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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第4章 リンの恋模様編
45/102

7,デート

      ◇


 午前の九時二十三分。

「やあ、チーっす」

 現れたリュウトは、いかにも軽い挨拶をしてきた。

「お、おはよう」

 あたしも始めでつっかえてしまったが、挨拶を返す。

 待ちに待った――あるいはもしかして来ないでほしかった(?)リュウトとのデート当日――本番。

 あたしたちはソージック学園校門前で待ち合わせていた。

 あれからいろいろと調べてみたが、あたしがプースランドまでの交通手段に選んだのは、「チカテツ」という乗り物だ。

 チカテツとは、二本のレールを案内路とした鉄製車両の運送システムのことで、バスで行くよりずっと短い時間でプースランドに行くことができる。

 かなり便利な技術だと思うのだが、リュウト曰く「これでまた一つ、ロマンが減った……」らしい。一体、どうしてチカテツの普及がロマンの減退に繋がるのだろう? 本人に訊いてもいつもはぐらかされてしまったし……。

 それと、「ものすごい偶然だな!」とも言っていた気がする。偶然って、一体何のことだろう? リュウトの言うことは、時々意味不明だ。

 あたしたちは最寄りの駅(チカテツに乗車するためだけの施設で、ちょうどソージック前の大通りに一か所配置されているのだ)でジビロン中央区行きのチカテツに乗り、プースランドに向かった。

 チカテツ内には、思ったほど人がいなかった。窓の外は真っ暗。チカテツはレールを地下に敷いて走っているのだ。

 だから、道中の風景を楽しんで時間を潰すという手法は使えない。自然に、時間潰しは相方との会話になってくる。

「一人暮らし!?」

 あたしは面食らってしまった。

 あたしたちは今年で十四歳。つまり、来年でもう成人になる。そんな話題からどう転がったんだったか、リュウトはどうやら、来年から一人暮らしをしたいと両親に言ったらしい。

 迷惑かかるとか、考えないのかな?

 まあ、成人式のようなものだから、ワガママを通してしまったんだろう。リュウトって、実は結構人に迷惑をかけない性質だし。

「うん、最初はショットガンが欲しいって言ったんだけどさ」

 呆れてしまう。

 猟銃なんて、一体何に使うつもりなんだろう?

 訊きそうになって、思い止まる。なんとなく、訊いても仕方ないと思ったから。

 代わりに別のことを訊いた。

「一人暮らしする自信は、あるの?」

 話題を戻す意味でも、そう訊ねる。

「えあ?」

「だから、一人暮らしの自信はあるのかって」

「自信って、例えばどんな自信が必要なのさ?」

 訊かれて、あたしは言葉に一瞬詰まった。正直、勢いで言ってる節があって具体的には何か意見があったわけではないのだ。

 しかし、一人暮らしをする上で出てくる問題など、少し考えてみればすぐに思い付いた。

「その、食の問題とか……」

「……一人で料理できるかってこと?」

「うん」

 リュウトが料理できるなんて話は、聞いたこともない。

「うーん。並みにはできると思う」

 と、あたしの予想の斜め上をいく答え。

「手伝う?」

 どうせ食べるなら、普通の味(仮定)よりは、もっと美味しい味の方がいいだろう。二人で作った方が何かと便利だし。そう思って言ったのに……、

「リンって、料理できたの?」

 なんとも失礼な返答があった。


「っ、できるわよ!」


 思わず、声が荒いだ。まあ、少なくともリュウトより上手く料理できる自信はあった。

 違う。そんなことを言いたいんじゃない。

 告白するって覚悟を決めたのに、怒鳴っちゃってどうするんだ。

 これじゃ、先が思いやられてしまう。

 あぁ、こんなんじゃダメだ。

「えっと、料理については自分一人で充分だから、いいよ」

 あたしが自虐している間に、当の話題はリュウトの方で勝手に解決してしまった。

「でね、リン」

 そして、リュウトが何やら耳打ちしてくる。

「一応、ここ公共だから、大声は控えて」

 さっきの怒鳴り声をたしなめられて、あたしはチカテツに乗っている間中、ずっとしゅんとしていた。


 ここで、あたしとリュウトの今日の服装について言っておこうと思う。

 あたしが今日着ている服は、白のワンピースの上に黒色のはおり物だった。あと、日射病対策に白のハット帽を被っている。

 リュウトの方は、なんと言おうか、一言で表すのなら「黒づくめ」だろうか。黒のTシャツに黒のズボン、帽子の類は見られない。真夏だというのに黒が基本とか、暑くないのかな?

