありありな表情だったが、俺の後に続いて退場する。

 俺たちがフィールド外に出ると、すぐに他の一組が入っていき、先ほどの俺たちの様に模擬戦を始める。

 俺は、再び制限時間の測定にかかったリンに話しかけた。

「やっとるね」

「リュウト。ねえ、代わってくれないかしら? あたし、そろそろ退屈してきてるんだけど」

「悪いけど、御免だ」

 にべもなく断ると、リンは頬を膨らませて避難の目で睨んでくる。よほど、退屈してきているようだ。

「じゃあ、セイラと組んでもう一回模擬戦やってくれない?」

「は?」

 何を言ってるのだ?

 魔法併用の戦闘訓練のため、男女でペアを組むのは禁止ってわけではない。だが、普通はやらないだろう。腐っても思春期の男女だ。お互い、そんなに近い距離間は望んでいない。……いや、深層心理の奥底では双方ともに望んでいるかもしれないが。

 面倒くさいし、変に噂されて騒がれるのも厭だし、やりたくないな……。

「うちのクラスの女子の中でセイラとまともにできる人っていないのよ」

「リンでも無理なのか?」

「あたし戦闘肌じゃないもん。魔法は上手いつもりだけど、組手とか魔法戦とか、苦手だわ」

 三年前のコドー・ファイナ新人戦では、同年代相手に圧勝してたように記憶しているが。今年の定期戦でも、選手として出場する予定だし。

「リュウト、セイラが模擬戦してるとこ見たことないの?」

「ないよ。カミネさん、転校してきてまだ短いし……」

 彼女が戦闘実技の授業で模擬戦してるのを見るような機会は、今のところなかった。同じクラスなのにな……。

「あれは男子でも勝てないと思う」

「ほう」

「ほら、セイラって魔法がすごく上手いでしょう」

「うん、そうだな」

 魔法科に限らず、ほとんどの授業科目においてセイラの成績は優秀である。ちなみにいうと、そんな彼女の成績でも特にすごいのがネワギワ史だ。転入の際の小テストでは満点だったらしい。

「それだけでも結構すごいけど、セイラの場合は、ね……。なんというか、徒手空拳の格闘の方も意外と強くて……」

 言いにくそうに、リンは言葉を絞り出す。

 セイラが格闘戦、か。不良数名を撃退できるくらいの実力は有しているセイラであるが、もしかするとその身体能力も実力の一要因なのかもしれない。

 それにしても、男子でも勝てないくらいに戦闘慣れしてるのか……。いや、だからこそ不良どもを返り討ちにできたのだろうが。

 考えれば考えるほど、あの夜セイラが何故不良たちに追い詰められていたのかわからなくなる。

 なんでセイラは、今にも強姦されそうな状況に陥っていたのだろう?

