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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第3章 定期戦<下> 災厄襲来編
25/102

1,定期戦開幕

 午前七時三十分。

 定期戦第一競技『プノ・フィース』。

 ルールは一対一のタイマン勝負。それが四回戦分の団体戦で、一度の試合。さらにそれがラスパーナ対ソージック、レタデミー対ラスパーナ、ソージック対レタデミーの三試合分。計十二回戦分がある。

 勝利条件は相手を戦闘不能にするという、ただそれだけ。制限時間まで勝負が決まらなかった場合は引き分けとなる。また、魔法主体の戦闘になりがちな定期戦の競技において、他の競技より圧倒的に使用魔法の制限が強い。

 基礎魔法を始め多くの魔法が使用禁止、武器の使用は可能、という内容であるため、選手たちは武器を装備するか、素手の格闘戦に磨きをかけて臨むかの、どちらかの戦法を取ることが多い。

 定期戦を観戦するにあたって、ほぼ確実に選手の魔法以外の技量を見ることができる競技。もっとも、魔法が全く見られないというわけではない。

 この競技で使用可能な魔法は全て「特化型」の魔法だ。ランク指定されたものではランクB以下、ランク外のものならば全てのが使える。

 故に、選手たちの中でそれらの魔法が使える者がいれば、まず間違いなく使ってくる。

 ちょうど、今のラスパーナ対ソージックの、ラスパーナの選手のように……。


『第一試合、ラスパーナ対ソージック一回戦目。勝者、ラスパーナのギリル・マッソイ選手』

 アナウンスが鳴り響く。ラスパーナ総合闘技場の第一闘技場にて。

 その試合内容を、俺は観客席でぼんやりと眺めていた。開会式で着ていたユニフォームは、既に着替え済み。今は控室に置いてある。

「あちゃー、負けちゃった」

 俺の隣で、赤髪の少女が嘆いた。

「仕方ないですよ。相手は身体強化の魔法を使って、なおかつ格闘センスもなかなかでしたし」

 俺は冷静に、さっきの試合内容の分析を口にする。イルサは頬杖をついて、苦笑いを浮かべた。

「身体強化は十分にランクAだと思うのはわたしだけかな?」


「じゃないですか? 先輩はできないみたいで知らないでしょうけど、身体強化魔法は身体能力を上げるだけで、もともと身体が満足に動かせないと大して効果がありません。危険度が使用者の格闘センスに強く依存するわけですから、ランク外の『特化型』に指定されたとしても不思議はありません。むしろ俺は、『レイ・ガンス』がランクBなことに驚きを隠せません。威力、呪文式から考えても殺傷力は十分なのに」


 ……割と、口数が多くなっている。

 それはそれとして、「特化型」の魔法には、ランクが設けられている。

 基準は、対人戦における殺傷率の高さ……と発動難度が少々絡んでいる。上のランクなものほど殺傷率が高いと考えれば楽なのだが、実際には他の要素もあって、高ランクほど有用という結論には直結しない。

「リュウトくんはランクAの『特化型』は知らないの?」

「ええ。ランクBまでならソージックに入学はいる前にレンが勉強してるのをたまたま見たので。てことは先輩はランクAを知ってるんですか?」

「まあね。一言で言うんなら、いきなりレベルが跳ね上がったって感じかな。ランクBとは比べ物にならないくらいの大魔法ばかりだった」

「そう、ですか。リストを見てない俺にはなんとも言えませんけど、あっ、第二回戦始まりますね」

 まさにその瞬間、第二回線開始を告げるアナウンスが流れた。




「兄さん、ここにいたんだ」

 プノ・フィースの三回戦が終わったところで、レン、リン、テラが俺たちの所へやってきた。

「うっす、レン。これから大将戦だぜ」

 今までどこにいたのだろうか。後で訊こうと思いつつ、俺は闘技場の方へと視線を戻した。戦況は、一回戦の後の二回戦目でソージックが勝利し、三回戦は引き分け。つまりこの四回戦目で、勝負が決まるのだ。

