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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第2章 定期戦<上> 代理出場編
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3,検索ソフト“ユグドラシル”

「テラ、リン、二人とも今日は家来いよ」

 六時限目が終わり、帰りのHRも終わった後、俺は二人に呼びかけた。

「え? なんで?」

 リンが訊いてくる。

「新人戦出場への祝い」

 俺の説明に、テラとリンは納得したような表情をした。リンの方は、そのあと一瞬顔をしかめたが。

 午後四時ごろ、俺たちはソージックを出た。

「リュウトも候補に選ばれたなんてな。選ばれるわけないって言ってたのはどこのどいつだぁん?」

 帰り道の話題は、自然と定期戦新人戦の話になる。

「魔力総量が異常なんだと。俺が思う以上に、俺の魔力はでかいみたいだな」

 もっとも、魔力がありすぎて良かったことなんて今まで一度もないわけだが。

 それよりかは……。

「第一工程さえよけりゃな。無理やりおまえに出来たんだけど。ていうか何でおまえは第一工程が苦手なんだ? ときどきおかしいぐらいに間違えるよな」

 魔法発動に置いて、第一工程の設定は容易なことではないが、テラの言うように別段難しいわけでもない。しいて、魔法の設計図ともいわれる呪文式を頭に叩き込み、発動中もその構造プロセスを十二分に理解している必要があることくらいで、そこさえなんとかできれば、おおよそ苦手といえる技術ではないのだ。

 俺の場合、この呪文式の記憶も理解も問題はない。けれど、現に第一工程は苦手だった。

 正確に言うならば、第一工程をいじって行う詠唱破棄が途方もなくできない。

 理論上、詠唱を省いても呪文式さえ頭に入っていれば、真に意味のある部分を唱えるだけで魔法現象は発動できるのだが、俺の場合、詠唱節のほとんどを唱えない限り魔法は起こせなかった。

「苦手な理由なんてわかってたら苦労はないさ」

 わかったとしても直そうとは思わないが、と心の中で付け足した俺は、前方を横切る知り合いの姿を見つけた。

「……キヨさん」

 七年くらい前に隣に引っ越してきた女性だった。

 俺の両親より長く生きてるらしいが、見た目は完全に二十代ほどだ。と言うより、引っ越してきた当時から一向に容姿に変化がない。昔四十代なのではと疑ったが、もしかしたら三ケタ単位のご年配なのではないかと、前から密かに疑っていたりする。

