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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
第1部 第1章 ソージック学園入学編
4/102

2,入学式と洗礼

      ◆


 ソージック学園入学式の前日のことだった。

 入学式準備のために登校していた六学年のAクラスの教室で。

「聞いたか? 『カワキの神子』が明日入学するって話」

 とある男子生徒が、友人にそう訊いた。

「……? 『カワキの神子』って、なに?」

 ぎょっ、と友人の答えを聞いた男子生徒と、近くにいたクラスメイトたちの表情が固まる。

「え? それ本気マジで言ってる? ケンはカワキの神子知らないの!?」

 信じられないと言いたげな口調の男子生徒に、彼は一瞬びくりとした。

「あ、あぁ、うん。知らない」

 彼を見ていたクラスメイト達が、途端に目を丸くした。

「え? ええ!? そんなに有名なの?」

「有名どころじゃねえよ!」

 ぴしゃりと、クラスメイトの誰かが言った。

「カワキの神子って言ったら百年に一人の超天才だぞ」

 そのクラスメイト曰く。

 三歳の時点で簡単な魔法をほぼ全てマスター。

 「年の割に」では済まされないほど並はずれた魔力保有量と身体能力。

 すでにいくつかの魔法大会や運動大会においてジュニア賞を受賞。

 規格外なほど才能に恵まれすぎた、百年に一人の逸材。

「……ズッコいじゃんそれ」

 驚きに顔を強張らせながら、彼はあんぐりと口をあけた。

「もしかして属性・・魔法ももう使えたりして」

「はぁ!? そりゃないぜ。オレたちだって去年やっと地属性ができるようになったってのに」

属性とか使えたりしてたらどうする?」

「そりゃ生意気すぎるだろ!」

 ワイワイと、だんだん盛り上がってくる。

「ていうかさ、本当に空属性使えたらどうなんだろ? 高年の先輩たちでも使える人少ないんだよな。オレたちの学年で言ったらホルミナが風を使えたけど……」

 がたんッと、机から勢いよく立ちあがる音が教室に響き渡る。

 真っ赤な長い髪の女子生徒が、肩を怒らせながら男子生徒達を睨む。

「あっ、ごめんホルミナ。オレたち、君を怒らせようとしたわけじゃ……」

 じろりと睨まれ、言いかけていた男子生徒は沈黙する。

「……わかってるわよ」

 絞り出すように呟いて、女子生徒はまた席に座った。

「ケン、カワキの神子についてひとつ言っとくことがある」

 座った女子生徒を窺いながら、男子生徒は友人のケンの耳元で小さく忠告した。

「イルサ・ホルミナはな、カワキの神子って名前を聞くと怒るからな。あいつの前じゃできるだけ言うな?」

 忠告に、ケンは無言で何度も頷いた。彼の脳裏には、立ち上がってこちらを見たときの女子生徒の、憎しみに燃えた双眸が焼き付いていた。


      ◆


 桜が舞い散るソージック学園校門前にて。

「いよいよリュウトもここに入学ねー」

しみじみとした声で、母さんは言った。

「本当に、時間てのは早いなあ。ちょっと前までヨチヨチ歩きの赤ちゃんだったのに」

「あなた、やっぱり記念に一枚撮りましょうよ」

「うん、そうだな」

 にっこり笑いながら、父さんは懐からカメラを取り出した。写真を撮って即現像げんぞうできる、今流行りのインスタントカメラだった。セルフタイマー機能付きで、俺の知ってるあのインスタントカメラとは比べ物にならないほど薄い。機能のいくらかを魔法で補った結果だ。

「えーっと。リュウト、もうちょい左に寄って。そこに父さん入るから」

 即席で立てた三脚にカメラをセットしながら、父さんは俺と母さんに指示を出した。

「そう、そこ。レミア、もっと笑って」

 ……なんと言うか、世界は違ってもこういうものは変わらないのだ。父さんも母さんも、心から俺の入学を祝ってくれているのが、痛いほどわかる。

「よーしオッケー。いくぞ!」

 準備が整い、父さんが俺たちの方へ慌てて駆けてくる。

 パシャリッ、と。

 記念写真は、思いのほか清々しい気分で撮ることができた。

「母さん、まだ行かなくていいの?」

「え? 入学式って八時からよね。あとー、二十分くらいね。それまでに体育館にはいれば、大丈夫よ~」

 腕時計を見ながら、母さんは言った。

「本当に、嬉しいわ~。リュウトのこんな姿が見れるなんて」

 ……と言ってもね、ソージックは八年生から制服だから、今の俺の服装は普段着だったりする。上等な(もの)を着ているみたいだが、感激するほどだろうか。と思ったが、親にとっては何を来ても感激物なのだろう。