 案外、あれは俺の勘違いだったのかもしれない……。

「で、やってくれる?」

「ああ、オッケー。やるよ」

 ――いつの間にか、本当に、気づいたら了承していた。

「そ、じゃ、本人にも話通しといて」

 そう言うやいなや、リンはストップウォッチを高らかにかかげて、声を響かせた。

「そこまで! 時間切れ!」

 ちょうど、三分が切れたようだった。

 俺は、話を合わせるためにセイラの姿を捜した。実はすぐ近くにいたようで、捜すのに要した時間はたったの二秒だった。

「カミネさん、模擬戦の相手決まってる?」

 体操服姿のセイラは、きょとんと首を傾げた。

「決まってないけど。なんか最近、みんなから避けられてるみたい……」

 自覚は薄々あるらしく、セイラは困ったように、片頬に手を当てる。

 そんな可憐な仕草をする少女が、実は男子をも下せるほどの格闘能力を持ってると思うと、不思議と詐欺臭いと思う俺だった。

「俺でよければお相手しましょう」

「いいの?」

 相手が男であることに、特に不快感などはないらしい。

「というよりも、リンに相手してやってくれって言われたから」

 そうでなければこんな厄介そうな行動を自発的に思いついたりはしない。

 セイラは、納得したように眉をぴくりと反応させた。

「ああ、なるほどね」

 薄く微笑む彼女から視線を外す。

 用件は伝えた。話しは合わせた。

「じゃあ、これの次の次あたりでいい?」

「うん、オッケー」

 一旦、彼女の側から離れた。

 すると、すぐにテラに捕まってしまった。

「何の話だったん?」

 目ざとい。普段は鈍感そうに見えるのに。――とはいっても、このやり取りにも慣れつつある。

 学校でのセイラは基本的に俺にしか話しかけない。一応補足すると、彼女は俺以外とのコミュニケーションを拒絶しているわけではない。

 他のクラスメートや教師とも会話はする。だが、彼女が自分から話しかける相手は、俺以外ではいないのだ。

 彼女の会話は、俺という例外を除けば皆受け身の姿勢から始まっている。

 その点でいっても、やはりセイラはリーンとは対照的だ。

「別に。迷える子羊に道を示してやっただけ」

 皮肉めいた俺の言葉に、テラはハテナマークを頭に浮かべる。

「カミネさんと模擬戦することになった」

「ああ? マジか?」

 首肯すると、テラは俺の肩を軽く叩いた。

「手加減してやれよ」

 思いの外、真面目な言葉を頂戴した。からかわれるかと思ったんだけどな……。

 とはいえ……。

「カミネさん相手にそこまで余裕はないと思う」

 さらに言うならば、セイラと違って俺の方はテラとの模擬戦である程度消耗している。

 魔力が万全な状態であったとしても、魔法戦主体では彼女と渡り合えるなんて思えないし、だとすればこれはかなり不利な状況といえる。

 手加減?

 それはセイラあちらの方がすべきことではないだろうか。

 そんな情けないことを思う俺だった。




 安全フィールド内にて。

 本日二度目の模擬戦である。

 一応言っておくと、二人一組で模擬戦、というのが今日の授業内容ではあるが、回数制限は特にない。

 故に、俺が二回も模擬戦をすることに問題はない。ただ、やはり異性でペアを組むようなことはほとんどないので、フィールド外はにわかにざわついていた。

 中には、俺をはやし立てる声もあった。

「ねえ、リュウトくん」

 そんなざわつきを無視して、セイラが俺に話しかけてくる。

「何?」

「……ごめん。やっぱなんでもない」

 会話は終わってしまった。

 一体なんだったんだろうか?

『二人とも、準備はオッケー?』

 安全フィールドのすぐ外から、リンが確認の声を上げる。

 俺とセイラは、片手を上げてオーケーのサインを出す。そして互いに向き合い、沈黙した。

 俺たちの間合いは大体七、八メートルほど。

 この後、リンの「はじめ!」の声で模擬戦は開始する。そうなるまでに、後何秒のがあるか。

 ……。

 …………。

 ……リンの試合開始の声が、何故か上がらない。

 ――いや、違う。

 どうしてか、全てが遅く感じられたのだ。あるいは逆に、俺の気が柄にもなく緊迫していたからか?

 脳内で急激にアドレナリンが分泌され、集中力が飛躍的に、爆発的に増大した――結果がこれか。

 俺は今、一般的な集中力を遥かに逸した思考速度を必要としている?

 どうして?

 何に?

 疑問が浮かぶが、それでもリンの声が響くことはなかった。

 ほんのわずかな間が、永遠に感じられるとはこのことか。

 とにかくとして、突如起こった覚醒(仮)のことはひとまず置いて、目の前の相手に集中する。

 体操着姿の居候少女セイラは、自然体で俺を見ていた。

 彼女について、魔法の才能が天才的で、学業もトップレベルの秀才という以外の情報はない。

 直接的な戦闘能力はまったくわからないが、一応、クラスの女子では相手にならず、男子相手にも引けを取らないのではと予想されている(付け加えるならば、今月上旬の一件で不良数名を撃退している)。

