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レッド・ムーン  作者: 翡翠蝶
2/12

妖怪

カーテンの隙間から目を細めながら華漣は妖怪達の様子を観察している。

「特別強い妖怪は居ないみたい。あれなら朱蘭の出番はないわね。」

「雑魚ばっかりか・・・・」

朱蘭は、誰を行かせるか考える。

「・・・・・そうね。夢胡、貴方に任せるわ。」

「ワタクシ達も暴れたのだけど・・・・」

需浬は、頬に手を添える。

みんな行かせても良いんだけどね。雑魚ばっかりなら、夢胡だけで十分。」

「ええ~私も行きたいです~・・・・。」

眞李はぷう、と頬を膨らませる。

「眞李が行ったらあの妖怪全員、死ぬだけじゃ済まなくなるでしょ。」

華漣がツッコミを入れる。

「じゃ、行ってきます!お姉ちゃん、見ててね!」

夢胡マントを羽織り、意気揚々と部屋を出て行った。




「わあ、何か無駄に一杯いますね~。」

夢胡は、怯える事なくニコニコ笑顔だ。

「ここから出て行け~!」

「ここは、我らが主、吋土とうど様の領地だ!」

妖怪はギャアギャアと騒ぎたてる。

「うるさいですね。」

夢胡はフードの中で真顔になった。

「・・・・・・・・・・・雑魚どもが。」

夢胡は、翼を広げ軽やかに飛び立つ。そして、片っ端から妖怪を殺って行く。

「殺ってる、殺ってる~!」

眞李は夢胡の殺し様を観ながら、はしゃいだ声で笑う。

朱蘭は紅茶のカップを傾けながら溜め息。

「・・・・眞李、カーテンを閉めて。不愉快だわ。」

吸血鬼は日光が苦手だ。数時間なら当たっても平気だが、結構辛い。

だから、活動は夜だし、どうしても昼に外に出る時はギルドメンバー全員マントを被る。

因みに、マントの色はその人に合った色を選んでいる。

需浬は緑。眞李はオレンジ。美胡と夢胡は紫。華漣は黒。そして、朱蘭は赤。

部屋のカーテンだって日光を避けるための物だ。

「眞李、聞いてるの?カーテンを閉めなさ────────────」

「妖怪さん、どんどん逃げて行くよ~?」

眞李が朱蘭の言葉を遮って不思議そうに言う。

朱蘭も興味をそそられて、カーテンの隙間から覗いてみる。

眞李の言う通り、妖怪達は夢胡の怖さに怖気づいたのか武器を放り出して逃げている。

後には、妖怪の屍骸と夢胡だけが残る。

夢胡は、ポカンとしていた。




               *三日後*



「リーダー、また妖怪が居ます。」

夢胡は機嫌が悪そうに知らせる。

「今度は、どんな妖怪かしら?」

需浬が首を傾げる。

「人数は少ないけど、強そうな妖怪達です。・・・・・・シクシク」

美胡は泣き出す。

「オマケに巫女まで居ますよ?」

夢胡は、面倒臭そうだ。

「へぇ。妖怪が、巫女に助けを借りる?」

華漣はせせら笑った。

「・・・・・・・ミッドナイト、どうする?」

「ミャオ~ン」

朱蘭は黙って頷いた。

「・・・需浬、宜しく頼むわ。ミッドナイトのご指名よ。」

「遂にワタクシの出番ですか。」

需浬はフフ、と怪しく笑う。

「適当に追い返しなさい。」

「お任せを。」

需浬は、緑のマントを閃かせて上品にお辞儀をした。




「誰か出て来た!」

巫女が驚きの声を上げる。

妖怪四人は身構えた。

恐怖に落とされた妖怪達が泣く泣くその怖さを話したからだ。

「・・・・テメェか。俺らの仲間を散々殺ってくれたのは・・・」

蛙妖怪が怒りの籠もった声で需浬に言った。

「・・・・・・・・・・・」

需浬は冷静に聞き流す。

「随分だな。出てきといて、沈黙とは。」

蛇妖怪が皮肉を言う。

「・・・・・貴様だろう?三日前に妖怪殺しを働いたのは。」

蜘蛛妖怪(吋土)が低く尋ねかける。

「・・・・・・・・・ワタクシではありません。」

「じゃあ、誰が?」

巫女が目を丸くしながら聞いた。

「ワタクシの仲間でございます。それに、誤解しているようですが、襲ってきたのはそちらです。ワタクシの仲間は返り討ちにしただけですわ。」

「・・・・・・そんな話、信用できるか!」

蛙妖怪が激怒する。

「ならば、信用なさらなくて結構です。お帰り下さい。」

需浬は踵を返す。

「あの、・・・・・・待って!」

巫女が需浬に呼び掛けた。

「まだ、何か?」

需浬は振り返る。

「・・・・・・どうして、こんな人気のない所に住んでいるんですか?」

「・・・・・・・人間と馴れ合いたくないのです。」

需浬は冷たく突き放す。

「・・・・・お願いだからお話させて下さい!ここに居る妖怪達は、仲間を殺されて気がってるんです。キチンと話し合った方が良いと思います。」

「・・・・・・・・」

需浬は考えを巡らした後、渋々承知した。小さく溜め息をを吐き、フードを脱ぐ。

巫女も妖怪も息を呑む。フワフワの緑の髪に長いまつ毛。肌は血が通っていないような白さだ。澄んだエメラルドの瞳。

「美人ですね・・・・」

「有り難う。」