『ラスパーナ魔法学院、大将ケルヴェン・ディパート選手』

 魔法学院では不釣り合いなほど屈強な肉体の選手が、闘技場に上がる。あの体格だけで判断するならバリバリの肉体派だろう。身体強化魔法とか使ってきそうな雰囲気だ。いや、むしろあの屈強な筋肉なら要らないかもしれない。

『ソージック学園、大将シリウス・エラパード選手』

 ソージックのプノ・フィースユニフォームを着た、金髪&長身&美系の青年が闘技場に上がった。

「ん? どっかで見たことあるような……」

 俺の空いてる方の隣にレンが座り、さらにその隣に腰を下ろしたテラが、ソージックの選手を見て、眉をひそめながらそう呟いた。

「エラパード先輩はわたしより一こ上で、一昨年おととしからプノ・フィースで活躍しだしたのよ」

「……わかんないっすね」

 くすりと、俺は思わず笑った。

「何だよリュウト?」

「いや別に。一昨年から活躍してたなら覚えてないだけで見てたかもしれないぞ。エスパーダ・・・・・選手のこと」

 俺のからかうような声音には、テラは気付かなかったようだ。まあ、六年も前のことだから、テラも彼が誰なのかは覚えていないだろう。俺自身は何故か覚えている。ソージックに入学して、初めて俺を攻撃してきた、当時の七年生だ。

 ――そう言えば、彼自信はとても真面目な性格で、俺を攻撃した理由も“カワキの神子”に対する何らかの勘違いによるものだったと記憶しているが、結局その事で謝罪は貰ってないんだよな。

 シリウスに限らず、当時、俺を攻撃してきた上級生たちはイルサを除いて全員、なんの謝罪もしてこなかった。

 別に謝ってほしいわけではないが、なんとなく苦笑いを隠せない気分だ。

「お、始まる」

 テラの声が、記憶のアルバムを開いていた俺の耳に届いた。

 まさに、そうだった。

 俺が闘技場に目をやると同時に、アナウンスが鳴る。

『ラスパーナ魔法学院対ソージック学園、大将戦、始め!!』


      ◇


 開始の合図と同時に、シリウスがケルヴェン目がけて跳躍した。

「――――」

 それとほぼ同時に、ケルヴェンが魔法の詠唱を開始する。

「『レイ・ガンス』!」

 唱えられた魔法は、「特化型」ランクBの『レイ・ガンス』。基礎的な魔法『レイ・ベルム』の特化型バージョン。しかし、その威力、発動に掛かる魔力のコストはより戦闘向きに改造が施されたれっきとした戦闘用の魔法。

