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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第2章 定期戦<上> 代理出場編
24/102

9,定期戦開幕


      ◇


「こんなところにいたの」

 時刻は日付が変わろうかというほどの深夜。

 涼やかに透き通るような声が、とある施設を見上げる黒装束の『彼女』の背後に投げ掛けられる。ゆっくりと、『彼女』は呼び掛けた声の主を振り返った。

「……カリン」

 白いローブに身を包んだ白髪赤目の少女だった。

「まったく、探すのに苦労した」

「そう。悪いわね」

「別にいいわ。あなたの奔放さは今に始まったことではないもの。それより、襲撃の日はちゃんとやってもらう」

「わかっているわよ。だからこうして下見に来たんじゃない」

 『彼女』は先刻まで自分が眺めていた風景を顎でしゃくる。ここはラスパーナ王国の大闘技場の前。今年の七月暮れに、この闘技場を中心にした総合闘技場で、三校総合対抗定期戦が開催される。

「本当に頼むわよ? 二十年前のように生存者が出るような甘さでは困る」

「今回は殺さないんじゃなかったかしら? それに、あれは甘さとかじゃ」

「甘い意識で依頼をやるなと言うこと。二十年前のように、妙な夢・・・のせいで一人二人を殺し損ねるような意識じゃ困る。私たち組織としても、あなた個人としても。まあ、今回は殺さなくていいのは事実だけど」

 冷徹に、カリンは『彼女』を否定する。

 ややあって、口を開いた『彼女』から出た言葉には、苛立ちが見てとれた。

「わかってるといってるでしょう!? それで、話はそれだけ?」

 言外に、『彼女』はもう自分一人にしろと言う。しかし、

「いいえ、もう1つ」

 カリンの抑揚のない口調に、『彼女』は苛立たしげに舌打ちした。

「何?」

「当日のこと。やはりあなた一人では難しいと、上が判断した」

「私一人では難しいって、私一人でやるのが本来の目的なんじゃないの?」

「ええ、もちろんあなたには一人でやってもらう。ただ、邪魔が入る可能性がある。だから、当日は私も影で行くことになった。あなたのサポート兼監視」

 こめかみを押さえて、『彼女』は大きく息を吐いた。

「ねえ、なんでこんな回りくどいやり方なの? 素直に安全委員を襲った・・・・・・・・方が早い・・・・んじゃない?」

「それだと失敗のリスクが高まるの。昔のあなたの二の舞よ。今回は乱闘が目的じゃない。どちらかと言えばタイマンサシの勝負が望ましい。その上で、定期戦はまさに最高の簑だったわ。まあ、上の考えることなんて私でもわからないわ」