「あら、リュウトくん」

 キヨさんは、俺に気付くとこちらに歩いてきた。

「学校帰り?」

「はい、友達のテラとリンです」

 後ろの二人を、簡単に紹介する。

「こんにちは」

 キヨさんはにこやかに二人に挨拶した。

「あ、ども。こんにちはっす」

「……こ、こんにちは」

 いつもの調子のテラと違って、リンの表情は堅かった。警戒心がそんなに高い奴ではなかったはずだが。

「そういえば、リュウトくん、今年は新人戦に出れるわよね」

「俺は出ません。代わりにこの二人は出ますけど、見に来てくれたりしたんですか?」

「ええっと、定期戦の日はあいにく別の約束があったから。そうね、早く終わらせられたら見に行こうかなって思ってたんだけど、リュウトくんの友達を応援しにいこうかしら」

 微笑む彼女に、テラが顔を赤くした。

「じゃあね」

「はい、さよなら」

 出かけている最中だったのか、キヨさんはさっきまで歩いていた方向へと行ってしまった。

「リュウト、あの人誰?」

 その姿が見えなくなったところで、テラが俺に訊ねた。

「隣に住んでるキヨさんて人。結構話すこと多いんだ」

「お姉ちゃんといい、リュウトってやっぱり年上がいいの?」

 不機嫌そうに頬を膨らませたリンが、半眼で俺を睨む。

「えっと、そういうわけじゃないけど。キヨさんは昔は苦手だったけど、今は仲良くしてもらってるし」

 俺がそんなことを言う間に、リンの頬はどんどんと膨れていった。

 めんどくさいな……。




 今年の野外活動は、例年には珍しく二月の暮れだった。

 場所はジビロン国の外れにあるラーデの森と言われる大森林。自然に囲まれ、多くの生命が住み着いている森だ。

「あまり遠くには行ってはいけませんよー。集合は三時間後、ここにしまーす」

 正午。くだんの森の中で、レアは大きく声を張った。

 彼女の言葉を合図に、ソージック学園七年Bクラスの生徒たちは自由時間を過ごすため、おのおのに散った。

「リュウト、リン、弁当食おうぜ」

 皆がばらける中、テラは俺とリンに提案した。

「……そうだな」

「うん、まず食べよう」

 リンも賛成の声を上げる。

 俺たちは集合場所から東、つまり森のさらに奥の方に歩いて十分ほどの地点にある開けた場所で昼食にした。

 ピクニックシートを敷いて、それぞれ持ってきた弁当を取り出す。

 俺の弁当は、いつものように母親が作ったものだ。色とりどりの色彩は、俺くらいの年の子供からたすれば素直に嬉しいだろう。

 リンの弁当も、なかなかに綺麗な中身だ。寮暮らしだというテラは、自分で作ったらしいサンドイッチだったが。

「緑が深いな」

 周りを見回して、漏らした。

 ラーデの森はジビロンの東に位置している大森林だ。緑に囲まれた空気は澄んでいて、大きく深呼吸すると爽やかな気分で満たされる。

「そうだなー。ウルスタイガーとかいねえかな」

 テラが、不謹慎なことを言った。一人だけ質素な弁当ならそんなことを言うのも仕方ないかもしれないが。たしかウルスタイガーの肉はテラの好物だ。

ウルスタイガーは非常に獰猛で残虐性が強く、危険種指定されている。

 しかし、その身は珍味とされ、もし養殖・・することができたなら、ネワギワの食文化は飛躍的な推進が望めることだろうとも。

「いないいない。ウルスタイガーの生息分布は山や森じゃないもの。遭遇するとするんなら去年の方がまだ可能性があるよ」

 もし遭遇したとしても、今の俺たちでは喰う側ではなく喰われる側になってしまうだろうけど。

「それより、食べ終わった後どうする? 一応、森の中の生き物を観察することになってるけど……?」

 リンの問いは、もっともな内容だ。

 生き物観察は確かに自由時間内での活動とされているが、現実にはほとんど自由な遊び時間と変わらない。特にレポートを作る必要も提出する必要もないからだ。

 しかし今は――。

「普通に生き物観察でいんじゃない? 他にやることもないし、遊んでも森の中じゃ楽しいことはなさそうだし」

「えー。つまんなさそうだなー」

 とテラが不満を口にする。

「森ん中で遊んでもつまんねえぞ? 木と落ち葉があるだけだからな」

 実際こんな場所での遊びに長続きなどするはずもない。

「ちぇ」

 昼食を取った後は、俺の提案通り生き物観察となった。

「あれ何だろ?」

 リンが、俺たちの前方四、五メートル先の木々の間を歩く生き物を指さして言う。

 ごつごつとした強固で大きな鱗が全身を覆った、体調一メートルほどのトカゲだった。茶色の体色に独特の斑点模様と、上顎から鋭く突き出た牙から推測するに、マダラトゲトカゲかその仲間だろう。

 トゲトカゲの中でも特に大人しい種で、食事の時以外は非常に動作が遅い。俺たちの視線の先のマダラトゲトカゲは、のろまと言うほど動く速度は遅くなかった。突然変異や、別の種類でもない限り、これから狩り・・を行うということだろうか。

 静かに、マダラトゲトカゲの進行方向の先を見てみた。ふわりと、小さい白い影が跳んでいる。白うさぎだ。

 マダラトゲトカゲが、一瞬で走り出した。

 遅れて、白ウサギも一目散に逃げ出す。

 しかし、マダラトゲトカゲは普段ののろまさを感じさせないほど、食事の際は俊敏だ。あっという間に、白の点と、茶色の体の距離はなくなり、

「あッ!」

 鋭い牙が、雪のように純白の小体を捕らえた。

「……自然の摂理だな」

 むしゃむしゃと食事に移るトゲトカゲを見ながら、俺はぼそりと呟いた。

 テラもリンも、マダラトゲトカゲが両の前足でじたばた動く白ウサギを抑え、最初の一口を味わった瞬間に目を逸らしていた。まあ、確かに十二歳が見て平気でいられる光景ではないだろう。

 俺だけが、茶色のトカゲの行為から目を背けずに観察している。あんなに白く、可愛らしかったカタチは、今や見る影もないグロテスクな肉塊へと変わっていた。その光景とリアルな咀嚼音は、俺としてもいい気分にはならない。

