3,ハイ・サヴァイヴ
第五競技ハイ・サヴァイヴ新人戦、第一回戦ソージック対レタデミー開始まで約七分前。
ソージック学園選手控室にて。
「やっぱ獣族がな~」
俺を含める新人戦選手四人と輪を作り、トムは苦しそうに唸った。
既に件のユニフォームには着替えてある。ゴム製の黒タイツ姿に、ジャンパー質のぶかぶか半袖半ズボンという例のスタイルだ。
後は、何か激励の言葉でも受ければ俺としてはそれでいいと思うのだが。
「先輩、俺たちもう出場しないと時間がないです」
言っている間にも、開始までの残り時間は刻々減っていく。
「うあああああ!!」
頭を掻き毟り、軽く絶叫するトム。試合前のリンのようだった。
「……あんまり強くやってると禿げますよ?」
冷静に、俺は思ったことを口にする。
他のメンバーは何も言わない。トムと仲が良くないのか、それともいたたまれなくなって何も言えないのか。多分後者だろう。
それにしても、トムのこの態度はどう言い表わせばよいか。自分の出場しない新人戦にここまで積極的になれるのは、多分に凄いことなのだろう。それとも、ただの熱血漢なのだろうか。身に纏う雰囲気はそんなに暑苦しいものじゃないのに。
「ぬうううううぅぅぅぅぅぅぅ」
俺の軽口に、トムは唸り声を返してくる。否、返したんじゃなくただ唸っただけだ。それだけ、今の彼は追い詰められているということだろうか。
「リュウト、どうする? オレたちでなんとか対策立てるか?」
Aクラスで選手に選ばれた男子が、そう持ちかけてくる。たしか、ルーガ・トルティンという名前だ。
テラの代理として練習に参加するようになった六月から実に約二か月ほど。練習を共にした仲間の名前くらいは既に覚えている。
逆に「誰?」と訊いたりするのは、さすがに薄情が過ぎるだろう。
しかし――、
「……俺知ーらね」
面倒臭いことと、興味のないことは御免だ。
そもそも当日まで対策ひとつ練れないこと自体がおかしい。俺が生まれ変わったのはギャグアニメの世界だったというのか。
こんな無能ぶり、現実的に考えてあり得るのだろうか。まあ、わからなくもない。要は、テラの突然の降板に三人とも混乱してしまい、俺という補充を考慮した作戦が浮かばなかったのだ。
「ルール見直すとかでいいんじゃない?」
現状できることで、それが一番懸命な措置だろう。ルール上の穴でも見つけられれば、上等といったところか。
定期戦の目玉競技のひとつ、『ハイ・サヴァイヴ』。
四対四の団体戦。制限時間などはなく、相手の陣地に旗を立てるか相手全員を戦闘不能にするかで勝負が決まる。
エリアは長方形で、主にふたつの平原ステージと、その間の林ステージで構成されている。
使用できる魔法は「特化型」ではランクB以下のもの全般。それ以外なら特に制限はないが、属性付加においては、「変質属性」の使用しか認めておらず、「特異属性」たる地属性と空属性は使えない。
ちなみに、武器の使用も認められている(新人戦で使われた前例はほとんどないが)。
基本は戦闘なので、ズルでさえなければ武器に限らず何でもあり。
大まかなルールはこんなところだろう。
本当を言うと、ハイ・サヴァイヴのルールをおさらいしたところで特に意味などない。今日まで練習してきたのだ。それじゃなくたって、もともと人気の競技なのだから、ルールなんてみっちり頭に入ってて当然だ。見つけられる穴など、既にないと見ていい。
「……はあ」
溜息が漏れた。
無気力に天井を仰ぐ。
「……林ステージ全体を攻撃するとかどうかな?」
俺を除いたメンバーが、独自に作戦会議を展開し始めた。
「でもあんだけ広範囲を攻撃するとしたら相当の魔力が」
「リュウトならいけるんじゃ」
「リュウトは属性使えないだろ。無理だよ」
「やっぱ林は避けてった方が」