 淡々と、少女は告げる。ルビーのような紅の色彩とは対称的に、その瞳はサファイアのように冷めていた。

「……わかってるわよ」

 この短時間で何回言ったかわからない台詞を呟く。

「そう、なら別にいいわ」

 くるりと、カリンは踵を返す。その白いローブの背中の生地から、八つの不自然な盛り上がりが現れる。

 その生地を突き破り、八つの盛り上がりそれぞれから一本ずつ、硬質そうな外見の、蛇腹状に節目の入った触手が出現する。

「前々から思ってたけど、それ痛くないの?」

「羽骨は体内器官でないもの。痛覚も通ってないし。来てる服が破けるのだけが難点だけど」

 すうっ、と触手が左右に四つずつに広げられる。その触手と触手の間に、飛膜のような薄い膜が形成されていく。

「じゃあ、伝えることは伝えたわ」

 これで終わりだ、とカリンはその場を立ち去ろうとする。けれど、今度は『彼女』がカリンを呼び止めた。

「私にはわからないわ。あなたは何で、使徒になったの?」

 カリンの背から生え出る、蝙蝠めいた翼を見ながら、『彼女』が訊く。

「……私こそ、そんなことを訊く意味がわからない。あなたは、そんなに人間だった・・・・・ころが恋しいの?」

 カリンの指摘に、『彼女』は口をつぐむ。

「私にはわからない」

「あなたには……!」

 悔しそうに、『彼女』の表情が歪められる。

「なら、あなたは何で人間をやめたの?」

 カリンが、さらに追い打ちを放つ。

「私は、……私、は……」

「……もういい。もともと興味もない」

 背中だけでそう言って、カリンはやや溜めるように腰を低くした後、上空うえへ跳び上がった。

「私、……は!!」

 堪えきれず、『彼女』は地団太を踏んだ。踏みしめた大地が抉れる。憎々しい色を瞳に宿し、『彼女』は上空を見上げた。

 闇夜に羽ばたく影は、満月の夜には幻想的だった。


      ◇


 七月の二十八の日。

 朝の六時前。ソージック学園の校門前には、大量のバスが停車していた。

「……眠い」

 大きな欠伸をひとつして、俺はぶるりと身震いした。

「しかも全校生徒だからなぁ……」

 周囲を見回せば、視界に入るのはソージックの生徒、生徒、生徒。

「仕方ないわよ。毎年恒例。リュウトくんももう慣れたんじゃなかったの?」

 深紅の長髪に、俺より二〇センチ以上は高いであろう身長。リンではなく、イルサだった。一応学年ごとに集まってるはずなんだが。ちなみに当たり前だが、今の彼女はソージックの制服を着用している。

 白のブレザーとプリーツスカートは所々に黒の刺繍が施されていて、彼女の赤髪と似合って……いるかどうかは俺には判断が付かないが、悪くはないだろう。特にマッチングしてるとも思わないが。

「最近はレンと『特訓』に明け暮れる毎日でしたから、寝不足なんです」

 補足すれば、特訓というより修行に近かったが。

「それはまた、お疲れ様です。試合本番でも頑張ってね?」

「がんばりますよ。もっとも、今日の日まで一度もユニフォームを見せてくれなかったのは不満なんですがね」

「うーん。確かに慣らしておいた方がいいけど、今年のはこれまで以上に動きやすいデザインだからぶっつけ本番でも大丈夫だと思うわよ」

「そうですか? 去年はなんだか警備員のような装備でしたけど、あれより動きやすいデザインなんて、いくらでもとまでは言いませんが、結構あるでしょう?」

「警備員……。ま、否定はしないけど。今年のデザインはかっこいいわよ? 変に飾ったりしてないし」

 地味系でかっこいい、か。地味系は結構好きなジャンルだな。動きやすいってことは、伸縮性と通気性を重視したジャージとかだろうか。でもそれだとかっこいいと言えるだろうか。

「というより、男女共通のデザインですか? 他の競技はちゃんと男女別々に用意されてるのに」

「そういうわけじゃないけど、ちょっとデザインが違うくらいなのよ」

 曖昧に笑いながら、イルサは返答をぼかした。

 へえ、と俺が感動詞を呟いた直後、バスに乗るよう指示が出される。

「時間か。じゃ、リュウトくん。ラスパーナに着いてからね」

 ひらひらと手を振って、イルサは十二学年の集まりの方へと行ってしまった。

「リュウト」

 不機嫌そうな声が、背後から呼びかけてくる。

 リンとテラだった。テラはまだ怪我が完治しておらず、左腕を吊っている。ベッドから起き上がれるようになっただけましだろう。

 俺を呼んだリンは、頬を膨らませて俺を睨んでくる。

「なに?」

 つい反射的に、そう訊いていた。

「リュウトは、やっぱり年上がいいの?」

 リンの瞳に、不安そうな揺らぎが灯る。

 年上、さっきのイルサとの会話のことだろう。

「何言ってるのか要領を得ないんだけど」

 しかし、いきなりそんなことを訊かれれば何を言ってるかわからないのが普通だろう。実際俺もリンが言ってることに確証があるわけじゃないし。

 首を傾げて見せてそう口にした俺に、リンはそっぽを向いてしまった。

「もういい!」

 言って、そのままバスの中へ乗り込んでいく。

 ぽん、と肩に手が置かれた。にやにや笑いを浮かべたテラだ。

「ドンマイだぜ」

 小さく、俺にだけ聞こえるような声だった。

 その意味について議論したいところだったが、俺たちももうバスに乗り込んだ方がいい。周りに視線を向ければ、他のクラスメイトたちは既にほとんどがバスに乗り込んでいた。

 バスでの移動はおおよそ一時間の予定だ。

 今年の定期戦は、ラスパーナ王国の総合闘技場で開催される。ソージック学園の十倍もの広さが特徴で、さすがは「総合」と名がつくだけはあるだろう。

「リュウト、見てみろって!! すげえよ!!」

 バスの中で、窓際に座った例のようにテラははしゃぎ出した。六年間の付き合いでわかったことだが、どうもテラは未知の領域に対してただならぬ興味を抱くらしい。いや、それは子供ならば、というより人間なら誰しもが持っている探究心か。

