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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
第1部 第1章 ソージック学園入学編
6/102

4,爆発事故

      ◇


 ソージックに入学して十日ほどが経った。

 学校の生徒はやはり、俺をカワキの神子だと思っているようだ。

 この十日間で計九人、魔法を教えてくれないかと頼みに現れる生徒たちがいた。同級生なら、憧れの念で純粋に教えてもらおうと思ってのことかもしれない。けれど、俺の前に現れる生徒はみな上級生だった。彼らの本性に、俺に対しての皮肉が込められていたのは言うまでもない。

 勉強ではなく魔法を教えてほしいというのも、隙を見て魔法で攻撃するための口実にすぎない。ちょっとぼくの魔法見て、と言い、魔法を発動して俺を撃つ。そんな手口が、十日間で九回も。入学式のを含めれば、俺は十回も襲われている。

 俺に攻撃してくる上級生の気持ちも、わからなくもない。神子とかいわれて調子に乗るなよ? と思っているのだろう。しかしそれを考慮してもはた迷惑な話だ。

 さすがに高年部の先輩方は突っかかってこなかった。もっとも、彼らは教棟を挟んで向こう側の後棟にいるから、そんなに会うこともないわけだが。

 けれど、今日ばかりはその上級生たちの嫌がらせもない。

「え~、明日はこのジビロンで最新技術を開発・研究している研究所に見学に行きます。時間割通りではないので、荷物は要りません。そうそう、最終学年の先輩たちも一緒だからね」

 昨日、帰りのHRでレアが言っていたことだ。

 そして現在は朝の七時五十分。

 ソージックの校門前には、大型バスが五台ほど並んでいた。バスのフロントガラスには札が掛けられており、それぞれに1、2、3といったぐあいに番号がふられていた。

「私たちは十五年Aクラスの人たちと一緒に2番のバスです。遅れないようにねー」

 そう言って、レアは2番とふられたバスに乗りこんでいった。俺たちも同様にして続く。バスの後ろ側の席は、すでに十五年生たちで埋まっていた。俺たちは前側らしい。

「リュウト、前の方に座ろうぜ」

「ああ」

 俺とテラは運転席側の前から二番目の席に座った。

「みなさーん、ちゃんとロック・・・はするんですよー」

 レアの声が車内に響いた。

 俺たちは言われたとおり、ひじ掛けに増設されているロックのボタンを押した。ネワギワの世界において、シートベルトという概念は存在しない。

 代わりにあるのがこのロック機能だ。魔法により特殊なバリア領域を展開して着席者の身体をある程度の自由を残して椅子に固定するのだ。シートベルトよりはるかに簡単だ。ボタンを押すだけなんだから。

 ネワギワの技術力は俺の前世の21世紀頃のものと同レベルだが、魔法を組み込むことで飛躍的に便利度が増してる技術ものがいくつかある。逆に魔法を使っても及ばない技術もあるが。

 バスは平常運転で動き出した。向かうはジビロンでの技術開発研究の中枢。確か研究所の名称は「ユグシルナ研究開発機関」だったか。

 ちなみにバスでの移動中は、寝るに限るというのが俺の持論だ。実際、今はあんま楽しいことはないし、面白い物もないし、嫌がらせのせいで疲れてるし、早起きしたせいでそもそも眠いし、前の席ではレアと十五年の担任の先生が会話してるし。最後のは関係ないかな。