 幸い、マダラトゲトカゲは人は襲わない。

 あれだけ大きな体なのに、獲物にする動物はウサギや鳥などの小動物、大きくても鹿なのだ。目を離しても、別段危険なわけではない。

 やがて、食事を終えたマダラトゲトカゲは、満足そうにゲップのような音を吐き出すと、のろのろとどこかへと歩いて行った。

「……驚異のマダラトゲトカゲ」

 気分が悪そうに顔を青くする二人に聞こえないよう、俺は小さく呟いた。

「何よ、あれ」

 震える声で、リンがこぼした。

「マダラトゲトカゲの、……捕食の、瞬間だな」

 リンの目を見ずに、俺は答えた。

 同じく吐きそうな顔をしていたテラに、苦笑しながら続けた。

「ウルスタイガーに比べれば全く怖くないぞ? 少なくとも危険種指定されてはいない」

 冗談めかしたつもりだが(内容は全くの事実だが)、笑いを取るには、やはりあの光景はトラウマ級にインパクト大だったらしい。

 青い顔のまま、二人は恐ろしげに俺を見た。

「リュウトは、平気なの?」

 リンが、今にも吐きそうな、か細い声で訊いた。

「平気なわけではないけど、少なくともかわいそうだとは思ってるよ。……でも」

 先ほどまで、トゲトカゲが食事していた場所を見ながら、続ける。

「あのトカゲだって食べないと生きていけないし、逃げ切れなかったウサギが不運だっただけだ」

 冷たい口調で突き放すような声色だと、自分で言いながら感じた。二人が黙って、俺を見ているのがわかった。

 体のいいことは言ったが、俺の言葉はリンの疑問を否定できていない。かわいそうだと哀れみこそすれ、結局俺は、あの惨劇を目の当たりにして平気だったのだから。

 俺たちはたっぷり二十分はそこで黙って立っていた。

 二人が落ち着いたところで、また生き物観察を再開したのだ。

 さらに十分ほど、さらに森の奥に行ったところ。

「リュウト、あそこ」

 リンがかなり遠くを見ながら、ふと呟く。

 その視線の先には、大きく開いた洞窟があった。穴の直径は、目測で縦約二メートル、横約三メートルだ。異界の入り口めいた異様な雰囲気が、真っ暗な穴の奥から漂ってくる。

「でかいな」

「入ってみる?」

「は?」

 到底、リンの台詞とは思えなかった。どちらかと言えば、テラの方が言いそうなことなのに。

「行かないの?」

 リンは、途端につまらなそうに斜め下に目を逸らす。やはり、彼女も退屈しているらしい。

 マダラトゲトカゲの凄惨な捕食を目の当たりにして、気分もそんなによくないはずだ。

 気分転換に刺激が欲しいと思っているのかもしれない。

「テラは?」

 テラに意見を仰ぐと、彼はしばらく洞窟を凝視し、

「行ってもいいと思うけど、時間大丈夫か?」

 腕時計を確認する。集合時間までは、まだ一時間と三十分はある。十分な余裕はあるだろう。

「ああ、大丈夫そうだ」

「そうか、ならいいんじゃないか?」

 俺の言葉に、テラは了承の言を返した。

 洞窟の中は、予想通りと言うか、薄暗かった。

 リンとテラが、魔法で光球を生みだして周囲を照らす。俺も魔法で照らしてもよかったのだが、あいにくと懐中電灯要因は二人で十分だった。

 洞窟の内部は、どこか生物の体内にいるかのような印象を受けた。

「うへ~。なんか出そうだな~」

 前方を凝視しながら、テラが呟く。

「……ヴァプラーの群れなら出るかもな」

 驚かせるつもりは毛ほどもなかったのだが、テラもリンも、揃って足を止めてぶるりと身震いしてしまった。

 ヴァプラーと言うのは、簡単に言うなら蝙蝠こうもりのことだった。

 ネワギワでは、コウモリはヴァプラーという名称なのだ。食性と顔部の構造以外の、骨格構造と生態はおおよそ前世の蝙蝠と同じだ。

 相違点としては、前世のものは虫を主とする小動物や果実、その他もろもろを餌としていたが、ヴァプラーの食性は他生物の体液であるということだろう。吸血を行う蝙蝠は前世にもいないわけではなかったが、その種は少なく、ヴァプラーのように種類を超えて共通の餌としているわけではない。吸血行為のため、ヴァプラーの頭部はより吸血を行いやすい構造へと進化した。鼠のように鋭く突き出た、中身がチューブになっている二本の牙が特徴で、吸血の際はこの牙を通して獲物の体液、主に血液を吸引するのだ。

 他に、何の因果か本来はヘビが持つ赤外線感知ピット器官を備えており、この能力が原因でヴァプラーの主な吸血対象はもっぱら哺乳動物となっている。もちろん、前世の蝙蝠同様、超音波による反響定位エコーロケーションも持っている。