 もっとも、テラの家庭の事情を知ってしまった今となっては複雑な推論が浮かんで、何気ない日常にも深い事情を考えてしまう。

 実家において、大雑把にに言えば落ちこぼれと無視されてきたテラにしてみれば、自分の知らない世界はまさに自由と解放の象徴なのではないだろうか。もちろんこれは俺の憶測でしかない。実際にテラは落ちこぼれではないし、ある程度は無視もされてなかったようだし。

「ほら、リュウト。見ろって!!」

 ただ、仮にそんな事情があったとしても、今のテラは非常にうるさい。

 第一、ロックシステムのせいで俺の体はシートに固定されている。ある程度自由が利いても、この状況で窓の方に身を乗り出すのは面倒だ。

 騒ぐテラを無視して廊下側へと顔を向けると、ちょうど向かいに座っていたリンと目が合う。

「……ふん!」

 一瞬で視線は逸らされた。なんだかものすごいデジャブを感じる。

「はあ」

 退屈である。こういう時の対策はやはりあれしかない。ラスパーナに入国するまでの残り三十分、俺は静かに意識を手放すことにした。

 そして、六時二十八分。ソージック全生徒を乗せた総勢三十の大型バスは、ラスパーナ王国へ到着した。

「はーい、出口に近い人から降りて行って下さーい」

 レアの声が、車内によく響く。

 バスを降りると、当然だがラスパーナの街並みが目に入った。

 風景はジビロンと大して変わらない。相違点を上げるならば、レンガ造りの建物が比較的多いところだろうか。

「久しぶりだなー」

 俺の後にバスから降りてきたテラが、ぼそりと呟く。

「そういや実家はラスパーナだったな。お前」

「ああ、六年前ここを出た時が懐かしい。正直ここにはいい思い出がないぜ」

 深く、テラは溜息を吐いた。

 バス内での俺の推論は、案外に的を射ているかもしれない。

「しみったれてないで、さっさと闘技場まで歩くぞ」

 俺には何も言えない。少なくとも、励ましの言葉は思い浮かばなかった。

 俺たちが降りたのはラスパーナの入り口付近で、ここから闘技場までは歩いての移動だ。

 徒歩十分ほどで、目的地には着いた。実際に目にしてみて改めてその迫力が伝わってくる。

「はーい、選手に選ばれている人は先輩たちと一緒に選手控え室に向かってください」

 レアの指示が聞こえた。

 そこで、俺はリン、イルサと共に一般入場口とは別の選手用の入り口へと向かったのだが。

「ん?」

 その選手用の入り口前に、ここ最近で見慣れた人物がいることに気付く。

「あれは……」

 それなりに目立つガタイの長身と、あのスキンヘッド並の断髪は、安全委員のルークだ。 助手だというリミアンは、き今日は一緒ではないらしい。 もっとも、俺の記憶の中にあった外套姿ではなく、完全防備の兵装だったが。黒の長袖長ズボンに、灰色のプロテクター。腰のホルスターには、あのボールペンじみた金属棒がくくりつけられていた。