「さ、早く行きましょう」

 また腕時計を見た母さんが、そんなことを言った。

「そうだな。余裕はあった方がいいだろうし」

 ちらり、と周りを見ながら父さん。

 入学式がもうじき始まると言うこともあり、他の新入生やその親たちが登校してくる姿がちらほらと見えた。

「ええ。行くわよリュウト」

 七時四十五分、俺たちは校門をくぐって体育館へ向かった。

「思い出すわねー、あなた。私たちも昔ここから始まったのよ」

「最後にここに来たのは七年前だったかな。確かに思い出すな。レミアや、ゲンやシーラとよく一緒だったなぁ。またあの頃に戻りたい」

 歩いている最中の両親の会話は、やけにしんみりとしていた。




 体育館は、俺が認識している体育館の広さより、遥かに広大だった。

 このソージックで、俺は六歳から二十歳までの十五年間を過ごす。言い換えれば、この学園には十五もの学年があるということ。入学式のような全生徒が一度に集まるような行事のため、こんなに広く造っているのかもしれない。

 新入生の座る席はやはり、というべきかステージのすぐ前だ。縦に五席、横に二十席の計百席分の椅子が並んでいる。今年の新入生は百人ぴったりということだ。

 俺は、遅刻ギリギリで入ったわけではないので、開いている席は苦労もなく見つけられる。なんとなく、後ろの方の椅子に座った。

『えー、ソージック入学式まで、あと十分です』

 アナウンスが流れた。

「なあ」

 頬杖を突こうとした時、横から声がかけられた。

 声の主は、俺の隣に座っていた新入生だった。ブラウンの髪に青の瞳。幼いながらも若干掘りの深そうな顔立ちは、学校などの集団生活で人気者になりそうな印象を与えてくる。

「オレ、テラヴァルト・ドラグランってんだ。よろしく」

 にっ、と笑って、新入生は手を差し出してくる。

「えっと、……リュウト、俺は、リュウト・カワキ」

「そうか、リュウトだな。よろしくな。あ、オレはテラでいいから」

 陽気な声で、テラは尚も俺の方へ手を差し出している。握手に応じると、テラは力強く握り返してきた。

「……よろしく」

「なんだ、元気ないな。リュウトは」

「テラは逆に元気がいっぱいだね」

 おうよ、と頷きながら、テラはまた陽気な笑みを浮かべた。

「ところでリュウトってさ、寮にすんの? それともうちから来るの?」

 ……寮か。

 ソージックでは遠方からの通学者のために寮が用意されている。一部屋で二人までで、結構設備も整っているらしい。ソージック入学案内のパンフレットにも載っていた。

「ううん、家から。そんなに遠いわけじゃないし。テラは?」

「オレは寮だってお袋が言ってたわ」

 はあ、と溜息を吐きながら、テラは肩をすくめて見せる。

 なんだろうか。俺も五歳児だが、テラと話してると五歳の子供を相手にしてる気がしない。

 フルネームはテラヴァルト・ドラグランだっただろうか。彼とは仲良くやっていけそうだ。

「何で笑ってんだ? オレ、顔に何か付いてる?」

「いや、なんかテラとは仲良くなれそうだなって思って」

「……そうか?」

 若干嬉しそうに、テラが訊いてくる。

 その時、またアナウンスが流れた。

『まもなく、入学式を始めます。生徒の皆さんはお静かにお願いします』

 後方からざわざわと聞こえていた話し声が止む。新入生の席の後ろは在学生たちの席で、新入生の保護者の席はギャラリーに設けられている。

『それでは、ただいまより入学式を行います』

「おっと、もう話も終わりだな。オレたち一緒のクラスになれるといいな」