 三つの魔力光線が、シリウス目がけて放たれる。

「『ドープ』!」

 それをシリウスは、真正面から迎え撃った。完全な詠唱破棄で瞬く間に身体強化の魔法をかけ、迫る光線を全て弾き飛ばす。

 そのまま、止まらずにケルヴェンへと突っ込む。

 間合いを一メートルほどまで詰めた後、宙返りからの踵落としをケルヴェンの頭部目がけて叩き落とした。

「『ムーヴァント』!」

 しかし、その攻撃は寸でのところで防がれた。

『レイ・ガンス』と同じく『レイ・ベルム』から派生した「特化型」魔法。ランク外の障壁魔法『ムーヴァント』が展開されたのだ。

「ち!」

 舌打ちして、シリウスは後ろへ跳んだ。

「……シリウス・エラパード」

 ぼそりと、ケルヴェンがそう呟いた。シリウスの眉が、ぴくりと動く。

「第一試合でいきなり相手ができて光栄だ」

 ケルヴェンの口から紡がれたのは、シリウスに対する称賛だった。

「実力のほどはよく聞いている」

「……そうですか。あなたのような人にも知られているとは、それは、こちらとしても光栄だ」

 シリウスの口元に薄い笑みが浮かぶ。それは、決して相手を莫迦にする風のものではなかった。

「では」

「ああ」

 会話は、それだけ。

 直後に二人とも、構えなおした。腰を低くし、両者とも武道家のような構えをとる。

 緊迫した空気が、周囲に満ち始める。試合が始まって、まだ数分しかたっていない。なのに、まるで数時間は戦っていたかのような剣呑さが、二人の間に流れていた。

 先に動いたのは、シリウスだった。

 身体強化した彼の脚力にとって、ケルヴェンとの間合いは短すぎた。淡い青色の光を残して、シリウスの姿がケルヴェンの前まで迫る。

 対して、ケルヴェンはその屈強な右腕を振り上げて迎撃の意思を表示する。

 屈強とはいえ身体能力を施していないケルヴェンのアッパーと、身体強化によって鋭く、速くなっていたシリウスの掌底突きは、なんとケルヴェンの攻撃が勝った。

 攻撃の軌道を上へ逸らされたシリウスの身体が、つられて浮く。そこに――、


「ぐがっ」


 身体を回して、遠心力を加えたケルヴェンの左肘打ちが、シリウスの腹へ刺さる。

 その口から、苦悶の音が漏れ出る。

「勝機あり!」

 さらに浮き上がったシリウスの身体へ、ケルヴェンが掌底を突き上げる。

 シリウスの身体が「く」の字に曲がる。

 勝利を確信した笑みが、ケルヴェンの顔に訪れた。しかし、

「――!? くっ!」

 強化されたシリウスの足が、ケルヴェンの追撃を阻んだ。その蹴りの勢いを利用して、シリウスがその場からの離脱に成功する。

 ケルヴェンの顔が悔しそうに歪む。しかしそれは一瞬のことで、すぐに口角を引き上げる。

 着地して、シリウスもまた笑っていた。

 互いに獲物を前にした捕食者のような笑みを浮かべながら、その視線は油断なくぎらついている。

「っ!」

 シリウスの身体の輪郭がブレる。

 数瞬の間の後、その姿がケルヴェンの背後に出現する。

「っ!?」

 ケルヴェンの反応は至極迅速だった。

 シリウスの出現を予知していたかのような敏感さで振り返ったケルヴェンの顔面を、既に間合いに入っていたシリウスの掌底が強かに打ちつける。

「ぐばっ!」

 と、痛み半分、驚き半分にわずかな悲鳴を上げたケルヴェンの身体が、大きくのけ反る。

 その隙を、シリウスは見逃さない。

 自身も後ろへ跳んで距離を取り、右手をケルヴェンへ向けて、

「『レイ・ガンス』!」

 「特化型」の魔法を唱えた。

 放たれた魔力の弾の数はふたつ。ケルヴェンの放ったものよりひとつ少なかったが、威力と速度、発動に際しての詠唱時間などの技量は明らかにこちらの方が上だろう。

 ケルヴェンに迫るふたつの魔力弾は、しかし、まさに命中する直前で『ムーヴァント』に防がれた。

「まだだ!」

 シリウスが叫ぶ。その掌の先に、ごうと唸りを上げる火炎が生み出される。火属性によって魔力を火炎へと「変質」した『レイ・ガンス』だ。

「『フィー・レイ・ガンス』!」

 火炎の豪球が、ケルヴェンに迫る。

 この豪火ならば『ムーヴァント』を破り得ると悟ってか、ケルヴェンの回避行動は速かった。