「おいリュウト見ろよ!? すげえぜ!」

 窓側のテラは、俺を寝かせるつもりがないらしい。こういうところはやっぱ年相応だ。

「……眠い」

「お前も見てみろよ!」

 見たところで何だというのだ。疲れが癒されるわけでもないのに。

 ……ふと、視線を感じた。

 何気なく、横に視線をやった。もちろん窓側じゃなくて廊下側に。

 こちらを睨む目と、目が合った。誰だったか。あの真っ赤な髪に猫のような目は……たしかリン・ホルミナだったはずだ。廊下を挟んで向こう側、俺たちと対になる席だった。

 リンは俺をじっと見ていた。例の不機嫌そうな眼差しで、軽くむくれ面だった。

 そのまま見つめあう気もなかったので、視線を前にもどす。

「リュウトってば。おい!」

 テラは相変わらずはしゃいでいる。

 なんというか、若いおさないっていいな。退屈しないで済んで。後方を見てみると、十五年生たちはほとんどがもう寝ていた。彼らにとって、この時間のつぶし方は俺と同じバス内睡眠らしい。彼らにしてみれば、適度に揺れる車内も、ワイワイとはしゃぐ一年生たちの声も睡眠欲を増幅させる要素にすぎないのだ。俺の場合、ピンポイントでテラが喚くから眠れないが。

 改めて、退屈しないってのは羨ましい限りだ。目的地まで、まだまだ一時間以上はかかるというのに。テラたち一年――俺は除くが――を見ているとつくづくそう思う。


 ちなみに、寝ていない十五年生たちは皆車酔いで青い顔をしていた。乗り物酔い対策については、魔法を使っても前世での21世紀の技術とそう変わらない。


      ◇


 大国ジビロンのテクノロジーの開発、研究の中枢機関「ユグシルナ研究開発機関」。

 ルーク・キミラという男は、その研究所内にある応接間のソファに座っていた。

 この部屋に通されてすでに三十分ほどの時間が経過している。ルークは面会希望の博士が来るまで、ただ待っていた。

 研究所ここへはある目的のためにきている。彼の仕事・・に関する重要な要件だ。

 やがて応接間の扉が開き、白衣を着こんだ老人が入ってきた。

 すかさず、ルークは立ち上がって頭を下げる。

「ご無沙汰しています。ガード博士」

「うむ」

 ルークの挨拶に、ガードと呼ばれた老人は片手を挙げて答えた。口元に蓄えた白ひげを撫でながら、彼はルークを観察するようにじっくりと眺めた。

「久しぶりだね、ルークくん。確か最後に会ったのは君が二十歳の時か。とすると今は三十歳かな」

「三十一です。博士は全くお変わりありませんね」

「む、それは昔から私はジジイだと言いたいのかね? 随分とデカくなったじゃないか。口も、そして体の方も」

「はあ。身長はあれから一センチしか伸びてませんが」

 ちっちっち、とガードはルークの目前で指を振る。

「ガタイの話さ。筋肉がついてるじゃないか。初めて会った時からずっと思っとったが、やはり巨人のようだよ、君は」

「そうですかね」

「うむ、そうさ」

 ところで、とガードは急に声の調子を下げた。

「また復帰したんだって?」

「……はい、お恥ずかしながら、また現場を任されまして」

 頭を掻きながら、ルークはまた少し頭を下げた。

 ガードの顔が、不快げに歪む。

「職員の安全は無視と来たか。いやまったく、君も、国のために自分を売れと言われて迷惑してるんじゃないのかね?」

 ガードの声は、少し荒い調子だった。しかし、ルークの顔にはそんな彼を宥めるような、困ったような笑みが浮かんでいた。

「我々は安全を守る為に日々、働くのです。我々が安全区域にいてはそもそも守れないでしょう? 博士だって守れませんよ」

「うむ、それは困るな。で、位はまた部長かね?」

 その問いに、苦笑いながらの頷きが帰ってくる。

「ふん! おめでとさんよ、キミラ部長・・

 言葉とは逆に、ガードがちっとも祝っていないことは明白だった。

「それででしてね、今回うかがったのは……」

「ああ、知ってる。取りに来たんだろう? 今の安全委員の新しい戦力を」

「はい、昔使ってたやつで十分だって言ったんですが、上が……」

 申し訳なさそうな声音で、ルークが苦笑する。

「仕方あるまい。君が抜けてもう十年は経っている。そちらの技術・・・・・・でいえば、この期間はデカい。すでに世代は二つは越えてる。今回君に造ったのは、どちらも最新式じゃ。ま、君なら使いこなせると私は信じておるよ」