 もう声は出せないので、こそこそとテラは耳打ちしてくる。随分と大人な対応ができるんだなと半ば感心しながら、俺は笑ってこくんと頷いた。

 新しい学校生活(いや、この場合は学園生活だろうか?)。なんだかんだで、結構楽しい十五年を過ごせそうだ。

 校長先生と思わしき人物が壇上に上がるのを見ながら、俺はそう思った。




 体育館での入学式が終わると、今度はクラス分けが発表された。

 俺のクラスは一年Cクラスとなった。幸いなことに、テラも一緒だ。これから楽しくなりそうだ。

 この後の流れとしては、各自の教室へ行き、そこで担任の教師から説明を受けて、あとは解散――だったはずだ。

「リュウト、早く行こうぜ!」

 他の新入生たちが移動を開始したのを見て、テラが俺に提案した。そわそわと落ち着きがない様子は、陽気なムードメーカー的な印象のあった彼とは少し違う。年相応な友人の一面に、俺はくすりと笑った。

「笑ってないで、行こうぜ!!」

「ああ、そうだね」

 はしゃぐテラに引っ張られ、俺たちは1年生の教室へと向かった。

 ソージックの校舎は校門から見て「川」の字のように三つ建っている。真中が職員室や実験室、実技室などがある「教棟」、右側が一年生から七年生までの低年部の生徒の教室がある「初棟」、左側が八年生から最終学年生までの高年部の生徒の「後棟」でそれぞれが渡り廊下で繋がれており、体育館は教棟から渡り廊下で繋がっていた。

 一年Cクラスは、初棟一階の端から三番目の教室だった。

 席は自由らしい。俺とテラは、入学式のように中央の後ろ側にある席を選んだ。俺が最後列で、テラが俺の前だ。

「なーんか、わくわくするなあ」

「……そうだね」

 Cクラス全員が席に着いたころ、教室のドアが開いて俺たちの担任になるのであろう女性教師が入ってきた。

「はぁーい、今年皆さんの担任の先生をすることになったレア・エルスです。皆さん、よろしくお願いしまーす」

 二十代半ばほどの女性教師だった。ほんわかした雰囲気で、まだ幼さの残る顔つきだったが、それは逆に親しみやすそうな印象を与える。

「「「よろしくおねがいしまーす」」」というクラス全体からの返事を聞き、レアはにっこりと頷いた。

「みなさん元気でいいですね。さて、それじゃあみんなにはまず自己紹介してもらいたいと思います。廊下側の席の前の人から順にみんなの前に出て自己紹介してください。自分の名前と、こんな食べ物が好きとか、こんなことができるとか」

「「「えーー」」」と、クラス全体から声が上がる。でも、嫌がってるような響きではない。

 まもなく、廊下側の最前列に座っていた少年がおずおずと席を立ちながら、ゆっくりとした足取りで教卓の前に立った。

「えーっと、ルイス・フラストです。誕生日は七月の二四の日です。よ、よろしくお願いします」

 ぺこりと、ルイスは頭を下げた。同時に、レアが拍手を送り、他の皆もそれに続いた。

 Cクラスは縦横五列の二十五人なので、俺とテラの順番は思っていたより早くに周ってきた。

「じゃ、行ってくるわ」

 テラの順番。小さく言い残して、彼は教卓へと向かった。

「えっと、テラヴァルト・ドラグラン!! 寮暮らしの予定。みんな、テラって呼んでくれ。誕生日は五月の一の日。好きな食べ物はウルスタイガーが使われてるもんなら何でも。目標はとりあえず一年生百人と友達になること。さっきリュウトとは友達になったからあとは九十九人。一年間よろしく!!」

 あれだけすらすら自分を紹介できるテラは、本当に五歳の子供なのだろうか。率直な感想は、本人の前では言わない方がいいだろう。高年部になったときに、昔の笑い話として言うとしよう。それまで、彼と仲良く交流を保っていたら。

