5,襲撃(2)
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魔杖「クルニール」が出てくるのは、ウバー神話の第四章~第六章、通称「ハダール王の物語」と呼ばれる話の中である。
「ハダール王の物語」とは、ウバー神の加護を授かり、「約束のキャルバ」という聖剣を手にしたハダール・ザー・ナィルソンが、たった一代で巨大帝国都市「ザーナ」を建国し、そして滅亡するまでを記した物語である。
ハダール王には、配下の中から選りすぐられた精鋭七人で構成された直属の護衛兵団が存在し、「クルニール」とは、護衛兵団の中でも特に戦闘能力の高いといわれる三将軍の一人、魔王将=ラ・スパナーの所持していた魔法の媒体物質である。
技王将=ジ・ヴィーローンの所持していた宝盾「ヘーバイト」、剣王将=ミカドが持っていた魔剣「グニグル」と同じに「神魔の武具」の一つに数えられるほどの代物で、それを経由して発動させた魔法は、絶大な魔力を孕んでいるんだとか。
神話であるが故に詳細な情報はなく、狂戦士の化身と言われる「グニグル」や、天秤の両極の異名を持つ「ヘーバイト」のように、異名の類もない。
ただ、その漆黒の杖体は、いかなる衝撃でさえも歪曲することができないほどの硬度を持つとされている。
◆
応接室を飛び出たユハラの視界に、それは出現した。
銀色の金属質なボディ、小山のように巨大な体躯、ずんぐりとした銅と、六本のがっしりとした節足。ザーナ大陸内だけでも男性陣からかなりの人気を誇る、カーカスカブトを模しているような金属の甲虫型ロボットは、最強の警備システムとして開発された「セクトピアン」だった。
当然、この館にも配備されていただろうが。セクトピアンを見た瞬間、ユハラの中に大きな違和感が渦巻いた。
特に何がおかしかったのか、当のユハラにはわからなかった。目の前のセクトピアンに、目立った違和があったわけでもない。ただ、本能が鳴らす警告の鐘に従って、ユハラは真横に移動の向きを変更した。
瞬時に下した判断は正しかったのか。
腹の底から振るえるような轟音が響いた。
もしユハラがそのまままっすぐに進んでいたら、即座にセクトピアンの太いツノが、ユハラの身体を上から叩き潰していただろう。
金属のボディを持った機械昆虫は、顔面部をのそりとユハラの方へ向ける。
――直後、セクトピアンの腹部が左右に割れた。
明確な攻撃対象を認めた警備システムは、甲虫のフォームを、逞しい巨人の形態へと変形させていく。
その様子を睨みながら、ユハラはベルトにくくっていた金属製のボールペンサイズの棒を手に取った。安全委員が開発したKr兵器を召喚するための機構を備えた魔導兵器、ゲート。
Kr兵器を召喚する光が、ユハラの手の中で瞬く。
ユハラの手に収まったのは、バズーカ砲くらいの太さの筒だった。
キャノンタイプのKr兵器は、通常は補佐役の安全委員職員が所持するものである。
安全委員は、経験を積んだ者と比較的新人の二種類の職員による、ツーマンセル以上の集団行動を基本としている。補佐役はその集団の中では経験が少ない者がなるが、キャノンタイプが支給されるのは、援護射撃という安全な遠距離からの攻撃で戦いの経験を積ませる目的がある。
ユハラは補佐役でも、まして援護される側でもない。集団行動を基盤とする安全委員では少数の、単独行動で動く職員なのだ。
となると、所持するKr兵器は遠距離が基本となるキャノンタイプよりは、中~近距離用の物が望ましいのだが。
黒光りする筒を抱え、ユハラはセクトピアンに肉薄する。
シルバー色の巨人は、巨大な剛腕を振り上げた。単純で、緩慢な動作。しかし、それに内包した破壊力は計り知れない。