「おや、リュウトくんか。おはよう。ここにいるってことは選手になったってわけかい」

 俺たちに気付いたルークが、気軽に声をかけてくる。

「……どうも」

 軽くお辞儀して、そのまま通過しようとするが、

「足は大丈夫かい?」

 口許に爽やかな微笑を浮かべたルークが、眉をわずかに潜めて訊いてくる。

「……はい。あの後、学校の医務室で治してもらいました」

「そう、それはよかった。災難だったね、まったく」

「はい」

「リュウトくんは何の競技に出るんだい?」

「……ハイ・サヴァイヴです」

 ルークの目が丸くなったような気がした。

「そりゃあなんとも。頑張ってね」

「はい」

「うん、もちろんそちらの綺麗なお嬢様がたも」

 俺のそばで、二人がくすりと微笑わらう。

「じゃあ、失礼します」

 ちょうど他の選手の生徒たちも集まってきていたし、俺たちは闘技場入り口を通った。

 ……そういえば、

「なんで安全委員がここに?」

 その疑問に気付いたのは、入り口を通ってすぐだった。

 振り返ってみるが、ルークの姿は既にそこにはなかった。


      ◇


 定期戦の選手たちが集まってきて、ルークは選手用の入り口前を去っていた。

 彼が今向かっているのは、正面の入場口。そこから少しの距離をおいた地点で、ルークの仲間が『警備』の任についていた。

「よっす。ユハラン」

 ルークが声をかけた男性は、辟易したような表情を浮かべた。

「その渾名やめてくださいって言ってるでしょう。部長」

 溜め息をつきながら、ユハラ・インジケートは抗議の声をあげる。

「止めとけ。ルークが人に渾名つけるのは今に始まったことじゃないんだ」

 ユハラの近くで、闘技場入り口の方を見張っていたクラザが諭すように言った。

「クラザ部長は渾名つけられてないじゃないですか」

「うん? いやクラザにもちゃんとつけてるよ。呼ばないってだけ」

「部長は僕をいじめてるんですか!?」

 恨みがましくルークを睨みつけたユハラが吠える。

 ルークはそれを笑って流していた。

「はっは、ああそうだ。クラザ、今んとこどう?」

 視線をクラザに移して、ルークは問う。

「どうも何も、まだ何もって感じだ。ヘルヘイムらしき輩どもはまだ現れておらんよ」

「そうかい。うん、ならいいんだ。午後からは僕とリミちゃんと一緒に裏口警備だったよね?」

「ああ、ついでにリックもだがな」

「そう。それでさ、最初は僕抜けるから、ちょっと三人で見張っててくれる?」

 両手を合わせて、ルークは苦笑交じりに頼んだ。

「構わんが、ああなるほど、シード博士か」

「うん、それに今回安全委員が警備するにあたっての口実の面でもさ」

「ああ、わかった。俺たちで見張っておく」

「うっし。ナイスよクラッちゃん!!」

 クラザの肩を軽く叩いて、ルークは自分の持ち場に戻っていった。その姿が見えなくなったころに、

「クラッちゃんですか」

 ややしたり顔で、ユハラが呟いた。

「おまえリックみたいだぞ?」

 非難がましく、クラザはそう言ったのだった。


      ◇


「これがですか?」

 ソージック学園選手用控室にて。

 ハイ・サヴァイヴのリーダーを務めるトムから渡されたユニフォームを広げながら、俺は呆気にとられたような声を出した。

「ああ、ぴったり合うはずだ」

 にっこりと、トムは自信たっぷりに答える。

 俺はしげしげとユニフォームを見た。

 黒一色だった。

 ライダースーツを思わせるゴム製の全身用タイツに、ジャンパーのような感じの半袖と、似たり寄ったりな印象の半ズボン。これまた黒のリストバンドとレッグバンドもある。

 タイツを付けてから半ズボンと半袖を着る、という感じなのだろう。

 あの警備員スタイルから、よくここまで飛躍できたものだ。確かに去年のスタイルと比べればかっこいいだろう。

「とは言いましてもね」

 トムの方へ、視線を戻す。

 彼は既にユニフォームに着替えていた。厚い素材の半袖半ズボンとは言え、身体のラインが予想以上にくっきりしていた。

 厭というわけではないのだが、一度全身タイツ姿になるのは忌避感を感じなくもない。

「そろそろ開会式が始まる。俺は行ってるから、カワキくんも急いで着替えてきてくれ」

 そう言い残し、トムは控室を後にした。

「急がなきゃ」

 時計を見ると、確かに時間が迫っていた。

 全身タイツ姿に着替え、リストバンドとレッグバンドを撒いて、半袖半ズボンを身につける。

 再度時間を確認すると、開会式十五分前。速足で、俺は控室を後にした。

「結構はやかったんだね」

 追いついてきた俺に、トムは意外そうな言葉を口にした。

 心外だ。少し急いだんだから早いのは当然だろう?