 さて、テラが終わって、次は俺の番だ。教卓の前というのは存外緊張するものらしい。教卓に向かうまでの間も然りだ。

「さっきテラくんの紹介でもありました、彼の友人になったリュウト・カワキです。えっと、誕生日は二月の十の日です。よろしく」

 ……なんか、クラスの皆の視線が強くなったような気がする。まあ、自己紹介なんだし注目されるのは当たり前か。

 ぺこりとお辞儀して、どこか空虚な拍手の中を足早に自分の席へ戻った。

「リュウト、あれじゃダメだぜ」

 椅子に座った途端、テラからダメ出しが来た。

「いいさ別に。テラと違って友達は少なくてもいいから。それとね」

 さっきテラの紹介にあった、微妙な勘違いを指摘してやる。

「今年の一年生は百人ぴったり、その中にはテラもいる。だから友達は百人じゃなくて九十九人までしか作れない。あと九十九人じゃなくてあと九十八人だよ」

 あっ、とテラは口をぽかんとあけた。

「よく気づいたな」

「たまたまだよ」

「そうかぁ?」とテラはなおも食い下がった。俺も昔「友達百人できるかな?」の矛盾を知った時は「アハ!」と脳内が閃いたのを覚えているが、そんなに騒ぐことだろうか。

「えーっと、じゃあ次で最後ですね」

 そうこうしていると、レアのそんな声が聞こえた。

 見れば、既に自己紹介は窓際の列にまで進んでいた。

 自己紹介のしめは真っ赤な長髪の女の子だった。つりぎみの目は大きく、笑えばかなり可愛いだろうに、その表情はだんまりとした無表情だった。惜しいかな。

「……リン・ホルミナ。一月の二十八の日生まれ」

 それだけ。ぺこりと、リンは頭を下げた。

 なんとも締まらないしめだ。Cクラスのみんなが気の抜けたように手を叩く中で、リンはすたすたと自分の席に戻って行った。

 椅子に座るとき、彼女は真横の俺の方をちらりと一瞥したが。なんとも不機嫌そうな顔だった。




 自己紹介も終わり、先生はクラスに解散を命じた。

「リュウト、この後ってひま?」

 席を立ちながら、テラが訊いてくる。

「……そうだね。父さんと母さんに会った後なら、時間も取れると思うけど――――」

 そこまで言いかけた時だった。

 突然、教室のドアが勢いよく開け放たれた。

 響く大音響に、教室に残っていた全員がそちらを向く。

 男子生徒だった。背は高く、おそらく俺たちより上級生の先輩だろう。

 何事かと教室中が固まる中、その男子生徒は高らかに言い放った。

「僕は第七学年Bクラス所属のシリウス・エラパードだ。『カワキの神子』がCクラスにいると聞いたんだが」

 教室にいたみんなが、先生やテラでさえ、いっせいに俺を見た。いや、冷静に見回してみれば例の無表情少女のリンだけは、興味がないという風に椅子に座ったままだった。

 けれど、それでも、彼女と上級生以外の教室に残っている十九人分の目は俺に向いている。金髪の上級生が、それに気づかぬわけもなく。

「ふむ、君か。確かに噂通り……」

 まっすぐに、上級生は俺を見据える。

 弁明、した方がいいだろうな、これは。

 どう説明しようか考えだした、その時だった。上級生が突然、右手を俺の方へ向けて突き出してきた。

「才能があるからって、調子に乗るのはよくない。シドーの民・・・・・よ」

 俺に向けられた掌に、淡い光が浮かぶ。

「あの――――」

「『レイ・ベルム』!!」

 滑らかな発音。魔法発動の、詠唱だ。

 掌の淡い光は、一気に光量を増し、そのまま俺に向けて発射された。

 むちゃくちゃだ。俺のそばにはテラもいた。なのに、俺に迫る光球は手加減が一切されてなかった。

「リュウト、危ない!!」

 光球が直撃しようというとき、テラが俺と光球の間にわって入ってきた。しかし、それで威力が抑えられるわけもなかった。

 俺はテラもろとも、後方へと吹き飛ばされた。


 がつん、と重い衝撃が脳を揺さぶる。壁に頭を打ったのだろう。


「うーん、こんなものか。まあいい、これに懲りたら、今後は威張ったりはしないことだ」

 視界が暗転へと落ちる中、そんな言葉が俺の耳に響いた。

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