 まあ、簡単に言うと地味だった。目立つ服装で来られるのも少し考えようだけど。あれ? この場合は目立つ服装の方がよかったんじゃないかな。はぐれちゃった時見つけやすいし。


 チカテツは、ガタゴトガタゴトと揺れている。

 そして、特に事件的なアクシデントが起こるわけでもなく、約十分ほどであたしたちはジビロン国中央区に到着した。すごく速い。バスでかかった時間の約五、六分の一で着いてしまった。

 駅を出ると、プースランド入場口までおおよそ一〇〇メートルほどだった。

 つい一か月ほど前に見た、あの壮大なテーマパークがまたあたしの視界に入っている。

「あそこか。生で見てみるとすごいな」

 隣で、リュウトが感嘆の声を上げる。

 プースランドに来るのは初めてだったようだ。開園してから間もないし、住んでる場所からここまで来るには距離が離れているから来たことがなくても当然か。

「早いとこ、入場はいろ」

 あたしはリュウトを促した。

 喧騒が聞こえてくる。やはり、あのテーマパークは今日も変わらず人気のようだ。

 九時四十五分頃、あたしたちはプースランドに入場した。




 四月にこのテーマパークに下見に来たあとも、あたしはそれとなしにこのプースランドについて調べていた。

 プースランドは、エリア1からエリア10までの、十のエリアに分けられている。

 エリア1からエリア4までのゾーンには主にアトラクションが多く配置されている。ちなみに、イソラさんの「アオソレーション」はエリア4にあった。エリア5と6はフードコーナーやお土産屋といった店が並んでいて、エリア7からエリア10までは博物館や動物園といった「何それテーマパークなの?」な店――もとい施設が建てられている。

 ――といっても、これは全て、パークでも配布されているパンフレットに載っていることだった。

 入場したあたしたちは、パーク内の人ごみの多さに改めて圧倒されていた。

 ここで告白すると決意したが、一瞬それを忘れてしまうくらい圧倒的な、人の数。

 まだ正午前だと言うのに、親子、家族、友人、カップル……既にプースランド内にいた人の波が入場したばかりのあたしたちにまで押し寄せてくるようだった。

「……えっと、まず、どこから周ろうか?」

 リュウトがあたしに訊いてくる。

 さすがのリュウトも、この人の多さに絶句は隠せないらしい。

「えっと、まずは『ジョーキン―ベルク』に乗ってみない?」

 あたしも、まだ感動状態から抜け出せていなかったが、とりあえずの提案を口にした。

 それから二時間ほど、あたしとリュウトはエリア1から4までのアトラクションを周った。

 待ち時間がやたら長かったパークで人気一のジェットコースター「ジョーキン―ベルク」、大船の中間部分の両脇を長い二本のアームと接続してブランコのように船体をぐらんぐらんと揺らすアトラクション、若干ジェットコースターのような風味のあるお化け屋敷。

「次どうする?」

 エリア3のシューティングゲームのアトラクション「シュートアドベンチャー」から出てきて、リュウトがあたしに問うた。

 パーク内のあちこちに建っているオブジェにある時計を確認してみると十一時五十分。

 もう昼時だ。

 エリア5か6で、適当に昼食を済ませた方がいいかもしれない。

 ……そうだ。そのゾーンにはイソラさんの占いの館「アイソレーション」がある。先にそっちに行くのもいいだろう。

「エリア4に、行きたい所があるんだけど」

 確認をとると、リュウトは快く頷いてくれた。

 そこであたしたちは、エリア3へと場所を移した。

 エリアが変わると雰囲気が変わるのは午前中歩き回ってよくわかっていたが、エリア4はアトラクション集結ゾーンの中でも少し変わった雰囲気だった。

 パンフレットにあるパークの地図を見ながら、目的地の場所まで歩く。一度行ったことがあったけど、あの時はテラの案内の下だったから自分の記憶だけで行くのはイマイチ自身がなかった。