ユハラは巨人との間合いが三、四メートルほどに縮まった瞬間、スライディングするように身体を後ろ向きへ倒した。やや前傾だった体勢からスライディングの姿勢に移るには、どちらかの片足を前方へ蹴り出せば事足りる。
右足を前にぴんと伸ばし、左足の膝と右足の踵で床を擦りながら、ユハラの前進するスピードは微塵も緩まない。
剛腕が、ユハラの頭上を掠めていく。
後ろで強力な破壊の音を聞きながら、ユハラはキャノンタイプのKr兵器を構えた。スライディングしながらだが、この至近距離ならば狙いを外すこともない。
狙いは胸部。
銃口から、強大なエネルギーの塊が発射される。
エネルギーの塊は、巨人の胸のど真ん中に命中し、その巨躯を真上に弾き飛ばした。天井にぶつかり、ユハラが滑り抜けた後に落ち込む。
「……何故、セクトピアンが……?」
立ち上がり、振り返ってセクトピアンを見下ろしたユハラが、小さく囁いた。
巨人の体をした金属の塊は、既に活動を停止させている。一体何故、本来はこの館を守るためにあるはずのガーディアンが自分を攻撃対象と認めたのか、ユハラは訝った。
だが、すぐにその思考をやめた。
今はそれどころではない。
ミラーツ館は、五階建てで、二階以上の階は中央部分が丸い吹き抜けになっている。金属の巨塊と化した巨人から視線を外したユハラの視界には、地獄絵図が広がっていた。
あちらこちらに、剛腕を振るう巨人と、ツノを振りまわす巨大な甲虫。それらに蹂躙される一般の客たち、襲撃者たちを食い止めようとして逆に返り討ちにされているミラーツ館の警備員たち。
おかしなガーディアンは、一機だけではなかった。
「大変だ……!」
言うやいなや、ユハラは階の中央の吹き抜けへ向けて走り出した。落下防止用の柵を楽々と飛び越えて、一気に一階へと降り立つ。安全委員という仕事柄、これくらいのことならば既に身体強化をするまでもない。
ミラーツ館一階は、ネワギワの世界の歴史関連の財産や聖遺物(レプリカ)を展示している。
重要な展示物が、本来は守る側であるマシーンたちによって破壊されている。
他の階と違い、一階の一般客たちは少なかった。一階という関係上、すぐに逃げることができたのだろう。何にせよ、戦闘において邪魔になるような障害はない。
ユハラは一番近くで腕を振り回していた巨人にKr兵器を構え、必殺の一撃をかました。胸を穿たれた巨人は同胞たちを数機巻き添えにしながら、驚くほどの距離を吹っ飛んだ。
ユハラは周囲へ視線を巡らせる。
稼働しているのは全部で七機。三機が巨人態で、四機が甲虫態。
ユハラは冷静に、倒しやすい巨人態の方に狙いを絞る。
一発一発の威力を重視すると、たしかに絶大な破壊力を得られるが、反面、エネルギーとKr因子の消費は激しくなってしまう。一発でも外すことは許されまい。
冷静に狙いを定め、引き金を引く。
エネルギーの巨塊が発射され、巨人の一機の腹部を襲う。
弾き飛ばされた巨人の体が、ちょうど数百年前の大戦終結の記念の石碑のコピーを砕いた。しかし、もういちいち構ってはいられない。
敵側に動きがあった。
甲虫の形態を取っていたセクトピアンが、一斉に腹部をVの字に展開していったのだ。残りの六機全機が、巨人形態でユハラに迫る。
焦らず、次の標的に狙いを定めて、ユハラは引き金を引いた。
一階にあった展示物は、主に襲撃してきたガーディアンの破壊活動と、ユハラが倒した際に吹き飛ばしたガーディアンの機体によってめちゃくちゃな状態になっていった。
(後始末が大変なことになりそうだな……)
残り二機になった時、ユハラは呑気にそんなことを思った。
――直後に、場の空気が凍った。
「――――!?」
もしかすれば、それは錯覚だったのかもしれない。
正体不明の緊張感に、ユハラは一瞬だけ混乱した。
自分はさっき、何故ぞっとした?