 考えれば考えるほどに、彼女の実力の底がわからなくなっていく。


「はじめ!」


 リンの声が聞こえたのは、そんな時だった。

 空気が変わる。

 目の前のセイラの身体から、オーラのような光が噴出する。

 次の瞬間、セイラが俺との間合いを一気にゼロにした。

 強化した脚力をもってして、単純に地を蹴って俺に突っ込んできたのだ。

 なるほど、と納得している自分がいた。

 たしかにこれでは、女子は相手にならない。

 セイラが右手を振りかぶる。拳ではなく、掌底だった。俺の腹部を打つ算段だろうか。

 対する俺の方でも、既に迎撃の行動には移っていた。シンプルに突っ込んできたのだ彼女のように、シンプルに、右足を思いきり蹴り上げる動作。

 タイミング的に、このままやればちょうど前傾で来るセイラの腹部に喰い込むだろうか。

 ただ、懸念すべきは、彼女の腹に蹴りを入れられたとして、その後だった。

 俺の蹴りは、セイラの突進の勢いに打ち勝って彼女の身体を浮かせるのか、それとも俺の蹴りなど弾き飛ばして、彼女の攻撃が俺に届くのか。

 どちらにしても、早々に戦局が動きそうだなと思うくらいには、俺の頭の回転もハイになっている。

 しかし、結果は俺の予測のどちらにもならなかった。

 まさに、彼女の腹に俺の右足のつま先が喰い込もうという瞬間、


 彼女の身体が、横に回転しだしたのだ。


 セイラの回転は、俺の蹴りを外側へといなしてしまう。

 代わりに、彼女の方でも攻撃は一旦お預けになったらしい。着地するやいなや、弾けるように後ろへ跳んで、セイラは俺から距離をとった。

「容赦ないね、リュウトくん」

 そんな言葉が投げかけられる。

「まあ、たまに言われるかな。おまえは鬼だって」

 本当に、たまにだが言われる。

 さっきも、女の子セイラの腹めがけて蹴りを入れるのに躊躇はしなかったし、自分が鬼畜生と言われること自体に疑問はないが……。

 まあ、ああいうこと平気でやってれば外道とか言われても仕方ないよな……。

 それにしても、さっきの俺とセイラの攻防、外野の連中は一体何人くらいが見えてたんだろうか。

「ねえ、リュウトくん」

 セイラが、ゆっくりと話しかけてくる。

「錬気、使わないの?」

 その可憐な顔には、薄い笑みを浮かべている。

 挑発的、というよりはむしろ、面白そうな感情が読み取れる。

「この模擬戦は魔法を絡めた戦闘シュミレーションだったと思うけど」

「でも、模擬戦のルールを見る限り、錬気を使ったらダメなんてないわよ」

 微笑みを崩さぬままに、セイラはそんな屁理屈をのたまう。

「それ、錬気を使った戦闘を認めるとも言ってないと思うんだけど」

「あら、それじゃあ、使わないの?」

 試すように、セイラは問いかける。

「……どうだろう」

 曖昧に返事をした直後――俺は真横に跳んだ。

 ドゴオッ、という音とともに、青色をした透明感のある、どことなくタケノコめいた形状の突起が地面から生え出た。先刻まで俺が立っていた場所だ。

 俺は、タケノコのような突起からセイラへと視線を転じた。

 彼女は悪びれることもせず、肩をすくめていた。

「カミネさん、それ、ずるいと思う」

「使いたいなら、リュウトくんもどうぞ?」

 悪戯っぽく、彼女は微笑わらう。

 まあ、あっちが遠慮なく錬気使ってるに、こっちがルールうんたらと言うのもバカバカしい。

 そもそも俺が模擬戦で錬気を使わなかったのは、ルール云々よりも真剣にやる気がなかっただけのことだし。

 というか、やっぱりセイラも結構な量を持っていたんだな。

「……じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 俺の言葉に、にぃっ、と彼女の口の端が引かれたのが見えた。

 タケノコめいた突起の透明度が、すうっと薄くなっていき、やがて消える。幽霊の姿がだんだんと薄れて見えなくなるように。ドライアイスが、常温で大気中に気化していくように。

 そして。

 俺とセイラの背後から、錬気で形成された触手が現れた。

 色はどちらも青。見た感じでは、俺の方がやや濃い青だ。

 セイラの錬気が、タコの触手のようにうねり、かと思えば沸騰した液体のように表面が泡立ち、不定形に太みを増していく様は、不気味に見える。けど、見方を変えてみれば、それだけ繊細な制御ができるということでもある。

「で、これ咎められたらどうすんの?」

「んー、そん時はそん時」

 とても優等生とは思えない答えだった。

「……適当だね」

「人生ってそういう方が楽しいでしょ」

 彼女の奔放な言動に、思わず苦笑してしまう。

「もうそろそろ模擬戦の方に戻らない? 時間は有限なんだし」と、セイラ。

 たしかに、三分というのは以外にも短い。カップラーメン(幻の食品)がすぐに完成すると錯覚してしまうほどに。

「うん、そうだね」

 かくして、俺とセイラは第二ラウンドへと突入した。

 魔法を絡めた格闘戦、とどころか、錬気まで使った戦闘だ。

 細かな戦闘描写は割愛することにして、結果だけを簡潔にまとめて発表するとすれば……残り二分間あった俺たちの戦いは、結局勝敗が決まらずに引き分けに終わったのだった。

あらすじなどでも書きましたが、しばらく更新頻度がガクッと落ちます。

……次更新できるのはいつになることやら。

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