次々展開されるレタデミーへの対策案は、俺からすればどれも根拠を欠いた空論に聞こえてしまう。
だが、それだけ三人も必死なのだろう。トムに負けないくらい、彼らも勝ちたいのだ。
「なあ」
と、俺は彼らに声をかける。
「三人とも、勝ちたいんだよな?」
確認は、あるいは要らなかったかもしれない。
俺の目の前で、三人は険しい表情を作り力強く頷いた。本当に、彼らの目は真っすぐだ。さっき作戦会議を放った自分が、若干恥ずかしく思えてきた。
「オッケー。レタデミーに勝てるかもしれない作戦なら、俺、一応あるんだけど……」
「マジかリュウト!!」
ルーガが目を全開にして喰いついてくる。
「獣族の三人が全員林ステージで俺たちを待ち伏せてるって前提条件が必要だけど……」
「おう! どうすんだよ!?」
目が血走っている。こいつの勝利への渇望は、貪欲だな。
「待てよ。それって確実なのか?」
「出まかせじゃないだろうな?」
と他の二人が反論するように口を挟んでくる。
……お前らがそれを言うのか。そっちだってもしも話に近い机上の空論並べ立ててたくせに。
これではやる気も失せてくる。
「おい、仲間をバカにすんじゃねえよ! それに、リュウトの戦闘実技の成績はオレたちの中で一番高いんだぞ」
ルーガが二人を怒鳴りつける。
うむ、それは初耳だ。
戦闘実技の成績がいい自覚はあったが、この四人中で最優秀とは。学年ではトップではないが……。
しかしまあ、二人も一応は俺の話を聞くつもりになったらしい。
なんとなく、ルーガはテラに似ているような気がするな。
「で、リュウト、どうするんだよ?」
「……あくまでも一つの意見として聞いてほしいんだけど……」
◇
第五競技ハイ・サヴァイヴ。
行われる会場は、ラスパーナ総合闘技場の中でも最も規模が大きいと言われる大闘技場。
そこへ行く途中にて。
「おや?」
グランバルト・ドラクランは、とある女子生徒に目を止めた。
おそらくはグランバルトと同様、ハイ・サヴァイヴの観戦のために会場移動中なのだろう。
桃色のシドー着に身を包んだ、黒髪の少女だった。
グランバルトが見たのは、歩く彼女の後姿だけだったが、それだけでも十分、彼女が美人だと予想できる光景だった。
「ねえ、君」
だから、グランバルトはその少女に声をかけた。
「……?」
振り返った彼女の顔を確認して、グランバルトはやはり、と内心で勝利の笑みを浮かべた。
背丈は自分と同じくらい。
艶やかな黒髪と、夜より深い黒瞳。顔立ちからして、彼女はシドー人だろうか。けれど、それが気にならないほど、彼女は可憐だった。
つり気味の大きな瞳も、桃色の唇も、血色のいい色白の肌も、全てが精巧に作られてる、の一言だ。
「君、ソージックの子? 何年生?」
彼女の着ている服はシドー着。
レタデミーもラスパーナも、一学年の時から制服制だ。一応私服に分類されるシドー着を着ているということは、彼女はソージックの七学年以下の生徒である可能性が高いわけだが。
「いえ、レープです」
彼女の口からは否の言葉が出た。
なるほど、とグランバルトは納得する。
午後からの定期戦は、一般公開を行っている。他の学校からも見学に来る生徒がいるし、選手の保護者も見に来たりする。……グランバルトの両親は来ないが。
よくよく見れば、少女の着ているシドー着には、レープの生徒を証明するワッペンが留められていた。完全に私服制なソージックと違って、レープ校の生徒は制服制になるまでの七年間、それを付ける気まりなのだ。
「へ、へえー、そう。綺麗な服だね。シドー人なの?」
「……いえ、違いますけど」
予想が外れたことに、グランバルトは少なからず舌打ちしたい気分だった。彼女が肯定を返していれば話が弾んだだろうに。シドー人ではない、ということは最近増えてるというシドー系ザーナ人とかだろうか。
「君、なんて名前なの?」