 しかし――

「――――なっ!?」

 真横へ跳んだ、その先に、既にシリウスが立っていた。先回りされていたのだ。

 軌道の修正はもうできない。今更後退することもできまい。ならば、シリウスを撃つ他に打開策はあるまい。

 ケルヴェンの両腕が、瞬時に折りたたまれて懐へ構えられる。その手は手刀を形作っていた。淡い薄青の光が、その手刀を包みこむ。

 感覚的に、限定的に発動された身体強化魔法だ。強化された両腕は、それだけで全身を強化したシリウスと渡り合えるであろう威力を孕んでいる。

 ケルヴェンの回避行動は、即座に敵への突撃へと変わっていた。

 その突撃は、シリウスにも予測できていたようで。

「『ムーヴァント』!」

 障壁魔法が発動する。

 ケルヴェンの両の腕が、水泳で飛び込む時の体勢のように勢いよく突き出される。

 前方突きが、魔力の壁と衝突する。シリウスの前方一メートルほどに展開されていた障壁は、しかしケルヴェンの攻撃を防ぎきるには魔力が足りなかった。

 魔力の壁に、ひびが生じる。次の瞬間、魔力の障壁が破砕する。――それでも、シリウスの口元は微笑を称えていた。

 シリウスの右手が、腰の後ろへ回される。

 伸縮式の警棒が取り出された。一瞬で五〇センチ以上に伸ばされ、障壁を破った手刀突きに対して、側面を打つように振るわれた。

 横からの強打に、ケルヴェンの両の手刀は軌道を逸らされる。

「!?」

 ここにきて、シリウスの隠していた手札の存在とその手札自体に、ケルヴェンの顔には驚愕が刻まれていた。

 シリウスが警棒を両手で握り直し、振り上げた。

 どぐっ、という鈍音が、会場中に響き渡る。

 直後、

『ラスパーナ対ソージック大将戦。勝者、ソージックのシリウス・エラパード選手』

 試合終了のアナウンスが流れた。

『第一試合、勝者ソージック』

 ソージック側の観客席から、割れるような拍手と歓声が湧き起った。


      ◇


「終わったな」

 選手たちが降りていく会場を見下ろしながら、俺は小さく呟いた。

「大将戦では魔法戦が見れると思ったけど、予想以上だったわね」

 イルサがぽつりと漏らす。

 確かに近年稀に見るほどの魔法率の高さだった。本来であれば、あそこまで魔法中心の試合になるのも珍しい。それだけ大将に選ばれた二人には実戦的な魔法の才があったということだろう。

「…………」

 ちらり、と左のイルサと右のレンを順に盗み見る。

 魔法の才といえば、ここにも二人バケモノがいた。おそらく、あの大将の二人も及ばないであろう、圧倒的な才能が。

 なんだか無性に笑えてくる。この二人のせいで、さっきの激闘がひどく滑稽に感じられてしまう。

 いけない。

 これ以上を考えても無駄なことだ。

 俺は静かに、席を立った。

「どこ行くの兄さん?」

「ちょっとその辺ぶらぶら。試合と試合の間は十分も休憩時間あるし、次はラスパーナとレタデミーだろ? 二十分くらいで戻ってくる」

 そうすれば、ある程度余裕を持ってレタデミー対ソージックの試合が観戦できるだろう。

 レタデミー対ラスパーナの試合は、最初から興味などなかった。もとより、他の試合にも興味などないのだが。

 さて、どうするか。

 その辺をふらふらすると言っても、ただふらふらするだけではつまらない。観客席を後にしたまではいいが、俺にはその先が全く見えていなかった。

 ……歩こう。

 つまらなくはあるが、ボケっとつっ立っているよりは幾分マシだ。……つまらないことに変わりはないのだが。


      ◇



 ラスパーナ総合闘技場は、一個の巨大な施設というよりは、多種目のうちのひとつの状況に特化させた会場の集合施設と捉えた方がいい。そう考えるとこの闘技場は、むしろジビロンのユグシルナ研究開発機関と似た施設と言えるだろう。

 第一闘技場を出たすぐ近くの休憩エリアに備えてあるベンチにて。

「おや?」

 ルークは一人、不思議そうな声を出した。

 見覚えのある人物が休憩エリアに入ってきたのである。休憩エリアは案外広く、苗木や噴水も設置されたリラックス空間であるため、相手の方はまだルークに気付いてないらしいが。