何故、あんなに身体が強張った?
――それは、本能的な「脅威」に対する恐怖か。
ユハラは今現在戦っている二機のセクトピアン巨人態に十二分に警戒を払いながら、視線を上に向けた。視線を向ける先に、特に意味があったわけでもない。あえて言うなら、ここは一階だからだろうか。
ユハラの視界に、「脅威」は映らなかった。ユハラが認めたのは、暴れ回るセクトピアンたちと、蹂躙される一般人、セクトピアンを止めようと奮闘する警備員たちだけだった。
ユハラは意識を目の前の敵に戻した。
向かってくる二機の内の一体を狙い、エネルギーの砲弾を打ち込む。
向かってくるセクトピアンの一機が崩れる。二発目を撃とうとして、ユハラは慌てて回避に切り替えた。
一撃の威力を重視すると、砲撃直後に硬直があったのだ。
最後のセクトピアンは、長大な剣を持っていた。それを横凪ぎに振るおうとしていたのも、ユハラが回避に転じた理由だ。リーチの問題上、あと少し遅かったらユハラは上半身と下半身に分けられていただろう。
転がるようにして巨人の一振りをかわし、すぐさまKr兵器の狙いをつける。
だが、その時には……ユハラが膝立ちの体勢でKr兵器を構えた時には、既にセクトピアンも第二撃目を薙いでいた。
「…………!」
とっさに後ろに倒れようとしたのが幸いしたのか、それとも、もともとユハラの回避距離が足りていたのか、セクトピアンの長大な剣はユハラのすぐ目の前を通り抜けた。ぶんッ、という風を切るような音が、いつまでもユハラの鼓膜を震わせるかのようだった。
Kr兵器を構えなおそうとするが、金属の巨人は今度は剛腕を上から振り抜いていた。
「――――」
巨大な拳が、銃身を捕えた。
それだけで、その刹那だけで、ものすごい重圧が発生するのがわかった。
堪らずに、ユハラは背後に跳び退った。
ほとんど膝立ちの状態で、一体どうやってそこまで跳躍することができたのか。
重圧は、上から下へと振り抜かれていた。ユハラが跳び退いた時、そのあまりの“圧”にユハラはKr兵器を手放していた。
セクトピアンの拳が、黒光りする筒を床に叩きつけた。
大理石でできた床が、激しい破砕音と共に砕け散り、宙を舞う。
ユハラは、軽い舌打ちをした。
Kr兵器は、強力な威力を持つが為に器そのものも頑丈に造られているが、これで今のユハラには武器がない。
「…………?」
ふと、ユハラは自分の両手に違和感を感じた。
……微かに痺れている。
巨人の、鉄槌のような一撃を感じたのはほんの一瞬の時。たったあれだけの接触で、ユハラの両手には耐えがたいほどの負担がかかったということか。
床に拳を振り抜いた体勢だった巨人が、ユハラを向く。
長大な剣を握る腕が振り上げられた。よく見れば長大な剣は、巨人が甲虫態をとっていた時の頭部のツノだった。変形の過程で、巨人態の時は武器として機能するらしい。
明らかにユハラは間合いの外だった。にもかかわらず、巨人は剣(ツノ?)を振り下ろした。
剣が振り抜かれた。連鎖する衝撃波が発生する。
「――あ!?」
ユハラは絶句しそうになったが、すぐに横に跳ぶ。ユハラがいた場所を、衝撃波の嵐が襲う。
たらりと、ユハラの背中に嫌な汗が流れた。
仕方ない、とユハラは胸の内でそう割り切った。出し惜しみしては、殺されるのは自分だ。
ベルトにくくっていた、さらに二つの金属製の棒を取り出す。
両手に一つずつ持って、ユハラはKr兵器を召喚した。
光の瞬きの後、ユハラの右手には白刃の大剣が、左手には青の槍があった。
白刃の大剣は、剣というよりはノコギリや包丁といった印象だろうか。厚みもそれほどはなく、刃と峰の区別も遠目にはつかないだろう。刀身には折れ刃式のカッターナイフのような切れ込みがあった。
