こんな夢を観た「真夜中の遊園地」
蒸し暑い夜だった。たぶん、とっくの昔に零時を回ったはずである。それなのに、どうしても寝つけずにいた。
いきなり「剣の舞」がやかましく流れ出す。
枕もとに置いた携帯の着メロだった。
「はい、もしもし」わたしは応対した。
「おうっ、おれだおれ」悪友の桑田孝夫だった。「なあなあ、起きてる?」
「起きてるよ。じゃなかったら、電話になんか、出るもんか。それと、いきなり『おれだおれだ』っていうの、やめたほうがいいよ。オレオレ詐欺だと思われるから」
「今から、遊園地行かねえ? 夜の遊園地」桑田が誘う。いつもながら、わけのわからないことを言い出す。
「遊園地って、夜は開いてないんだよ。知らなかった?」嫌味を込めて言ってやる。
「んなこたぁ、わかってるって。開いてねえから、こっそり忍びこもうって言ってんだ」
「すぐ、そんな無茶を言う。警備員だっているんだからね。見つかったら大変じゃん」
「それがさあ、警備員のいない遊園地を見つけたんだよ。夜になっても、管理する奴がだぁれもいねぇの」
「へー、それ、どこの遊園地?」つい、聞き返してしまった。
電話の向こうで、桑田のしめしめ、という顔が見えるようだったが、もう後の祭りである。
「巣鴨の庚申塚遊園地さ。とげ抜き地蔵の前で待ってるからよ、お前も支度して、すぐに来いよっ。じゃあなっ!」
「ちょっと、待って。ねえ、桑田、あの――」電話は切れていた。
仕方なく着替えると、通りまで出てタクシーを拾う。
「巣鴨商店街まで」わたしは運転手にそう告げた。
桑田は、とげ抜き地蔵にもたれかかって待っていた。
「よお、遅かったな」
「お地蔵様にそんな馴れ馴れしくすると、バチが当たるよ」わたしは忠告してやった。
「無事、遊園地に忍び込めますようにって、願を掛けてたんだ。賽銭も奮発して、50円玉を放ってやったんだぜ」
わたし達は、白山通りを渡って、ちょうど反対側にある「庚申塚遊園地」の前までやって来た。
「ねえ、桑田。ほんとに忍び込むの? 止めたほうがいいんじゃない?」この期に及んで、わたしは逃げ腰だ。
そんなわたしに軽蔑するような目を向け、
「今さら何だ。ほら、そこの柵から中へ入れ」
しぶしぶと鉄の柵をよじ登る。桑田もその後に続いた。
夜の遊園地というのは、なんとも不思議な感じがするものだ。ところどころに非常灯が点いているきりで、他は真っ暗。昼間は喧噪を極めた同じ場所が、今や物音1つしない。
「電源盤は事務所の脇だ。そら、ブレーカーを上げるぞっ」言うが早いか、桑田はブレーカーを力いっぱい持ち上げた。敷地内のライトが順次点灯していき、後を追うようにして、観覧車、メリーゴーラウンド、びっくりハウスの豆球がちかちかと点滅を始める。
「何はさておいても、ジェット・コースターだろうっ」桑田はジェット・コースター乗り場へと走っていき、最前席へと陣取った。「おーい、むぅにぃ。操作室に入って、始動ボタンを押してくれよっ!」
操作室に入ったものの、どれがそのボタンかわからない。
「どれーっ? 何色のやつーっ?」窓から顔を出し、ジェット・コースターに向かって叫ぶ。
「緑のボタンなっ。いいかっ、それ以外のは触るなよ」桑田が叫び返してくる。
「これかな……」一番手前の緑のボタンを押す。乗車場の方で、ゴットンと音がした。
「オッケー、それだ、それでいいぞおっ」ジェット・コースターは滑るように走り出し、瞬く間に見えなくなった。暗い夜空の下、ぐわん、ぐわんと軋むレールと車輪の音が響く。時折、「ウッヒョオ~ッ」とか「ヌワアッ!」などと、無気味な雄叫びが混じって聞こえてくる。まるで、この世のものとは思えない。
「大丈夫~っ?」わたしは心配になって、大声で呼んでみた。けれど、戻ってくるのは「ダワワワ~ン、ブオオオイ~ッ!」という、奇妙な返事ばかり。何を言っているのか、さっぱりだった。
もしかしたら、助けを求めているのかもしれない。だとしたら、すぐに機械を止めなくては。
緑がスタートだったから、停止は赤のはず。
わたしは、叩き付けるようにして、停止ボタンを押した。
キキーッ!
両方の耳の穴から指を突っ込まれて、脳みそをぐりぐりとえぐられるような凄まじい音だった。
「桑田~っ、止めたよーっ」
すると、頭上高くから絞り出すような声が降ってくる。
「なんでだぁ~。どうして、止めるんだよお~っ」
見上げると、ループの1番高いところで、逆さまになってぶら下がるジェット・コースター、それとバンザイをした格好の桑田の姿が。
「あれれ……。余計なことをしちゃったみたい」