 今の時間帯は第一競技プノ・フィースをやっている。生徒は皆、その観戦に夢中で、ここにその人物がいるのはある種の違和感を感じさせた。

「リュウトくん」

 さして声を張らずとも、その少年には余裕で届かせることができた。ルークの声がそれだけ通るという意味ではなく、周りが静かだった故である。

 声をかけた先の少年は、果たしてルークに気付いたようだった。

「ルークさん、どうしてここに?」

「一休みだよ。君は? 今は競技中じゃなかったかい? 応援しなくて大丈夫なの?」 

「今はレタデミーとラスパーナなので。ソージックが出るまで散歩しようと思ったんです」

 ふむ、とルークは頷く。

「そう言えばルークさん」

「ん?」

「さっきはなんで警備員みたいな恰好だったんですか? 開会式と今は普通にスーツなのに」

 つう、と冷や汗がルークの額を流れた。

 この少年は、いきなり答えづらい質問をぶつけてきた。けれど、ルークは冷静に質問に返答する。

「警備の方もちょっとさせてもらってるんだ。でもさすがにあんな装備じで式には出られないだろう?」

「それでですか」

 納得したように、リュウトは言う。

「ああ、そうさ。ところで、リュウトくんはハイ・サヴァイヴだったよね。ハイ・サヴァイヴって僕の視察担当の時間帯なんだよね。だから楽しみにしてるよ~」

「……はい、ありがとうございます。あの、もう行っていいですか?」

「うん、話に引き込んじゃって悪かったね。じゃ、新人戦頑張ってね」

「はい」

 そう言って、リュウトは休憩エリアを出ていった。

「僕がいたせいで追い払っちゃったかな? 悪いことしちゃったな」

 ベンチの背もたれにもたれながら、ルークは苦笑を漏らした。




 午前十時ごろ。

 ルークの足は総合闘技場入り口の門の外に向かっていた。

「クラザ」

 わざわざここに足を運んだ理由は、もちろん彼だ。

「ルークか、何か用か?」

 ルークよりかは低いが、十分に長身と言える慎重。そしてルーク以上の横幅とがっしりとした体つき。服装は、外套姿に着替えたルークとは違い、今朝と同じ警備兵スタイルだった。

 入り口付近で見張りを続けていたクラザは、面倒臭そうにルークへ問うた。

「いや、状況確認、みたいな?」

 クラザがこめかみに手を当てる。

「あやしい奴は今のところ現れていない。おまえもさっさと持ち場につけ!」

「……て言ってもね。僕の持ち場ははっきり言って午後になんないと割り当てられてないからなあ。今はすごく暇という、か……」

 有無を言わせないクラザの睨みで、ルークの声は小さくなっていく。

「ごめんごめん。悪かったよ」

 ふん、とクラザが鼻をならして唸る。

「で、それ以外に何か用があるのか?」

「お? 結構鋭いね。うん、状況確認以外にもあるよ」

 ルークの手が、懐に伸びる。

「ついこの前ガード博士から連絡をもらってね。プロテクターの追加バージョンアップ? 僕とクラザの分だけできたらしいから、とりあえずやっとけってさ」

 漆黒の電子カードのようなものを取り出しながら、ルーク。

「……博士が? それは、ありがたいな」

 自分の胴を覆っている黒の装甲に触れながら、クラザは言う。

 クラザやルーク、及び安全委員に支給されているプロテクター(プロテクト・アーマー)は、ただの装甲板ではない。着用者の生命維持機能や魔力活性機能、微量ながら筋力補佐の機能まである。それは、もはやただの防具ではなく、戦闘力強化のドーピングアイテムと言える代物だった。