 やがて、一か月前のあの店の記憶と一致する建物があたしの認識の内に侵入してきた。

 人気アトラクションの密集エリアに、ぽつんと構えられた小さな占いの館。近寄りがたい装飾は、店の中に来店すればさらにその拒絶力を増す。

 紫がかった黒の店には、「アイソレーション」という看板があった。もしかして、この一か月で多少は店を改造したのだろうか。前に来た時は、看板はなかったような気がする。

「ここ?」

 店の入り口前まで来た時、リュウトが怪訝な表情を作って質問する。

 答える代りに、あたしは首を一回だけ縦に振った。

 リュウトは「アイソレーション」に視線を移し、しばし黙って見つめた。

「……イソラ――――?」

 ――と、僅かに開いていた彼の口が、そう小さく呟く。

 なんで、その名前……リュウトは、イソラさんを知ってるのかな?

「え?」

 あたしは、怪訝な表情を作ったで声を漏らす。

「ん?」

 リュウトは、特に何でもないというような表情で小さく訊き返してきた。

 どうしたものか。リュウトはさっきの呟きをなかったことにでもしたいのだろうか。

 こういう時は、素直に訊いた方が早い。

「さっき、イソラって……」

「ああ、それ……いや、何でもないよ」

 リュウトは、短く答える。でもそれは、“イソラ”という呟きをなかったことにしたいと言っているようだった。

 でも、一度言ったことを撤回したいなんて、誰にだってそんなことはあるだろう。あたしにもいくらか心当たりがある。

 それに、考えを口に出したはいいが、本当に取るに足らないどうでもいい言だった、なんて状況でも人は「何でもない」と口にするだろう。

 あたしがリュウトの呟きにひっかかりを覚えたのは、他でもないその呟きが「イソラ」だったからだ。

 イソラさんの店である「アイソレーション」という看板を見て、「イソラ」を呟く。これは、偶然なのだろうか?

 もしかすると、本当にイソラさんと知り合いなのだろうかと思って、すぐに心の中だけで頭を横に振った。

 リュウトがこのパークに来るのは初めてだ。なら、このパークに店を構えているイソラさんを訪れる機会などないだろうし、そもそもそれだったら「アイソレーション」を見た時の反応はもっと違うものになっていたと思う。「俺もあそこはしってるよ」とか、そんなことを言ったんじゃないだろうか。

