ギルドメンバー
細い猫の瞳のような月。
一人の少女が目も眩むような高い塔から夜空を見つめていた。
マントがバタバタと風にはためき少女の長い髪とコウモリの羽を揺らす。ベルトに付けられた黒いフルートがカチャカチャと音をたてる。足元には左が紫で、右が赤のオッドアイの黒猫が座り込んでいる。黒猫の首輪は、雫型の紅玉が月の光で淡く輝いている。
「・・・・・・・・・今日の空気は嫌な臭いがする。」
「ミャ~オ」
黒猫が静かに鳴いた。
少女と猫が、真っ直ぐに歩いて行く。
人気のない屋敷。ここが少女の住処だ。
少女は、廊下の端にある立派なドアを開け放った。そこは開放的な部屋だった。黒いカーテンが部屋に入ってくる光を完全に遮断している。
「昨日は、随分とアレがうろついていたみたい。」
入るとすぐに緑色の目をした少女、緑瓦春需浬が話しかけて来た。
「そう。」
「リーダ~・・、どうしましょ~・・・。」
泣き虫な女の子、双子の姉の祁瞑美胡が泣きついてくる。
「お姉ちゃん!何やってるの!」
怒りの声を上げたこちらは美胡と双子の妹、祁瞑夢胡。
この双子、そっくりなうえに着ているものまで全部同じ。区別をつけるのなら性格だろうか。
姉の美胡は、泣き虫で臆病。妹の夢胡はしっかり者でハキハキしている。全く真逆のこの二人。
夢胡が姉と勘違いされた事だって少なくない。
「どうしたの?」
「コウモリさん達がからかうんです~・・・・グスン・・・」
「お姉ちゃん!そんな事で泣かないの!」
少女は、双子を無視して進む。
「おはよう。朱蘭。」
そう声をかけてきたのは、冷静沈着な冬檜螺華漣。
「見てみて~!机が曲がっちゃった~!」
明るい声の主は、蒔紅琶眞李。天然の、のんびりさんだがその力を舐めて掛かれば死ぬ事になる。
朱蘭は、自分の机に行くと大きなベルベットの肘掛け椅子に座り、部屋を見渡した。猫も机の端に飛び乗りツンと澄ます。猫の名はミッドナイトという。
「おはよう。皆。」
「おはようございま~す!」
部屋にいる人達全員が声を揃える。
朱蘭・・・すなわち期沙羅魏朱蘭は満足げに頷く。
ここは、レッド・ムーン(紅い月)というギルドの部屋だ。
このギルドは特別だ。人数は需浬、美胡、夢胡、華漣、眞李、朱蘭ミッドナイトの六人と一匹で、性格がバラバラでもこの六人と一匹には共通した部分がある。
もうお気付きかもしれないが、このギルド、レッド・ムーンには吸血鬼しか居ない。
だから、必ず皆、背中に翼を持っている。と、同時に血塗られた過去も抱いている。
見るのもおぞましいような光景を六人の吸血鬼と吸血鬼猫は嫌というほど噛み締めてきた。
そんな辛い経験をした者達が集まるのが、このギルドなのだ。
そして、リーダーは朱蘭。副リーダーは猫のミッドナイト。朱蘭は常にこの猫と一緒にいた。
ミッドナイトは、九百年もの時を生きた猫でその知恵と洞察力に敵う者はいない。
需浬は、情報屋として活躍している。二つ名『見通しの瞳』。
双子の美胡と夢胡は頭の回転の速さから敵の弱点を見抜く。『二つの幼き刃』。
華漣は、魔法がギルドメンバーの中で一番得意で、『魔術の紅い華』。
眞李は、その可愛らしさと敵を殺す勢いから、『壊れたドール』。
ミッドナイトは、『知のヴァンパイアキャット』。
朱蘭は、ワケありで能力は秘密だが、二つ名は『レッド・ムーンの奏』。
朱蘭は、魔法の黒いフルートを吹く。すると、フルートを聴いた者は快楽と苦痛を味わいながら死んでいくのだ。
「ねぇねぇ、リーダー、外に一杯妖怪さんがいるよ?」
眞李がカーテンを少し開けて言う。
「フ~ン。」
朱蘭は顎に手を添えた。
「多分、私達の噂を聞いて退治しに来たんじゃない?」
華漣は、落ち着いた表情だ。
「どうするの~?シクシク・・・」
美胡は、泣き始める。
「お姉ちゃん!・・・・・・朱漣さん、殺しに行きましょ。」
夢胡がどうしようもない姉を宥めながらサラリと言った。
「そうね。美胡の言う通り。」
「需浬さ~ん、私、夢胡ですよ。いい加減覚えて下さい~。」
「そうだった?ゴメンなさい。分からないのよ。」
需浬は、情報屋の割りにいつも双子の名前を間違う。おっとりしていてたまに大丈夫なのか、と心配になるぐらいだ。
「リーダー、私も暴れたいで~すよ~。」
他の皆もうんうん、頷く。
「どう思う?ミッドナイト?」
「ミャン。」
ミッドナイトは皆を暴れさせてやれと言った。もっともミッドナイトの言葉を理解できるのは朱蘭だけだが。
「それじゃ、やりましょうか。」
「ワ~イ!!」
「久しぶりに暴れられる・・・」
「やったね!お姉ちゃん!」
朱蘭は、苦笑した。
「殺り過ぎはダメ。良い?」
その場にいた全員が神妙な顔をした。
みょんみょんさん、少しだけ参考にさせて貰いました!^^
(文句があったら言って下さい。)