 付いてきたまえ、とガードは踵を返して応接室を出て行った。ルークも、脱いでいた上着を片手に持ちその後を追った。

「今回は誰と組むのだ? たしかレオはもう引退したんじゃろう?」

「はい、今度は私が補佐される側になりました。今のパートナーは、レオ先輩の姪です」

「ああ、リミアンか。あの娘も職員になっとったな、そういえば」

 会話をしながら、二人はエレベーターの前まで来た。

「そういえば博士。世代が変わってると仰いましたが、具体的には何が変わったのですか?」

「ん? そういえば君は今現在の主力がどういったものか知らなかったのか」

 ちょうどその時来たエレベーターの中は好都合にも無人だった。

 二人はエレベーターに乗り込み、ガードは地下三十階のボタンを押した。


 おーーーーーーーーーーーーん


 止まっていたエレベーターが稼働しだす。

 やや間があって、ガードは静かに話しだした。

「大まかな違いは、まず新しい動力源の活用だな」

「新しいって、……まさか!」

 信じられない、とばかりにルークが目を見開く。

「あの噂は、本当のことだったんですか!?」

 つい我を忘れて、彼は怒鳴っていた。それは彼が復帰する以前の職場で、ちらりと耳にした噂のことだった。

「うむ」

 ガードは、そんなルークの形相を見ても一歩も退かなかった。ただ一言と、肯定の頷きをして、

「『Kr因子』だよ」

 さらに一言、ルークの言う噂を正真正銘の現実だと認める言葉をゆっくりと口にした。

「そんな……なんで」

「君の言いたいこともよくわかるよ。あんな危険な代物を燃料に使うのは私たちとしても納得しかねる指示だった。しかし、上はそれでもそうしろと言ってきてね。それだけ形振り構ってられんのだろう。危険だが、確かにあれは強力だからな」

「だとしても、何故なんです! 周囲に人がいる状況で暴発でも起こしたりしたらどうするんですか! その場合、我々は懲戒処分では済みませんよ!」

 それは心からの怒号だった。けれど、それでもガードの表情はぴくりとも動かない。ルークの指摘した事態について、老人はすでに覚悟を決めていたのだ。

 それに、

「たしかにそうだな。だが、使用するKr因子は危険値を遥かに下回る量だ。取り扱いに注意すれば君が危惧している暴発なんて事故は起こらん。万が一にそんな事態が起こったとしてもだ、Kr変質者は決して出さんさ。出してたまるものか」

 ガードの静かな声が、ルークを鎮めようとする。

「多数のセーフティをかけて、危険値に上るまでの量では使用できんようにしてある。それに、内部容量分を一気に使うことはできんように設計しているしな。これが、私たちにできる精一杯の措置だ」

