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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
第1部 第1章 ソージック学園入学編
3/102

1,転生

 この世界は、「ネワギワ」と言う。

 国の名称とかではなく、この世界そのもののことを、人々はそう言うのだ。

 わかりやすい例えなら、悪魔あるいは魔族と呼ばれる生命が存在する世界を“魔界”と呼んだりするのと同じだろうか。


 俺がこの世界に生まれて、今年で六年が経つ。

 見知らぬ天井を見て、見知らぬ二人の男女がいて、自分の身体が小さくなっているのがわかって、生まれ変わったのだ――とすんなり受け入れてから、六年。

 最初は言語もわからなかった。それ以前に、赤ん坊だったので満足に呂律も回らない。

 黒髪黒瞳という両親と思わしき男女の容姿のこともあって、ここが異世界だというのも最初はわからなかった。もっとも、考えてみれば「異世界の人間はみんな外国風の容姿という法則」はないわけだが。

 言語はわからないといっても、それでも何故か、すぐに理解できるようになった。どこかで聞いたことあったっけ? と自分でも首を傾げてしまうほど、違和感なく覚えられたのだ。

 ……呂律がまだ回らなく、積極的に喋ったりもしなかったが。

 俺の六年間は、慌ただしい記憶の中にあった気がする。


 ――そう言えば、こんな記憶がある。

 一歳くらいの時だ。

 母に連れられて、俺は外へと連れられた。どういうわけか子供がたくさんいる施設に連れて行かれた。あわや孤児にするつもりなんじゃないかと思ったりしたが、それは同じく施設を訪れていたのであろう女性と母との会話で杞憂に終わった。

「もしかして、レミア?」

 一人の女性が、赤ん坊だった俺を抱く母親に気付き話しかけてくる。その腕には、俺と同じくらいの赤ん坊が抱かれていた。

 その女性は、母親と同じく、黒髪黒瞳の女性だったように記憶している。

「あら? ……シーラ? シーラなの!? 久しぶりじゃない。元気だった。あら、その子……」

 母親が、女性が抱く赤子に気付いた。

「ええ、去年、生まれの。ねえ、レミアが抱いてる子って、男の子? それとも女の子?」

「男の子よ。二月の十の日に生まれたの」

「二月の十? この子もちょうどその日に生まれたのよ! これって、奇跡ねえ。ね、何時だったの? この子はちょうどお昼の十二時に生まれたけど……」

 所謂、ママさんトークというやつだろう。

 会話の内容は、やはり生まれた子供のことだった。

「じゃあ、この子の方がちょっぴりだけお兄ちゃんね。この子は二月の十になってすぐ生まれたから。ねえシーラ、その子はどっちなの? 男の子? 女の子?」

「この子はね――――」

 他愛ないママさんトークだったが、途中からわけのわからない単語が多くなってきたので、この辺までしか覚えてない。というより、途中から面倒になって聞くのをやめたのだ。

 補足しておくと、俺の母親の名前はレミア。レミア・カワキだ。シーラというのは、どうやら母さんの昔からの友人らしい。

 時折聞き取れる会話の中の単語から、話の話題は教育絡みの展開になっていったようだ。

「レミア、その子六歳になったらどこの学校に通わせるの?」

「この子は、もう決めてるの。実はね、もう二人目もできてて……この子も、お兄ちゃんと同じとこに通わせるつもりよ」

 めんどくさそうにしていると、シーラの胸に抱かれる赤ん坊と目があった。事情はまさに、赤ちゃんのみぞ知る、だが、ものすごい訝しげな表情で睨まれたのを覚えている。


 ネワギワの世界と、生まれ変わる前の世界と、相違点を上げるとすれば、やはり一番に上がるのが魔法の存在だろう。

 魔法とは、体内に流れる魔力を練り、活性化させて発動する、「お決まり」のアレだ。

 ネワギワの生物は、例外なく大なり小なりの魔力を有しているらしい。一人が内包する魔力量は、特に何かしなくとも、身体の成長に伴ってある程度増えるが、鍛えることで更なる高みへも至れるらしい。