焦燥を仮面の下に隠しこみ、優しい声音でグランバルトは問いかける。
今彼がしているのは所謂「ナンパ」だが、これまでの成功率はかなり高かったりする。堀が深いながらも同学年の女子から高評価を受けている顔と、一見丁寧で優しい口調は、確かに女性を唸らせるに十分な武器だろう。
しかし、
「何ですかあなた?」
レープ校の少女は訝しげに眉を寄せた。
グランバルトの表情に、焦燥の色が現れる。今までナンパが失敗したことはあったが、さすがにここまで関心を示されなかった事はなかったのだ。
「ええと……」
「もう行っていいですか」
確認の問いに答える意味は、なかった。もとより、少女は確認を取る意で質問したのではなく、あくまでも会話を断ち切る目的の言だったのだ。
「ちょっと、せめて名前を」
「…………カミネです」
鬱陶しそうに、彼女はそれだけを言う。
そのまま、グランバルトには一瞥もせずに、大闘技場へと去っていってしまう。
「ちょ!? ……あ、ありがとう!」
淑やかに、しかし足早に去っていく少女の後ろ姿へ、グランバルトはそう声を上げるしかなかった。
「……はあ」
かなりレベルの高い美少女だったのに、結局名前も年もわからなかった。カミネ、というのはどう聞いても姓だろう。もしかしたら本当に名前を教えてくれたのかもしれないと、多少の期待を抱きつつ、グランバルトは小さく息を吐いた。
「珍しく、獲れなかったな」
背後から、声をかけられる。
「……ジーク」
「うす。どうする? 俺も協力するか? 俺があの子を脅して、グランがそれを助ければあの子だってイチコロだと思うぞ?」
意地の悪い笑みを浮かべて、ジークは提案する。
「いや、いいよ。もうそんなに興味はないし。そんなことして、もし教師にバレたら面倒だよ。失敗したのはこれが初めてじゃないし、気にしてない」
軽く笑って、グランバルトは肩をすくめる。
「それより、僕らも早く行った方がいいな」
「ああ、しかし、なんで初戦は出ないのに観にいくんだよ。もっとのんびりしててもよかっただろ?」
「そうも言ってられないさ。レタデミーとソージック、ジークだってもしかしたら手ごわい奴がいるかもとか思ってるだろう?」
見透かしたように薄い笑いを浮かべながら、グランバルトは親友を見る。
「……まあな」
ジークの方も、口端をゆっくりとつり上げた。
◇
第五競技ハイ・サヴァイヴ新人戦開始3分前。
大闘技場の観客席、安全委員用の特別指定席にて。
「おや、キミラさんじゃないですか」
既に席について試合場を眺めていたルークへ、声が掛けられた。
「ああ、シード博士。どうも、こんにちは」
「こんにちは」
シードと呼ばれたのは、白衣を着た青年だった。彼はにこやかにルークに挨拶する。
「聞きましたよ。最近Kr兵器でウルスタイガーと戦ったんですってね。それに加えて六月は魔剣グニグルのジビロン移送でカタラクト国との交渉に苦労したんでしょう? 一度長い休みを取ってはいかがですか?」
「いえ、博士たち研究員の方々が日夜頑張って私たちをサポートしてくれているんです。そうそう休んでもいられませんよ」
「ふふ、そうですか」
メガネを知的に摘みながら、シードは納得したように頷く。
「しかし、連絡を聞いた時も思いましたが何故ハイ・サヴァイヴの新人戦だけ視察をするんです?」
「ああ、そう言えばキミラさんには詳しく言ってませんでしたね」
ルークの隣に腰掛けながら、シードは「簡単なことです」と人差し指を一本立てた。
「リュウト・カワキくんという少年が出場しているでしょう」
「はい、彼は……。そう言えば博士の研究テーマは……」
何かに気付いたようなルークの様子に、シードは苦笑しながら頭を縦に振る。彼にとっては、やや強引な話題転換に見えたたに違いない。
「ええ、錬気の研究と表向きにはなってますが、本質はKr因子によるカワサキ化の研究です」