 ルークが押し黙った。

「しかし……」と言いかけるが、何も反論できない。やがて、諦めたようにルークは肩を落とした。

「……すいません。私が軽率でした。博士たちが、あの研究所・・・のスタッフのような、外道なことをするわけがないのに」

「構わん。私も少しカッとなりすぎた。ただ私たちはできるだけの安全は保証するが、それでも一〇〇パーセントではない」

 そこで一旦止めて、ガードはルークに正面から向き合った。その目が、ルークの目を射抜く。

「残りの不安材料は、君たち現場の者が潰すのだ。我々はもう、間違いを犯してはならない」

 老人の目は、ことさらに真剣だった。だから、ルークはその目を真正面から見つめ返す。

「はい!」




 地下三十階は、他のフロアといささか雰囲気が違っていた。

「ここは普段立ち入り禁止だからね」

 何気なく呟いたルークの疑問に、ガードは人差し指を立てながら答えた。

「他と比べて職員がいないのはそのせいさ。ここに来ることができるのは私と、後は開発部の部長たちぐらいのものだ」

 しんと静まる廊下を歩きながら、ガードは語る。

「そんな少人数で大丈夫なのですか?」

 ルークは思ったことをそのまま口にした。

「それは君、あんな物を造るには当然、Kr因子も必要になってくるだろう。それも、ほとんど危険値の量をな」

 ルークの顔が、わずかに歪んだ。

「若い奴の中にはあの因子を中途半端に認識しとる奴が多くてな、やれ汚染されるのは御免だとか、そんな危険物を造るのは嫌だとか、全く呆れてしまうものさ。さっきも言ったがあれに燃料として使う量は危険値をはるかに下回る数値だ。なのに奴らは大量に用意したKr因子をそのまま使うと思っとるらしい。試験や試作型に使うという発想がないのかね?」

 想像力が足りなすぎる、とガードは溜息交じりに嘆いた。

 やがて二人は「第一演習室」とプレートが付けられた扉の前で止まった。

「ここ。ここに置いてあるよ。今回君に渡すモノは」

「何故演習室に?」

「そりゃあ君、実際に軽く使ってみたまえよ」

 ガードが部屋の扉を開けた。

「びっくりするぞ。なんせ十年前とは比較にならんからな」

 第一演習室はことのほか広かった。製造したぶつを試験するのに使われてるのか、かなり物が散らかっているが。

 ガードは壁際にぽつんと置かれたデスクへ向かった。ルークも続く。

 デスクの上には、やけに物々しいぶつがあった。

「あの……」

 戸惑いがちに、ルークはガードに問いかける。

「これですか?」

「うむ、どうだね? 今ある中では最新式だが」

「……なんだか、想像してたより大きいですね」

 デスクの上には、ルークの見たこともないが置いてあった。

 柄と思わしき部分は細く、目測で一メートルほどの長さはある。その両端に、螺旋状の溝の入ったドリルの如き極太の槍身が取り付けられていた。槍身自体はどちらも一メートル弱ほどの長さしかない。

「というより私は槍術はあまり得意ではないのですが……」

「槍術というより棒術として使った方がいい。それにKr兵器・・・・はもともとの威力も高い。仮に槍として使うはめになってもそこそこはできるだろう」

 はあ、と頷きながらルークは黒光りする槍を手に持ってみた。

 予想通り、ずっしりと重い感触。ルークは体は鍛えている方だ。持てないほど重量には感じないが、これで戦闘を行うのだと思うと正直満足に動ける自信がない。試しに使ってみろというガードの助言も、納得できるものだった。

「じゃあ、ちょっと振ってみますね」

「うむ、ここしばらくは肌身離さずそれを持って身体に慣らすといい。昔と違って、今の君は上司の方なのだろう? 部下と行動を共にするにあたってはかっこ悪い姿は見せられまい」

「……そうですね。そういえば博士、Kr因子はどこに? もしこの近くに保管してあるのでしたら、私の練習は他の場所でやりますが」

「なに心配はいらんよ。場所自体は近いと言えなくもないんだがね。最近導入・・した新しい警備兵を配置しとる。君を排除対象から外しておくがまあ大丈夫だよ。あれ・・がある限りは危険など起こらん」

「一応どこに保管してるのか聞いても?」

「うむ、この部屋を出て廊下をずっと行った先にある『第5研究室』だが。ああそうだ。今日は学園から子供たちが見学に来るから帰る時は裏から出て行くようにな。それと、もうひとつ君に渡すモノだが、あれは基本的に性能を上げたにすぎんから身体に慣らす必要もなかろう。後で君の所に送っておくよ」

「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」

 うむ、と頷いてガードは演習室から出て行った。

 扉が閉まった途端、ルークは表情を引き締めて槍を握った。

 ずっしり重い得物を肩に担ぎ、演習室の中心まで歩いていく。

「……よし!」

 真っ黒な武器を構える。

 昔の仕事の勘を取り戻すため、ルークは一人、己の新たな武器を振り回し始めた。


      ◇


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