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こんな夢を観た

こんな夢を観た「真夜中の遊園地」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/06/26

 蒸し暑い夜だった。たぶん、とっくの昔に零時を回ったはずである。それなのに、どうしても寝つけずにいた。

 いきなり「剣の舞」がやかましく流れ出す。

 枕もとに置いた携帯の着メロだった。


「はい、もしもし」わたしは応対した。

「おうっ、おれだおれ」悪友の桑田孝夫だった。「なあなあ、起きてる?」

「起きてるよ。じゃなかったら、電話になんか、出るもんか。それと、いきなり『おれだおれだ』っていうの、やめたほうがいいよ。オレオレ詐欺だと思われるから」


「今から、遊園地行かねえ? 夜の遊園地」桑田が誘う。いつもながら、わけのわからないことを言い出す。

「遊園地って、夜は開いてないんだよ。知らなかった?」嫌味を込めて言ってやる。

「んなこたぁ、わかってるって。開いてねえから、こっそり忍びこもうって言ってんだ」


「すぐ、そんな無茶を言う。警備員だっているんだからね。見つかったら大変じゃん」

「それがさあ、警備員のいない遊園地を見つけたんだよ。夜になっても、管理する奴がだぁれもいねぇの」

「へー、それ、どこの遊園地?」つい、聞き返してしまった。

 電話の向こうで、桑田のしめしめ、という顔が見えるようだったが、もう後の祭りである。

「巣鴨の庚申塚遊園地さ。とげ抜き地蔵の前で待ってるからよ、お前も支度して、すぐに来いよっ。じゃあなっ!」

「ちょっと、待って。ねえ、桑田、あの――」電話は切れていた。


 仕方なく着替えると、通りまで出てタクシーを拾う。

「巣鴨商店街まで」わたしは運転手にそう告げた。


 桑田は、とげ抜き地蔵にもたれかかって待っていた。

「よお、遅かったな」

「お地蔵様にそんな馴れ馴れしくすると、バチが当たるよ」わたしは忠告してやった。

「無事、遊園地に忍び込めますようにって、願を掛けてたんだ。賽銭も奮発して、50円玉を放ってやったんだぜ」

 

 わたし達は、白山通りを渡って、ちょうど反対側にある「庚申塚遊園地」の前までやって来た。

「ねえ、桑田。ほんとに忍び込むの? 止めたほうがいいんじゃない?」この期に及んで、わたしは逃げ腰だ。

 そんなわたしに軽蔑するような目を向け、

「今さら何だ。ほら、そこの柵から中へ入れ」 

 しぶしぶと鉄の柵をよじ登る。桑田もその後に続いた。


 夜の遊園地というのは、なんとも不思議な感じがするものだ。ところどころに非常灯が点いているきりで、他は真っ暗。昼間は喧噪を極めた同じ場所が、今や物音1つしない。

「電源盤は事務所の脇だ。そら、ブレーカーを上げるぞっ」言うが早いか、桑田はブレーカーを力いっぱい持ち上げた。敷地内のライトが順次点灯していき、後を追うようにして、観覧車、メリーゴーラウンド、びっくりハウスの豆球がちかちかと点滅を始める。


「何はさておいても、ジェット・コースターだろうっ」桑田はジェット・コースター乗り場へと走っていき、最前席へと陣取った。「おーい、むぅにぃ。操作室に入って、始動ボタンを押してくれよっ!」

 操作室に入ったものの、どれがそのボタンかわからない。

「どれーっ? 何色のやつーっ?」窓から顔を出し、ジェット・コースターに向かって叫ぶ。

「緑のボタンなっ。いいかっ、それ以外のは触るなよ」桑田が叫び返してくる。


「これかな……」一番手前の緑のボタンを押す。乗車場の方で、ゴットンと音がした。

「オッケー、それだ、それでいいぞおっ」ジェット・コースターは滑るように走り出し、瞬く間に見えなくなった。暗い夜空の下、ぐわん、ぐわんと軋むレールと車輪の音が響く。時折、「ウッヒョオ~ッ」とか「ヌワアッ!」などと、無気味な雄叫びが混じって聞こえてくる。まるで、この世のものとは思えない。


「大丈夫~っ?」わたしは心配になって、大声で呼んでみた。けれど、戻ってくるのは「ダワワワ~ン、ブオオオイ~ッ!」という、奇妙な返事ばかり。何を言っているのか、さっぱりだった。

 もしかしたら、助けを求めているのかもしれない。だとしたら、すぐに機械を止めなくては。

 緑がスタートだったから、停止は赤のはず。

 わたしは、叩き付けるようにして、停止ボタンを押した。


 キキーッ! 


 両方の耳の穴から指を突っ込まれて、脳みそをぐりぐりとえぐられるような凄まじい音だった。

「桑田~っ、止めたよーっ」

 すると、頭上高くから絞り出すような声が降ってくる。

「なんでだぁ~。どうして、止めるんだよお~っ」


 見上げると、ループの1番高いところで、逆さまになってぶら下がるジェット・コースター、それとバンザイをした格好の桑田の姿が。

「あれれ……。余計なことをしちゃったみたい」 

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