「それで、彼がどう関係してるのです? 報告書にちゃんと書きましたが、彼のKr値は危険値には程遠い……」
「ええ。ですが、他に反応を示した二人をはるかに超える値ではあったんでしょう?」
「そう、ですが」
「これは私の仮説に過ぎないんですが、もしかすると彼はちょっと特殊なのかもしれません」
視線を試合場に走らせながら、シードは低い声でそう言った。
「特殊、とは彼の異常なKr値のことですか? だったらレープの子も――」
「ええ、彼女だけなら私もあんな仮説は立てませんでした。Kr値が三ケタを超す反応を示すには少なく見積もっても半日ほどはKr因子を浴びていなければならない。それこそ、反応がごく小さかったという二人については、何かの誤作動で一瞬だけ浴びてしまったと容易に推測できます。それに、ちょうどあったそうですね。六年前、ユグシルナでKr爆発事故が。ソージックの一年生と十五年生の見学の日に」
試合場に出てきたソージックの選手の面々、その中の黒髪の少年を見つめながら、シード。
「……ええ」
「おそらく、反応が薄かった二人はその時の事故でKrを浴びてしまったと見ていいでしょう。爆発事故なら、Krが飛び散るのも一瞬でしょうしね。問題は彼です。聞くところによれば、彼と反応が薄かった二人は友人同士の関係。であるならKrを浴びた要因も二人と同じ状況下である可能性が高い。にもかかわらず、彼だけが異常なKr反応を叩きだしている……」
淡々と、シードは自分の分析を述べる。
「……おっと失礼。つい熱が入ってしまいました。私の仮説も、実を言うと確証があったわけじゃないんですよ。今回の視察は彼がどんな少年なのかを見て何かわからないかと思いまして。あっ、もちろんきちんと視察もしますよ? レタデミーとラスパーナがやる時もです」
慌てたように、シードの分析は弁明へと変わった。
くすりと、ルークは微笑う。シードという博士は、ガードとは全くベクトルが異なる性格だ。見た目の通り、年もまだ若い。ルークより十ほどは若かったはずだ。それで博士という肩書きを得ているのだから、彼の頭脳が凡庸でないのはわかるが。いかんせん、時折見せる研究者に見えないおどおどした態度はルークにとって非常に好ましかった。
「ええ、そうですね。お? ちょうど始まるみたいですな」
まさに、その通り。
その瞬間、第五競技ハイ・サヴァイヴ新人戦、第一回戦レタデミーオルドー校対ソージック学園戦開始を告げるアナウンスが流れたのだった。
◇
大闘技場ソージック側の観客席にて。
「リン、リュウトくんにユニフォームの感想訊かなかったんだって?」
イルサは隣に座る妹に向けて、非難がましくそう言った。ユニフォームから着替えてきたリンは、不意をつかれて絶句する。
「ぶっ!? い、いいじゃない! 訊かなくたって!」
「ま、わたしは別にそれでもいいんだけどね。リンは訊かなくて本当によかったの?」
「うっ、うううう~」
何も言えず、押し黙るリン。
「あのー。もうすぐ新人戦が始まるわけなんですけどもー。この空気は一体どうしてこんなにも重いのかしらー?」
その場の雰囲気を茶化すような、テラの言葉。大して、効果はなかったが……。
「リン、リュウトくんだっていつまでもこのままって訳じゃないのよ? どこかにリンより可愛い女の子がいれば、鼻の下伸ばしちゃうかもしれない。そんなことになっちゃってもいいの?」
「イ、イヤだ!!」
弾かれたように、リンは言う。
「そんなのイヤだ!!」
にやっ、とイルサは口の端をつり上げた。
「そう」
満足したように、イルサは何度も頷く。
リンの耳元に口を近づけ、彼女にしか聞こえないよう耳打ちする。
「ならね、――――――」
「――――――!」
果たして、イルサの「助言」らしい言葉を聞いたリンは、一瞬で顔を真っ赤にする。