青色の槍は、白刃の大剣よりさらに奇形だった。槍身は五つの鉤爪のような突起物の切っ先が一点に合わさるようにして形成され、柄は年代物の銃のグリップように緩やかなカーブを描いている。
無論、量産型でない故にそれぞれ固有名称を持っており――付けられており、白の大剣が「シロⅠ」、青色の槍が「アオⅡ」だ。
共に、ユハラが所持する専用のKr兵器で、キャノンタイプのような量産型ではなく、故に最大火力は量産型を上回る。
安全委員内でも、Kr兵器を三つも携帯する者はそういない。ユハラを除けば、ジビロン支部現総部長ライオネル・アンダードくらいだろう。
巨人が、ユハラに迫ってくる。長大な剣ではなく、ハンマーのような拳を振り上げて。
ユハラは避けるでもなく、シロⅠをやや斜めに床に突き立てた。大理石の床に、まるで豆腐を切るようにカッターめいた刀身が突き刺さる。
ユハラがやったのは、大剣の腹で巨人の拳を防ごうとする防御の構えだった。
剣の盾が巨人の鉄槌を迎え撃つ。その瞬間、ユハラは大きく腰を落とした。身体全体で刀身を支える体勢になるとともに、刀身の陰に身を埋める。
白刃の腹越しに、ユハラは剛腕の威力に抗った。
既存のKr兵器の中でも、ユハラのシロⅠは随一の硬度を誇る。その防御性能と、ユハラの全力の踏ん張りによって、セクトピアンの拳を完全に防ぎきった。
ユハラの反撃の番だ。
右肩で主に剣の腹を支えたため、右腕は悲鳴をあげていた。
それでも、今が反撃の好機なのだから。
床に突き立てたままの大剣を片足で踏み押さえながら、左手に握る奇形な槍の先を巨人に向ける。
ぱかりと、五つの爪のような突起物が、外側に向かって開いた。
狙いの先はこれまでと同様、胸部のど真ん中。
そう。ユハラのアオⅡは、近接戦闘型の武器ではない。本来は中~遠距離での戦闘を想定して造られている。近接戦闘も視野に入れた構造は、ただの保険でしかない。アオⅡは、キャノンタイプのKr兵器なのだから。
エネルギーの充填は、量産型のそれを越える早さだった。
ばちばちと火花を散らしながら、アオⅡは五つの穂先の中央から絶大な破壊を発射した。
威力もまた、量産型以上だった。
青白いエネルギーの弾は巨人の上半身部を丸ごと消し飛ばし、その軌道上にあった展示物や柱は纏めて融解させてしまった。
「…………ふう」
一階の敵は全て倒した。だが、上の階はまだ手付かずだ。
あわよくば警備員たちがまさかの大逆転を納めていないだろうか、とユハラは冗談混じりにそう思った。
やはり、希望的観測はあくまで希望だった。上の階からは、悲鳴や破壊音が響いている。
ユハラはアオⅡを逆転送式を起動させて金属の棒に戻し、先ほど巨人が床に殴りつけた量産型のKr兵器の所へ行った。
アオⅡの威力は絶大だ。だが、エネルギー消費を考えると、できるだけ温存させておきたいものなのだ。
しかし、そんなユハラの思惑は粉々に打ち砕かれた。
もともと一階はかなりめちゃくちゃな状態になっていたため、黒光りしたあの筒を探し出すには苦労した。そして、見つけ出したKr兵器は、銃身がわずかに拉げていた。
セクトピアン巨人態の一撃は、Kr兵器を歪曲させるほどに強かったということか。
いずれにせよ、この状態で使用などしようものなら発砲することもなく銃身が爆発するだろう。
ユハラは黒色の筒を床に置いた。使い物にならないなら、今これはないほうがいい。
シロⅠを握り直し、二階へ上ろうと足を動かそうとして、空気が変わるのを感じた。
