公園
「で、話したい事ってなんだ?」
公園のベンチに座り、受け取ったネクターを手で弄びながら柾に問いかける。
「うん、それなんだけどね。
・・・っと、その前にさっきの会話で思ったんだけど、僕って桜から見るとどうなってるの?
まぁ・・・良くチャラいって言われるから、その辺は仕方ないと思うけど・・・」
質問に質問で返してくるとは失礼な奴だな・・・
「それは椿の事に関係有るのか?」
「いや・・・関係はあるような無いような・・・」
どうにも歯に物が詰まった言い方をしてくるな?
まぁ良い、矯正させるにも、まず自分がどう見られているかを知った方がいいだろう。
「そうだな、全体的にチャラい。」
「あぁ、うん。この前も言われたね。」
この辺りは自分でも判っているのか、それほどショックは無いようだ。
「あと軟弱だ。」
「そうかな?結構鍛えてるから、そこまで軟弱なつもりは無いけど・・・」
これには異論があるらしい。
右手をあげて力瘤をみせてくるが、実際どうなのかは別問題だ。
「実際そうなのかも知れないが、少なくともオレの見た目には軟弱にしか見えない。
大抵の人はそう思うんじゃないか?」
「・・・そっか、たしかに桜の言うとおりだ。
他には?」
納得は出来ないが、仕方無いといった感じだな。
「一番の問題は女癖が悪い事だな。」
「いやっ、それ誤解だからね?
僕ってば、誰かと付き合った事なんてないからね?」
「・・・・・・・・・・・・・・は?」
物凄い勢いで否定された。
ってか、付き合った事すら無い?・・・なんか今物凄い事を聞いた気がするぞ?
「だから、僕は誰かと付き合った事なんて無いよ?だから女癖とか言われても、それは全力で否定したい。」
どれだけ否定したいのか、オレの方に詰め寄ってくる。
近い近い・・・それ以上近寄ってきたら殴るぞ?
「はぁ・・・そうなのか?
だが、周りの反応では女好きと認知されているが・・・」
「周りはどうだっていい。
僕は僕にとって親しい人にそんな誤解を受ける事だけは避けたい。
天地神明にかけて誓っても良い。
僕は今まで女の子と付き合った事なんて無い!!」
最後の方ではベンチから立ち上がって大声で喚いた。
バキッ!!
「ぐあっ!?」
「大声で叫ぶな!!・・・恥ずかしい。」
思わず顔面を力いっぱい殴ってしまった・・・
柾は殴られた反動でベンチに崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
思わず声をかける。
・・・・・・あ、いかんな・・・白目剥いてるわ。
このまま放置して帰りたい衝動に駆られるが、どうにか押さえ込む。
さすがに大声で恥ずかしい事を叫ばれたからって、殴り倒してしまったのはオレの不手際だ。
せめて目を覚ますまでは側に居ないとな・・・
―2時間後―
「ぜんっぜん目を覚まさねぇな・・・」
膝の上に乗った柾のほっぺたをつついてみる。
「・・・・・・」
反応が全く無い。
なんとなく寝覚めが悪かったんで、柾の体を横にして膝の上に頭を乗せてやってから2時間。
全然目を覚ます気配が無かった。
「ったく、なんでこんなチャラい男の為に休日を潰さなきゃならねぇんだか・・・」
携帯の充電は残り40%。時間潰しにいじってはいるが、いつになったらこの状況から抜け出せるんだか・・・
「昼間っからイチャイチャと・・・リア充め、爆発しろ!!」
何回目だろうか、オレ達をバカップルと間違えた男の声が響いてくる。
「自分の招いた種とは言え・・・情けねぇ・・・」
力なく呟くと柾の顔を見る。
こうして黙っていれば引き締まった顔つきと言えなくも無いんだが・・・
それに自分で否定していたように、結構体つきもしっかりとしている。
身長が高くて引き締まった体つきなんだから、いつものようにへらへらとした表情さえしてなけりゃまだマシなんだが・・・
「あれ、春野じゃねぇ?