「そ、それって……」
「がんばりなさい」
ぐっ、と親指を立てて、イルサはウインクする。
「それよりレンくん。リュウトくん、大丈夫そうなの? 今日まで特訓してたんでしょ?」
話題展開も、イルサは早かった。
話題を振られたレンは、イルサとは反対側のリンの隣だ。必然、未だパニック状態のリンを挟んでの会話になるが。
「……そう、ですね。兄さん、意外と動けますよ? ジョギングも、最近は僕と父さんについて来れてる方ですし、組手の特訓でも身体を動かすことにかけて言えば僕よりずっと動けてました。僕と兄さんの力が同じくらいだったら、多分兄さんの方が速いし強いと思うんですけど……」
「ふむ、つまり身体強化を掛けたりすればいいってことかしら?」
「多分、使うと思います。今のままでも兄さんは動けるでしょうけど、さすがに獣族のスピードについて行くのなら……」
素の身体能力では辛いだろうと、レンは分析する。
「そんな……」
興奮から冷めたリンの口から、そんな音が漏れ出てきた。
「……リンさん?」
「リュウトが身体強化って、大丈夫なの?」
「……あの、大丈夫って……?」
言われた意味がわからず、レンは首を傾げる。
「だって、六年前にお姉ちゃんと決闘した時、リュウトは……」
六年前の決闘。リュウトとイルサの戦いで、リュウトは身体強化の魔法を使った。それでイルサをあと少しまで追い詰めるも、リュウトの方が先にギブアップしてしまったのだ。
「……僕は話でしか聞いてないですけど、多分兄さんはその時普通の強化じゃなくて魔力操作のブーストを掛けたんだと思います」
「魔力、操作?」
「はい、掛けた後はそのままほったらかしの普通の身体強化と違って、その時その時で繊細な調整ができるんですけど、多分無理をしすぎたんだと思います」
六歳児の未熟な身体に、相当な量の魔力を流し込んだとなれば、身体が負荷に耐えきれずに倒れてしまっても仕方がない。レンはそう結論付けた。
「今回は大丈夫だと思いますよ? 十二歳ですし、兄さんの身体もだいぶ強くなってるはずです」
試合場に出てきたリュウトを見つけながら、レンの顔はかすかに笑っていた。
◇
「さあて、作戦が上手くいくかどうか」
俺は首を鳴らしながらそうぼやいた。
「どうだろうな」
すぐ近くにいたルーガが、微苦笑しながら答える。
「リュウトの言ったこと、ぶっ飛びすぎてたからなー。オレだってまだ信じらんないぜ?」
「ま、失敗した時は俺の一人自爆だと思ってくれ。獣族が俺たちの予想通りに林ステージに陣取ってたとしても、俺の作戦が上手くいく保証はないんだからな」
「ものすごい情けないな」
微苦笑は、苦笑になった。
試合開始まで、もう残り一分ほど。場所は平原ステージのソージック陣地だ。腕を順に回して、俺は林ステージの方を見る。その向こう、林ステージを挟んだ向こう側の平原ステージの相手陣地でも、おそらく似たような行動を取ってるだろう。
「最後に確認しておくぞ」
視線を外して、俺はチームのメンバーに声をかけた。
「話した通り、最初は俺一人が突っ込むから。もし合図なしで俺のリタイヤが流れたら、そん時は作戦失敗って取ってくれ」
「ああ」
「わかってるさ」
ルーガ以外の二人の反応は、至極そっけないものだった。練習中も、あまり会話をした記憶もないし、俺が信頼を得ていないのは明らかだろう。
別にいいが、それで邪魔になられるのだけは勘弁だ。せっかくやる気を出したわけだし。
『第一回戦レタデミーオルドー対ソージック、開始まで十秒』
アナウンスが流れる。
一度大きく呼吸して、視線を前方の林ステージへと向ける。
『5、4、3、2、』
カウントするアナウンスの声が、やけに大きく響く気がする。
『開始!!』
――――――その、瞬間。
弾けるように、俺は前方へと駆け出した。