 達人の域に達した者は十日間魔法を使い続けられるほどの魔力量になるとか。もっとも、俺自身は魔法の発動法云々については、とても幼いうちから学ぼうなどという知識欲はわかなかったので、あまり踏み込んだ説明はできないのだが。


 ――体内に存在する力、と言えば、魔力以外にももうひとつある。

 錬気と呼ばれるエネルギーで、人間のみが潜在的に有しているらしい。一人に流れている錬気は微量で、それは魔力と錬気が別々の概念だということを考慮しても、魔力より少ないというのを実感できるレベルだ。

 成長や鍛錬によって量を増やすこともろくにできない上、性質そのものが解明されていない部分が多く、また有効な活用法も考案されていないため、魔法に比べて重要視されていない傾向にある。

 一応弁解しておくと、一点への集中で非常に高い“硬度”を得られる。

 だがそれはあくまで硬度であって強化ではない。例えば錬気を使って岩砕きをするとしよう。「岩をも砕ける硬さ」はたしかに得られるだろうが、あくまで硬さであって筋力そのものは変わらない。結局、岩を砕くには当人の素の腕力が必要になってくる。しかも、あまり集中させすぎると肉体に負担がかかってしまう。

 故に、錬気についての研究などはあまり進められていない。錬気がいかに魔法より軽視されているのか、これでわかるだろう。


 その他、俺の前世の世界と違うことと言えば、科学技術についてだろうか。

 魔法というものがあるにもかかわらず、ネワギワの文化は意外にもハイテクだ。

 科学技術の発展具合いも、前世の世界を物差しにすれば、21世紀初期の頃の技術力と同程度に発展している。機械工学、電子工学など、科学をふんだんに活用した技術も普通にある。

 車とか船とか飛行機とか、普通に造られている。産業革命が起こったのは喜ばしいことだとは思うが、何か夢が壊れたような気がしてならない。

 不便な部分はあるが、魔法である程度補ったりしているようだ。

 ……そう言えば、21世紀初期と言ったら、俺はその頃は学生だっただろうか。


 その他、一年という概念や時間の区切り、季節、尺度のあり方なんかも、生まれ変わる前の認識と変わらない。

 一つだけ違和を言うとすれば、季節と暦にずれがある点だろうか。四月あたりから春と認識されていた前世と違い、ネワギワの春は一月からと認知されている。一月の春から一年が始まり、十二月の冬で一年が終わる――といった感じだろうか。こうなると必然的に、「早生まれ」という言葉は概念そのものが存在しないことになってしまう。……さしたる問題にも思えないが。


 二月の十の日に生まれた俺は、随分と早い時期に生まれたといえるだろうか。前世に置き換えるとすると、五月あたりに生まれたということになる。生まれ変わる前は、七月の下旬あたりだったかな。


 ……ちなみに言うと、異世界ファンタジーでよくある「冒険者ギルド」なる施設は存在しない。ハイテクなこのご時世、冒険者になるよりもっと確実で、もっと効率的な冒険方法があるからだろうか。冒険者になる気などさらさらないが、なんとも寂しい現実だ。


 そんなネワギワでの異世界生活も六年目。

 この世界では、六歳になる年から学校への入学が許可されている。ネワギワの教育制度は、前世の日本とは違うシステムだ。まず一般に、六歳から二十歳までの十五年間が在学期間になる。高校と大学の時間が義務教育化したと解釈できればしっくりくるだろうか。そのくせ留年なんて制度は普通にある。なんという鬼畜な教育制度だ。

 今年、俺が入学するのは、ソージック学園。

 このザーナ大陸の東部を占める大国「ジビロン」内において、もっとも有名な教育機関だ。俺の現在の両親の母校でもある。


 メルーラ歴2306 一月の二の日、春。

 新たなる年度の始まりと共に、学生たちにとっての新生活も始まる。

 今年のソージック学園も、新入生の入学を盛大に祝っていた。


      ◇

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