 目はほとんど退化しており、鼻にあたる部位にあるひとつだけの眼窩に小さな眼球が収まっているだけだ。

 群れで行動するのだが、摂取する血液は基本的に自分以外・・・・の生き物の物ならなんでもいいため、極度の飢餓状態に陥るとしばしば共食いのような現象が起こるらしい。

 ちなみに俺個人の意見だが、ヴァプラーという発音は、なんとなく吸血鬼ヴァンパイアを連想させる。偶然か、それとも意図的な作為の結果か。恐らくは、前者であろうが。

「大丈夫だよ。とりあえず炎出せば寄ってこないし」

 二人にそう言って聞かせ、俺は歩を進めた。

 さらに奥に進むと、前方にぼんやりとした白い光が見えてきた。

「何あれ?」

 何故か先頭を行っている俺が呟き、

「「お化け?」」

 後ろで照らす二人が疑問の声を出す。

「……このまま行くかい?」

 振り返り、半ば引き返すことを希望しながら、2人に訊ねる。

 二人は少しの間顔を見合わせ、やがてこくりと揃えて首を縦に振った。

「…………」

 時間的にもまだまだ余裕はある。諦めて、俺はまた前に歩きだした。

 十分ほどだろうか。ぼんやりとしていた光がはっきりと見えてきた。その頃には、すでに俺たちは歩くのではなく小走りで進んでいた。

 開けた空間に出た。恐らくは、ソージック学園が丸ごと入ってしまうであろうほど広大な空間で、奥には湖畔が広がっている。

 白い光の正体は、湖岸の辺りで静かに浮遊する、正八面体の発光体だった。近づいてみると、その発光体はわずかに上下に揺れながら時計回りの回転をしている。白い光は、近づくほど強くはっきりとするのに、不思議と眩しいとは感じなかった。

 大きさ的には、一辺は大体五十センチから一メートルくらいだろうか。地面から十数センチほどを漂うその発光体を、俺たちは眉を寄せながら見た。

「何、これ?」

 テラがもっともな疑問をこぼす。

「触ってみたら?」

 あくまで客観的に、提案する。

「「……リュウトがやってよ」」

 二人の声が、揃って俺に返ってきた。

「…………」

 これで何かの爆弾だったら笑えないが、どうしてか俺は触ってみたいという欲求に駆られた。あるいは無意識下で安全なのだと判断したのかもしれない。正八面体への接触に、警告の鐘は鳴らなかった。

