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レッド・ムーン  作者: 翡翠蝶
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櫻の友

ミッドナイトは、暗い部屋の床に座り、暴れる吸血鬼を眺める。

壁は爪跡が残り、家具は滅茶苦茶に破壊されている。

「ミャ~」

鳴くと、暴れていた吸血鬼は静かに振り向く。

「ミッドナイト・・・・・・」

朱蘭の瞳は真っ赤に染まりきっていた。だが、冷静さは在ったらしい。

暴れるのを直ぐに止めた。

「ミャン」

ミッドナイトが尋ねるように鳴くと朱蘭は力尽きたようにへたり込む。

「・・・・・・どうしよう・・」

そう呟いた言葉にミッドナイトは語り掛ける。

「ミャン、ミャ~オ」

朱蘭はハッと気付いたような顔をした。




               *

歩くだけで生気を吸い取られそうな大地、冥界。

朱蘭は紅いマントをはためかせながら進む。

生命を感じない櫻がヒンヤリとした肌に纏わりつくような風に枝を揺らす。

奥には白砂糖で出来たような神殿が見える。

朱蘭は、神殿の扉に手を掛けた。その途端、

「ギギーッ」

と軋むような音をたてて扉が開く。

朱蘭は躊躇いなく入って行く。

「・・・・・・久しぶりですね。」

入るとそこには白い虎、ホワイトタイガーが待っていた。

「お出迎え?琉錨りゅうびょう。」

朱蘭が聞くと虎は頷いた。

「朱蘭様が来られるなんて滅多に有りませんから。」

琉錨はこちらです、と案内する。

「あら、いらっしゃい。」

櫻の絵が彫りこまれた白いドアを開けると、美しい女性がソファに腰掛けていた。

「・・・・相変わらずね。」

女性──────白櫻しろざくら魅麗みれいは花模様の扇子を口元に当てて笑った。

二つ名を『月夜に舞いし墨染め櫻』。

「・・・・・冥界に住んでる幽霊よりはマシだと思うけど。」

朱蘭は魅麗の向かいのソファに座った。

魅麗は驚いたように目を細める。

「どうしたのかしら?貴方らしくないわね。いつもより魔力が強いわ。それに、あの黒猫も居ないし。」

さすがは魅麗だ。すぐさま朱蘭に異変が生じている事に気付いたらしい。

朱蘭は苦笑した。

「実は・・・・・・」




「あらら、それでそんなに魔力が?」

一通り話を聞き終えた魅麗は眉を顰める。

朱蘭は認めるしかない。

「ウフフ。案外、意気地無しなのね。昔の初恋相手に会った位で動揺しちゃうなんて。」

魅麗は扇子をヒラヒラと動かす。永い付き合いの魅麗にはお見通しのようだ。

朱蘭は自然と顔が赤くなった。

「・・・・・こんな風に会うとは思ってなかっただけよ。」

「それで?上手く力の加減が利かなくなってきたから助けて欲しいと?」

魅麗の声は呆れたという思いが滲み出ていた。

「・・・魅麗なら可能でしょう?貴方は、封印術が上手なんだから。」

「可能だけど・・・・。」

「なら、遣ってくれる?ミッドナイトが貴方に頼んだら良いと言っていたのよ。」

「・・・・・・・・・・・・」

魅麗は渋々席を立った。



「夜桜封印!」

魅麗がそう叫ぶと勢いよく櫻の花びらが朱蘭の足元から溢れ出し朱蘭を包む。

十分ほどするとゆっくりと桃色の光が薄くなっていった。

「どう?気分は?」

魅麗は尋ねる。

朱蘭はフゥ・・・・と息を吐き、目を開ける。

「良いわ。これなら自分を抑えられそう。」

魅麗はパタンと扇子を閉じた。

「自分を抑え込むなんて、吸血鬼が考える事にしては変わってるわ。」

「私が力の加減が利かないせいで、大切な人を傷付けてしまったんだもの。」

朱蘭はそっと溜め息を吐く。

「・・・・ギルドの皆を傷付けたくないの。」

「その志は素敵だけど・・・」

魅麗はトンと朱蘭の肩に手を置く。

「こんな風に自分を抑え込むなんていう辛い選択肢には納得出来ないわね。」

それから、打って変わって明るく言った。

「お茶でも飲みましょ、美味しい紅茶が手に入ったの。朱蘭も気に入るわ。きっとね。」




               

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