母さん
「って事があったんだよ。」
繁華街の中にある喫茶店の一つ「摩天楼」。
母さんの経営するその店のカウンターに座り、夕飯のドリアを食べながら今日の事を話す。
「ふっ、あんたの見る目もまだまだだねぇ。」
口ではそんな事を言いつつも優しい目でオレを見つめる。
中学の頃に父さんを亡くしてから、女手一つでオレをここまで育ててくれた人で、オレにとって一番大事で誰よりも尊敬できる人だ。
見た目は30台前半でも通じるぐらいで、実年齢は(ピー)才。
並んで歩くと姉妹と間違えられる事もよくある。
若々しく、オレと良く似た顔立ちで誰にでも自慢できる立派な母さんだ。
「つっても、生理的に無理なもんは無理なんだよ。
・・・良いじゃねぇか、それぐらい。」
「だから甘いって言ってんのさ。
たいがいの人間は見た目や言動で判断できるが、そりゃあくまで表面的なもんだ。
相手の本質を知ろうともせずに突き放す、まだまだ青いって証拠さ。」
「イイんだよ。
オレは父さんのように強くてカッコ良い男以外は相手にしねぇんだから。」
オレの言葉で母さんが遠い目をする。
・・・マズッたな。
未だに母さんは父さんの事を忘れられないで居る。
あんまり悲しませたくはねぇんだが、口が滑っちまった・・・
「ふふ、父さんねぇ。
まぁだ、死んだあの人の面影を追ってんのかい?」
・・・ほっ。大丈夫だった。
軽い口調で父さんの話題を出す時は母さんが悲しんでない証拠だ。
いつも通りの軽口を続けよう。
「なんだよ。
何がおかしいんだよ。」
「いや、全然おかしくないさ。
アンタの知ってる父さんは誠実で真面目でカッコ良く、頼りがいのある人だった。
間違っちゃ居ないさ。」
「そうだよ。
だからチャラい男なんざ、こっちからお断りなんだよ。」
「ふふっ。」
「だから、何で笑うんだよ・・・」
「親子だなぁ。と思ってね。
父さんか・・・ふふっ。」
「はぁ・・・父さんの事になるといつもこうなる・・・」
「そうだね。
でも、父さんも昔から誠実で真面目でカッコ良くて頼りがいのある男だったって訳じゃないんだよ?」
・・・え?
・・・まぁ、最初からあんな完璧な人なんていないとは思うが・・・
「ちょっ!?
それって初めて聞いたんだけど?」
「それもそうさ。
アンタが悲しむと思って父さんの話題はあまり出したことがないからね。」
どちらかというと母さんが悲しむから話題にしたくないだけなんだが・・・
「・・・そうなんだ?」
「ああ。
それで?父さんの事を知りたいかい?」
珍しく機嫌が良い。
今日は父さんの昔の事を一杯聞けるかも知れねぇな?
「あぁ、思い出の中の父さんしかオレは知らない。
母さんがいいんなら、父さんの事話して欲しい。」
「そうだねぇ。
丁度客も切れてるし、少しぐらいなら良いか。
父さんはね・・・・・・・・・・」