先ほどの戦闘中に感じた悪寒よりさらに明瞭な殺意の波動に、ユハラの足は根が生えたように凍りついた。
勢いよく、上を見る。
吹き抜けになっている館の中央部からは、五階の天井が見える。未だ破壊活動を行っている金属の昆虫と巨人と、逃げ惑う一般客、鎮静させようとする警備員たちの姿が、各階の吹き抜け部分手前に設けられている柵から時折見え隠れする。
そんな地獄絵図のような風景よりも、ユハラの視線は一か所に固定されていた。
五階の柵に、場違いに腰掛けている人のカタチ。
黒装束の、おそらくは男。
彼が、ユハラを見下ろしていた。
ユハラは直感する。
――あいつは敵だ…………
と。
ふらり、と黒い影が動いた。
それが、柵から飛び降りる動作だとわかったのは、男が二階の天井ほどの高度まで落下してきた時だった。五階という高度から、男は頭から飛び降りてきた。
「――――!」
ユハラの右手が勝手に動いていた。
シロⅠの刃を上方に向けて、男を迎え撃つ。剣の腹で受け止めるのではなく、剣の刃で迎え撃つ姿勢。そこに至るまで、ユハラの理性は肉体の動きに一切の干渉もできなかった。文字通り、肉体がユハラに考える間も与えずに、勝手に行動したからだ。
左手で峰部分を支え、来るであろう衝撃に備える。
もしそのまま男が落下するだけならば、男の身体は落下のスピードとエネルギーにより自ら刃に喰い込んでいき、普通に人体を真っ二つにするよりもグロテスクな引き裂かれ方をしたに違いない。
しかし、男は手を突き出した。白刃に向かって、自分から掌を差し出したのだ。
その珍妙な動作にユハラが戸惑う暇もなく、男は差し出した掌から白刃に衝突した。
想像を遥かに絶する上からの圧力が、ユハラの身体にかかった。
「――――うッ!」
絶叫を歯を食いしばって呑みこもうとするユハラは見た。
黒装束の男の掌が、火花を散らして白刃と拮抗している様を。
想像以上の重量感の正体は、男の肉体が切り裂かれずにそのままユハラの力と落下エネルギーの激突になったためだった。
「――――らあ!」
撥ね退けた、といえるかどうかも疑わしい。ユハラとしては男の身体を跳ね返したつもりだったが、実際は男の落下の圧力を受け流すような形になった。
力のせめぎ合いは、どうやら男の落下エネルギーの方の勝ちのようだ。
全身を襲っていた強烈な重量から解放されたユハラは、すぐに男から距離をとる。
男は、黒い外套に身を包んだ青年だった。
髪の毛は黒く、瞳も黒い。背丈は目測で一七〇ほどだろうか。年の頃は、顔立ちから推測すれば十代後半あたりか。やや鋭い目付きの中には、底なしの虚構があった。
「…………」
ユハラはその容姿に、心当たりを見つけた。
あれだ。二年前、ヘルヘイムの定期戦襲撃時に正門前を襲撃した「カリン」の応援に現れたという……。ユハラ自身はカリンによって倒され、この少年と対面することはなかったが、映像資料として彼の存在は認知していたのだ。
たしか、青年の名称は……。
「……シニガミ」
二年前、襲撃事件に際して判明したヘルヘイムの幹部。その実力は未知数だ。
量産型Kr兵器の一撃重視の一発を片腕だけで弾き飛ばしたり、片手だけでKr兵器を握り潰したりと、信じられないような話ばかりが二年前の報告書には残っている。
残念なことに、それを大袈裟なホラ話だと鼻を鳴らすことは、ユハラにはできない。報告書の内容を軽んじることができるほど、安全委員は甘くない。信じられないことであっても、自分はたったさっきその実力の一端を垣間見てしまった。
……もしかすると、自分は「カリン」以上の怪物と出会ってしまったんじゃないか、とユハラはごくりと喉を鳴らしながら思った。