「……そう」

 黙ったままにもできない。

 とりあえず納得したような声を囁いて、しかし頭の中では妙な燻りを抱えていた。何故だろう、リュウトの「イソラ」という呟きについて、嫌に気になる。

 その状態のまま、あたしは「アイソレーション」の店内へ入っていった。

 店内の様子は、特に変わっていなかった。

 外側の様相以上に来店を拒むかのような雰囲気。薄暗い照明と、一面にかけられている紫のカーテンが、その重苦しい雰囲気の正体だ。

 どうやら看板をかける以外で、店の改造はおこなっていないらしい。

 変わらず、空間の奥には占い師めいたイメージの老婆、イソラさんがテーブルに肘をついて椅子に座っていた。

「イソラさん」

「おや、また来たのかい」

 記憶にある、年を重ねたような声。

「はい」

「そうかい。おんや? 今日はもう一人いるみたいだね」

 ちょうど、リュウトも入ってきたところだった。

「おや?」

「……」

 イソラさんとリュウトの視線が交わる。

 やっぱり、知り合いなのかな。リュウトって、年上の女の人と仲いいことが多いし。

 あたしたちは、紫のテーブルを挟んでイソラさんの正面に立った。

「今日は、どんな要件かしら?」

 イソラさんは、ヴェールの奥から興味深そうな視線を投げかけてくる。

「えっと、また占いに……」

「占い? 先月やった占い以外でってことかい?」

「あっ、はい」

 一瞬、ひやりとする。

 もしかしたら、イソラさんはその「先月やった占い」が、あたしの恋愛運についてのことだったと口を滑らせてしまうかもしれない。リュウトの目の前で。

 だが、あたしの不安は杞憂だったようだ。

 イソラさんは、特に疑問に思うそぶりもなく了承してくれた。

「さてと、じゃあ、水晶を使ってみるわ」

 そう言って、イソラさんはどこからともなく透き通るような水晶玉と紫のクッションを取り出す。

「ふむ、ふむ、ふむ、ふむ、ふむ……」

 クッションの上に置いた水晶玉を、じいっと凝視する。あたしもそれにつられて透き通るような美しい球体を見つめてしまう。

 時間にすれば約一分ほど、イソラさんは黙って水晶玉を見つめていた。水晶を通してあたしの未来を視ているような気がして、ちょっぴりゾクッっとした。

「うん、うん、そうだね……背広を着た男に気をつけるんだよ」

 そして、いきなり意味不明な予言(?)を宣言された。

 もうちょっとわかりやすい占いってないのかな?

「あの、どういう意味ですか?」

「うーん……髪の毛は、若干白くなってるかね、でも老けてるってわけでもなさそうだ。うーんと……、背丈は、そこのお兄さんより頭一つくらい高いかね」

 イソラさんは、リュウトを一瞥して言った。

 ダメだ。イソラさんはあたしの言うことを聞いてくれていない。

 イソラさんは何を言っているのだろう。まったくわからない。

 背広の男に気をつけろって、どういう意味なのかな?

「うーん、まあ、そんなとこかね」

 ……終わっちゃったし。

 あたしが何も言わないでいると、イソラさんは今度はリュウトの方に視線を傾けた。

「さて、それじゃあ、こっちのお兄さんも、視てみるかい?」

 リュウトは、ぴくっ、と少しだけ眉を動かした。

「右手を出して」

 優しい口調で、イソラさんが促す。

 リュウトは何故か疑問のある表情をして、右手を差し出した。

 イソラさんの両手が、リュウトの手を包む。


「…………婆さん、どっかで会ったか?」


 ――唐突に。

 リュウトが囁くようにイソラさんにそう問うた。

 え?

 どういうこと?

 リュウトまで何を言ってるの?


「こんなよぼよぼの老婆に何を。ナンパかい?」

 ふざけたように、イソラさんは返す。

「いや、なんとなく」

 リュウトの言葉は、どこか歯切れが悪かった。

 二人はそれきり、何も言葉を交わさなくなった。

 いやいやっ、勝手に解決されても困るんだけど!? 何? リュウトが言ったことって、結局なんだったの? ナンパ?

 あたしが混乱しているうちにも、イソラさんの手相占いは進んでいく。

 その手が、リュウトの右手を丹念に調べていたイソラさんの両の手の動きが、ふと止まる。

 よくよく注視してみれば、イソラさんのまなこは手相占いを視るにはあまりにも細められていた。

「これ、は……」

 何やらそう漏らすイソラさん。さらに、体感時間にして一分ほどの間をおいて、

「……どうなんすか?」

 沈黙に耐えかねたのか、リュウトがイソラさんに訊ねる。

「…………」

 イソラさんは答えない。じっと、リュウトの手相を視たまま固まっている。相変わらず、線に見えるくらいに目を細めて。

「……そうだね」

 イソラさんが切りだすのに、かなりの時間があった。

「これは、少し……あんまり人に言える内容じゃないかね」

 意味不明だ。

 やっぱり占いのことはよくわからない。まだ決まってない未来を言うんだから、あやふやになってしまうのは仕方ないとは思うけど。

「どーゆー、意味でしょうか?」

 リュウトもどこか困惑したような声音だ。

「えっと、ね……」

 言いにくそうにしながら、イソラさんはあたしの方をちらりと見た。席を外せってことだろうか。

 何よそれッ!? あたしの時はテラがそばにいたじゃない!

 ――と、不満の感情が顔を覗かせたが、あたしは呑みこんだ。

「あたし、少し外に出てるね」

 気軽にそう言って、あたしは「アイソレーション」店内から退出した。

 店を出る時に振り返ると、イソラさんがなんとも申し訳なさそうな顔をしていた――ように見えた。顔をヴェールで覆っているので、正確な表情は読み取れなかった。

 外に出て、扉にもたれかかるようにして待つ。

 それにしても、イソラさんの言った「あまり人に言える内容じゃない」って、一体どんな内容なんだろう。

 それから十分ほどがたって、リュウトは「アイソレーション」から出てきた。

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