 さすがに最初からべったりと触るほど俺も無防備ではない。指先でこつんと突いてみた。

 発光体は、それだけでもかなり揺れた。そして――、

『検索者の接触を探知。世界接続検索ソフト“ユグドラシル”起動』

 女性のように高い声が、洞窟内に響いた。




「なんだよ?」

 俺の背後で、テラがそんな呟きを漏らした。

「俺だって知らないよ」

 俺は律儀に答えた。

『検索事項があれば、口述下さい』

 高い声が響く。おおよそ、感情のようなものが感じられない、無機質な声だった。

 訊きたいことがあったら言え、ということだろうか。

 俺は背後の二人を振り返った。

「どうする?」

「どうするって……」

「試しに訊いてみてもいいかな?」

 何故か、この発光体に対して警戒心は働かない。それが何かしらの罠だという可能性もあるが、その時はその時だ。

 テラもリンも、なんとも言えない表情をしていた。

「まあ、いいんじゃない?」

 疑念に満ちた声で、リンが言う。

 俺はまた、正八面体の発光体に視線を戻した。とりあえずは、第一の疑問をぶつけてみるとしよう。

『検索事項があれば、口述下さい』

「えっと、あなたは一体、何……ですか?」

 質問の後、いくばくかの間があった。

『検索事項の確認を行います。ご質問は、当システム、世界接続検索ソフト“ユグドラシル”の情報を求めているという解釈でよろしいでしょうか?』

「あ、はい。多分、それであってます」

『かしこまりました。当ソフトは、ソフト自体が作成されたヘルムン暦0001から今現在までの全ての情報を記録した検索ソフトです』

 ……インターネットのようなものだろうか。

 顎に手を当てた俺の後ろで、リンが信じられないというような声音で呟いた。

「ヘルムン暦0001? 七千年くらい前からあるってこと?」

『いいえ。正確には五周前のヘルムン暦0001です』

 ネワギワの暦は、メルーラ暦とヘルムン暦を五千年周期で交互に繰り返し、数えられている。五周前、ということは大体五万年前と言うことになるのではないだろうか。

「それって暦が数えられるようになってからってこと、ですよね?」

『そうです』

「どうやって情報を記録してるんですか?」

 自然と、口調は敬語で固定されていた。

『申し訳ございませんが、その検索事項は凍結単語ワードに抵触いたしますのでお答えできません』

 俺はまた二人を振り返った。二人とも信じられないという表情だ。でも、それは決して信じてないという意味に直結したりはしない。

「二人とも信じたのか?」

 両目を半眼にして、呆れたような声で訊く。

「リュウトは信じてないの?」

「確証が持てないから、まだなんとも言えない。一〇〇パーセント信じるには早いと思う」

 ではどうするか。この発光体、仮にユグドラシルと呼ぶとして、五万年前から存在しているという説明と、全ての情報を記録しているという説明を信じるためには、どういう説明があれば納得できるか。とりあえず、俺はユグドラシルに視線を戻し、

「リュウト・カワキについての情報は?」

 俺が思いつく方法で手っ取り早いのはこの方法だった。もっとも、個人情報がなんたらと理由づけして簡単に逃げることができる、最良手とは言い難く、それどころかほとんどあてずっぽうに近いやり方だが。

『検索事項を確認します。メルーラ暦2300 二月の十の日に生まれたリュウト・カワキ様の情報で間違いないですか?』

「……はい」

『メルーラ暦2300 二月の十の日生まれ。現十二歳。父、シグルド・カワキ。母レミア・カワキ、旧姓ハングルド。一歳下に弟のレン・カワキがいます。身長145.8センチ、体重四十二キロ。魔力総量値約5456。現在ソージック学園の低年部最終学年です。これ以上の情報開示を求めますか?』

「……いえ、いいです」

 これ以上の情報開示は、なんとなく憚られた。

 もしかすると、生まれ変わる前のことまで暴かれるのでは、と直感したのだ。振り向かず、俺は二人に実験の結果を告げた。

「信じるしかないな、これは」

「自分の個人情報を検索するか、フツー?」

 呆れたようなテラの声が聞こえてきた。その表情が、少し……イラついた。

「テラヴァルト・ドラグランの情報は?」

「わーわー!! わかったよ!!」

 ちょっとしたからかいだったのだが、思った以上にテラは慌てたようだった。

「――て言うか時間大丈夫なのか?」

 腕時計を確認する。少し危ないかもしれない。

「最後にひとつだけ、訊いてからでいいか?」

 ユグドラシルの名称を聞いた瞬間、気になっていたことがあるのだ。

「んー。ひとつだけならいいかもな」

「うん、早いとこ済ませちゃって」

 二人の了承を得て(了承されなくても無理やり訊いただろうが)、俺はユグドラシルに問いかけた。

「最後の質問、“ユグドラシル”って名前はどこからきた?」

 あえて、敬語は外した。意味は特にはなかったかもしれないが。

 背後の二人が首を傾げる様子が想像できたが、構わず訊いた。

 ユグドラシルと言う単語は、専門的に知ってるわけではないが、聞いたことくらいはある。

 けれど、それがネワギワにあることはおかしいのだ。ユグドラシルとは、前世・・の北欧神話に出てくる世界樹の名だ。ネワギワの世界に、あるはずがない単語ワードだった。

「ただ単にユグドラシルって名前を作った・・・わけじゃ、ないんだろう?」

 俺の静かに攻めるような質問に、

『申し訳ございませんが、その検索事項は凍結単語に抵触いたしますのでお答えできません』

 世界接続検索ソフトは、実に人間のような拒絶を答えた。

 しかし何はともあれ、もう俺がここにいる理由はなくなったのだ。

「……行こう」

 そう言って、俺たちは奇妙な洞窟内の空間を後にした。

 集合時間にはぎりぎりで間に合った。

 帰りのバスの中、俺は窓際で頬杖をついて外の景色を眺めていたが、その情景はまったく脳裏に焼きつかなかった。

 洞窟内で見つけた発光体のことばかりが頭に浮かんだ。世界の始まりから全てを記録しているという、とても信じきれない説明だった。北欧神話のユグドラシルは世界の起源さえなかった過去から存在し続けると言う。その話は、どことなくあの発光体に似ているように思える。

 ――もしかすると、だから「ユグドラシル」という名称なのだろうか。


 しかし、だとすると――――。

色々と文章をいじりました。

ストーリー的には特に変化はないです。

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