「僕は昨日やったよ。ほい」

 漆黒のカードを、クラザの方へと差し出す。

「ぬん。どうやるんだ?」

 受け取ったはいいが、クラザには使い方がわからないようだった。

 ルークはやれやれと、頭を掻く。

「胸のところのカートリッジに差し込むだけだってさ。入れる向きはどうでもいいんだって」

「うむ」

 頷き、クラザはルークの言う通りに受け取った漆黒のカードセットした。

 瞬間、本当にその一瞬だけ、魔力の揺らぎがあった。

「ふむ、そういうことか」

 けれど、クラザは納得したようだ。今の現象だけで、クラザは何が起きたのかをほぼ把握していた。

 何度かプロテクターを叩き、大きく頷く。

「バージョンアップというよりは、アップデートではないのか。これは?」

「まあ、意味合い的にはそうだろうね。使ってない機能を使えるようにしたってだけだし」

「それで、なんの式が入ってたんだ。さっきのカードには?」

 問いに対するルークの答えは、肩をすくめる仕草だ。

「わかってるだろう? プロテクター付ける時って言ったら必然的に総力戦みたいな激戦が前提。自動発動させるのにもっとも需要ある魔法と言ったら……」

「身体強化しかあり得ないな」

 焦らすような口調のルークの言葉を、クラザが引き継いだ。

「正解っと。まあ、現時点では身体強化それしか有用っていうか、プロテクターの機能と相性のいい魔法がないんだけどね。けどま、前から研究されていたとはいえ、呪文式の記録素材・・・・・・・・なんて、ガード博士たちはよく造れたもんだね。それを人間を通さずに発動に持ってけるプロテクターの新機能もさすがとしか言いようがないし」

 しみじみと、ルークは語る。

「まあ、な」

 クラザも同調するように、自身のプロテクターを一撫でする。

「安全委員の武装が魔道兵器だった頃から使われてる長寿物だからな。このプロテクト・アーマーは」

「そうだね。魔道兵器か、懐かしい。今じゃKr兵器にとって代わられたんだもんな」

「うむ。そう言えばルーク、五月ごろにウルスタイガーの幼生とったそうじゃないか」

「……堅すぎてニグルがちっとも刺さらなかったよ」

 思い出したように、ルークは大きく吐息した。

「あの後ガード博士を訊ねたんだけどね。ガード博士の話じゃ、罅くらいは入れられるはずだって言われちゃったよ。僕の腕がまだまだなのか、それともあの海老ちゃんが堅すぎたのか。どっちにしてもせっかくバージョンアップしてもらったのにな。壊れなかったことに満足すればいいのかな?」

 ルークの口調は、途中から愚痴のそれになっていた。

「俺に訊かれても知らん。が、そうだな。おまえがまだ未熟だったと考えればいいんじゃないか? 慢心は敵だ!」

「うん、クラザならそう言うと思ったよ。まったく、もっと鍛えないといけないな」

 辟易したように、ルークは肩をすくめて見せる。

「うむ」とクラザが頭を縦に一回振った。

「そう言えば、セクトピアンも何機か配備されてるんだっけ?」

「うむ、あの金属昆虫には闘技場の裏側を回ってもっらている。闘技場に奴らを上げるつもりはないが、念は押しておかないとな。巡回形態の機動性と隠密性はさすがだな」

 納得するように頭を縦に振り、クラザは闘技場の方を一瞥する。

「その上、迎撃形態の出力パワーは一級品だ。今回は全部で六機回っている」

「鉄壁だね」

 この守りならば、ヘルヘイムを返り討ちにすることもできる、という確信がルークの思考に浮かんでくる。けれど、そう思えば思うほど、ルークの中で奇妙な矛盾が強まっていくのだ。

「そう言えばクラザ、この警備のことなんだけど……いや、やっぱなんでもない」

 言いかけたが、最後までは言わなかった。ルークの態度の変化に、クラザの眉がピクリと動く。

「なんだ?」

「いや、何でもないよ」

「あのな――」

「今はまだ、確証がないから」

 抗議の声をあげようとしたクラザを遮るように、ルークが一言を呟く。

 やがて、クラザが渋々といった様子で、口を開いた。

「……もしその確証ってやつができたなら、すぐ言えよ?」

「ああ、わかってる」

 投げやりに、ルークは言い切った。

 そんな二人のやり取りを見て、クラザと同様に今朝からここで警備をしていて、今の今まで黙って話に参加せずに聞いていたユハラ・インジケートは、呆れたように呟いた。


「お二人は仲がいいですね……」

 どうも。

 今回は意外なあの人のバトル展開でした。主人公の活躍はまだ少し先になりそうですな。

 ともあれ、定期戦<下> 災厄襲来編 ここにスタートです。いやあ1回こういうこと言ってみたかったんですよねえ(笑)

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