「リュウトくん、かっこいいわよ」

 イルサが声をかけてくる。

「まあ俺としてもいいとは思いますけど、……そんなにかっこいいですかね?」

「ええ、わたしはどう?」

 両手をを軽く広げて、感想を求めてくる。何についての感想かは言うまでもない。

「まあ、綺麗ですよ?」

「うふふ、ありがと」

 デザインは、男子のものとさほど変わらない。けれど、身体のラインがくっきり出る分、その印象は違う。

「でもこんなほとんど薄着みたいなので大丈夫なんでしょうか?」

「問題ないそうよ。タイツも上着も、対衝性、対魔性ばっちりみたいだから」

「そう、ですか……」

 意外と技術は進歩しているようだ。もっとも、前世の技術を物差しに考えるのはあまり得策な方ではないのだが。ネワギワの文化が、前世と同様に発展する道理はないわけだし。

「なら安心ですね」

「ええ、そうね」

 小さく笑い合っていると、トムの指示がとんできた。

「時間だ。第一闘技場に整列するぞ」




 第一闘技場はその一エリアだけで考えても広大だ。ソージックの体育館と変わらない面積は、屋外エリアだからなのか、体育館よりむしろ広く錯覚してしまう。

 ソージック、ラスパーナ、レタデミーの三校の選手たちが並ぶのにも、それほど難はなかった。

『えー、ただ今より三校総合対抗定期戦開会式を始めます』

 スピーカーで拡大された声が、第一闘技場に響き渡る。

『まず、定期戦委員会会長デロイド・セクター氏よりお言葉を』

 選手の列の前に、背広を着込んだ初老の男性が現れる。その斜め後ろのには、なんと外套姿のルークが控えていた。

『今年も定期戦の時期になりました。ラスパーナ、ソージック、レタデミー、各三校の競技意識の向上と、親睦が深められることを心から祈っています。さて、今年の定期戦には、視察として皆さんのご活躍を拝見しに、安全委員の方々が何名か、いらしております。例年とは少し違う制度も設けておりますが、皆さんが己の実力を発揮し、正々堂々と競技に臨むようよろしくお願いします』

 この手の挨拶としては短く終わった方だろうか。まあ例年こんなものなので今更驚くことはないが。

 拍手が起こる中、セクター氏は持っていたマイクをルークへと手渡した。

『続いて、視察に訪れている安全委員部長、ルーク・キミラ氏よりお言葉をお願いします』

 会場中の視線が集まる中、ルークは口元にマイクを傾けた。

『えー、セクター殿のお話にもありましたが、今定期戦の視察で来ました。皆さんの活躍が見れることを心から期待しています。皆さん、この日のために磨いてきた力を、存分に振るってください!!』

 視察か。若芽の内から安全委員の戦力として唾を付けておく感じなのだろうか。それなら安全委員が来ていてもおかしくはないが、ならばなぜ――、

 再び拍手が鳴り響く。灰色の外套を羽織ったままのルークは、深々と一礼した。

 アナウンスが鳴り、拍手が止む。残りの開会式が進んでいく。

 けれど、俺の意識は別の点に向いていた。


 ならばなぜ――、さっきは警備兵のような装備だったのだろうか?


『――――――では、ただ今を持ちまして、三校総合対抗定期戦を開催します!!』

 俺が、そんなことを考えている間に、定期戦開始の声が上がった。


 三校総合定期戦。三大国それぞれで一番の教育機関によって毎年行われている競技際。本戦の種目は七つ、新人戦は三つ。

 そのどれもが、人々を熱狂させるであろう戦闘競技。

 さまざまな思惑が蠢く中、今年の定期戦開始は例年のように、拍手ではなく大音量の歓声で幕を開いたのだった。




                    第2章/了   ~第3章へ続く

 どうも、これにて第2章は終了です。

 それにしても、自分で書いたものを読み返してみると、意外と誤字が多いですね。今直してる途中です(笑)


 次回は定期戦<下> 災厄襲来編です。

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