相手の男はみえねぇけど。」
そんな事を考えていたら遠くから声が聞こえる。
この声はクラスメイトの佐藤(サッカー部主将)の声!?
ヤベェ、ばれたか!?
「ばっか、良く見ろ。春野があんなバカップルする訳ねぇだろ?
それにあんなフリフリした服を着る訳ねぇし。
他人の空似だよ。」
この声はいつも一緒に居る加藤(サッカー部副主将)か?
いいぞ、空似と言う事で押し通してくれ。
「それもそうか。
春野があんなに女らしい訳ねぇもんな。」
「そうそう。
春野はヅカだからな。
Tシャツとジーンズ以外の私服なんて持ってるわけねぇよ。」
・・・・・・・・その通りなんだが・・・佐藤と加藤、後でシメる!!
「それもそうだな。
でも男の方いいなぁ・・・俺もあんな事してくれる彼女欲しいよ。」
「俺もそう思う。
春野並の美人にあんな事してもらえたら最高だろうな。」
・・・加藤は許してやるか。
「そうそう、春野も良いけど夏樹の方はどうだ?あのグループって美人ぞろいだよな―――」
「1人でいいから彼女に――――」
2人の声が遠ざかっていく。
なんとかばれずに済んだ・・・
だが、オレはオレで周りからああ見られていたって事か・・・
柾の事を一方的に非難していたが・・・俺も人のことはあまり言えねぇな・・・
しかし、服の趣味があそこまで読まれるとは・・・
確かにシャツとジーンズしか無かったからなぁ・・・
今度、シャツとジーンズ以外の服も見繕ってみるか・・・
「なら、今日のお詫びに連れて行ってくれるよね?」
「なっ!?」
下から聞こえた声に驚き、柾の方を見る。
「今のは効いたなぁ・・・不意打ちだったから意識を持っていかれちゃったよ。」
「そっ・・・そうか、悪かったな。じゃなくて何時から起きてた!?
というか、なんで考えている事が判った!?」
「やだなぁ、自分で言ったんじゃないか?「確かにシャツとジーンズしか無かったからなぁ」って。」
ぐぁっ・・・声に出してた・・・
「だからさ、買いに行くんだったら僕も連れてってよ。
今日はもう夕方になってるから、来週か再来週ぐらい。」
「再来週はもう春休みだろうが・・・」
「じゃ、春休みの内に行こうよ。
僕も予定空けるからさ。」
「つか、なんで一緒に行かなきゃならねぇんだ。
オレは楓とカスミでも誘って行ってくるつもりだ。」
「イタッ・・・イタタタタタ、殴られた顎が物凄く痛いなぁ・・・」
「(ギリッ)・・・ワザとらしい・・・」
「僕はきちんと謝って、お詫びにケーキバイキングに連れてきたのに・・・桜さんは謝ってすらくれないんだね?」
「あれはオマエがいきなり恥ずかしい事を叫ぶから!!・・・いや・・・それでも殴ったのに謝り一つしねぇのは仁義に反するな。
スマネェ。」
「じゃ、お詫びに服を選ぶのに付き合ってもいいよね?」
「くっ・・・仕方・・・ねぇ。」
「うん、じゃぁ桜の予定が決まったら教えて。
僕の方もそれに合わせて調整するから。」
「・・・くっ、判った。」
「いやぁ、楽しみだなぁ。」
「ところで・・・」
「ん?なんだい?」
「いつまで膝に頭を乗せたまま話してるんだ?」
「痛みが取れるまでかな?」
「くっ・・・・・・はぁ・・・勝手にしろ。」
跳ね除けようと思えば跳ね除けられるんだが、なんとなく・・・本当になんとなくなんだが、柾とこの体勢でいることを許してしまう。
それから更に一時間、この体勢のまま話をした。
色々と話をしているうちに判った事だが、柾は思ったほどチャラい男じゃないという事と、少なからず共通の趣味があった事に驚きを覚えた。