屋敷の扉を開け、妖怪と巫女を招き入れる。

長い廊下を歩きながら、需浬は文句を言われる覚悟をした。

「ここです。」

ギルドの部屋に入ると予想通り暴言が飛んできた。

「何遣ってるのよ!アホ!」

華漣は物凄い勢いで責め立てる。

「ミッドナイトから任せられたんだからもう少し上手く遣りなさい!信頼してたのに!」

「華漣が、怖い・・・・・・グスン。」

美胡が泣き出してしまう。

「今日は私もお姉ちゃんみたいに泣きたいよ・・・」

珍しく夢胡まで弱気だ。

妖怪と巫女は唖然とする。そこに凛とした声がする。

「・・・・・・・・華漣、そこで止めなさい。需浬、お茶を用意して。」

「あ、・・・はい!」

需浬はマントを脱ぐと奥に走って行く。

「・・・・・・・・朱蘭・・!」

華漣は、朱蘭を睨んだが諦めたように椅子に座る。

「お客様もお座りになって。」

警戒しながらも座る妖怪と巫女。

「さて、何からお話しようかしら。」

朱蘭は、笑みを浮かべながら需浬の用意してくれた紅茶を啜る。

「その女の人を責めないで下さい!私が無理に頼んだだけだから・・・・」

巫女が需浬をフォローする。

「需浬の事かしら?大丈夫、責めたりしないから。」

「そうなのだよ~。需浬を責めるなんてしないのだよ~?」

眞李がのほほんと呟く。

「巫女さんは優しいんだね~・・・感激したよ~。」

「いえ・・・」

眞李に褒められ恥ずかしそうな巫女。

「・・・・・人間褒めてどうするのよ。」

華漣が容赦なくツッコむ。

「まず、自己紹介しましょうか。」

朱蘭は自分の名を名乗る。皆も順番に名乗っていく。

「私は、近くの芳養那はやな神社の巫女、梨亞りあです。」

巫女も名乗った。

妖怪達は顔を見合わせる。

「自己紹介してよ!」

梨亞に押され蛙妖怪が最初に名前を言う。

怜川れいせんだ。」

他の二人の妖怪も嫌々に口を開く。

蜘蛛妖怪は吋土、蛇妖怪は楓雷ふうらいという事が分かった。

後、狐の妖怪は蝋火ろうびといった。

なぜか、楓雷は朱蘭を見て動揺していた。

「妖怪を殺したのは誰ですか?」

「私だけど?」

梨亞の問いに夢胡が躊躇なく手を上げる。

途端にいきり立つ妖怪。

朱蘭は、妖怪を宥め、訳を話した。

ギルドの事、隠れる理由、妖怪を殺した事の説明。

「・・・・・・・じゃあ、ここに居るのは吸血鬼って事か?」

怜川の質問に一斉に吸血鬼は頷く。

「どんな過去を見て来たんですか?」

梨亞は質問する。

「・・・・・・・試しに観て見る?」

朱蘭は微笑む。

「止めときなさいよ。まだ何も知らないお子様巫女には刺激が強すぎるわ。」

華漣が呆れたように言う。

「・・・・見てみたいです!」

「それなら、私の過去を観るか~?───────」

眞李がのんびりと聞く。

「あんたはダメ!」

「眞李のはアウトだよ!」

「観たら巫女さん死んじゃうよ・・・・・クスンクスン」

「さすがにちょっと・・・!」

華漣、夢胡、美胡、需浬が止める。妖怪と梨亞はキョトンとした。

朱蘭は苦笑する。

「需浬、あなたの過去を。」

「私ですか?良い・・・ですけど・・・」

華漣に目配せすると華漣は直ぐに呪文を唱え、需浬の記憶の欠片を梨亞に移す。

「・・・・!?」

梨亞の瞳から涙が零れる。

「梨亞?!」

「どうした?」

怜川と吋土が声を掛けるが梨亞は顔をクシャクシャにして首を横に振るだけ。

「・・・・・・もう良いわ、華漣。」

華漣が呪文を唱えるのを止めると梨亞の体から力が抜け、吋土が慌てて支える。

「・・・・・・・こんなのって・・・こんなのって・・」

梨亞は泣きじゃくる。

「やっぱり、需浬のはきつかったんじゃないか~?」

眞李が言う。

「ですね。はい。」

需浬も困ったような笑みを浮かべたのだった。




「納得してくれた?」

「・・・・・・私は、貴方達の気持ちが分かりました。けど・・・」

梨亞は吋土達の顔色を伺う。

「・・・・・・・・・・・殺された者は少なかった。それに、話を聞く限りでは、皆ワケアリみたいだしな。だから、今回だけは・・・許してやる。」

怜川は朱蘭を睨みながら話す。

「言っとくけど、俺はテメェらを味方と決めたワケじゃないからな。」

「今回だけは見逃す、という事だ。」

それだけ言うと、怜川と吋土は帰って行く。

「待ってよ!二人とも!」

「やれやれだねぇ。」

梨亞と蝋火も後を追う。

蛇妖怪だけが、後に残った。

「どうしたのだよ~?」        

眞李が尋ねる。

「・・・・・・琥蝶こちょう・・・」

朱蘭を見ながら楓雷が押し殺すような声で呟いた。

「「「「「???」」」」」

朱蘭以外の者は首を捻る。

朱蘭は笑った。悲しげに。

「・・・・・」

楓雷は微かに首を横に振ると仲間の後を追って行った。










              


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