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親友

「俺は・・・カスミを愛してる。」


壁を隔てて聞こえるその言葉に安堵のため息が漏れる。

親友の想いが成就した事で、これまでの苦労が報われたと安堵したからだ。


「良かったな・・・カスミ。」


だからだろうか、普段は言わないような言葉が漏れ出た。


「ふぅん?」

「へぇ?」


しまった!!

隣から聞こえる声に、嫌がおうにも呟きが聞かれてしまった事に気付かされる。


「オマエ等・・・」


隣に居る2人をジト目で見る。


「ふぅん?」と言いながらオレを見るのは、茶髪にロン毛、制服をだらしなく着こなしているくせに妙にマッチしている男子生徒。

冒頭でカスミに告白した椿つばきの親友を豪語する男で、まさきと言ったか。

「へぇ?」と楽しそうに見てくるのは、ふわふわとした癖っ毛を肩で切りそろえ、大きな目や愛くるしい姿がまるで西洋人形のように見えるもう1人の親友、かえで

2人共、にまにまという感じでオレを見ている。


「気の無い振りをしてたけど、やっぱり桜は優しいね。」


桜というのはオレの事だ。


オレと楓とカスミ、高校に入ってから知り合ったが、今ではお互いに親友と思っている。


そんな親友の1人、カスミは子供の頃から好きな幼馴染が居たが、ずっと好きと伝える事ができずにいた。


それが今年のバレンタインデーに、ふとしたきっかけから思い切って告白する事にしたのだ。

結果は惨敗。・・・と言っても振られた訳じゃない。

告白する為に用意したチョコを間違って親父さんに渡したと言う、いかにもカスミらしい失敗をしたのだ。


その後は凄く落ち込み、どうしたものかと言う状態だったが、カスミの思い人である椿もカスミのことが好きだったようで、ホワイトデーの今日、やっと2人は思いを伝え合う事ができた。


そんな経緯を見ているだけに、カスミの想いが成就した事に対し、祝福すれども茶化すつもりは無い。

だが、オレのキャラクターでは素直に祝福を口にする事もできず・・・


「ばっ・・・馬鹿っ、そんなんじゃねぇよ。

 落ち込んでいたカスミが見ていられなかっただけだ。」


つい否定してしまう。


「ほ~?」

「へぇ?」


楓も柾も意味ありげに頷くと、オレを生暖かい目で見やがる・・・


「つか、楓は分かるが、なんでオマエまでいるんだよ。」


楓と一緒になって茶化してくる柾を鋭く睨む。


「あはは、僕も椿の事が気になっていたからね。少しぐらい許してよ。」


ニヘラっとだらしない顔でぬけぬけと言ってきた。


大体コイツもコイツだ・・・

椿の親友ってだけで、オレと楓が昼飯を食っているといつの間にか混ざっている。

カスミが落ち込んでからは気を使ったのか、暫く顔を見せなかったが、気を抜くとこんな感じにいつの間にか隣にいやがる。


確かにカスミの為に椿の情報を教えてくれるコイツの存在は有り難かったが、カスミと椿がくっついた以上、もうこいつには用はない。


そもそもオレはこういうチャラい男って言うのはキライなんだ!!

椿の親友って話だから我慢しちゃ居るが、普段だったら絶対に近寄らせなんかしない。


・・・男って言うのはもっと誠実で力強く、頼りがいが無くちゃいけねぇんだ。


その点、椿は及第点って所か。

ちぃっと情けねぇ所はあるが、芯がしっかりと通っていて、決めなくちゃならねぇ時はしっかりと決める。


オレの好みとは違うが、アイツならカスミを任しても安心だ。


・・・まぁ、それはあくまでオレのキジュンだからな。それをカスミや楓に押し付けるつもりは無い。

例え椿がオレのキジュンではアウトだったとしても、しっかり祝うつもりで居た。


だがコイツは違う。

楓の彼氏って訳でもねぇし、ちっとぐらい強く言ってもいいだろ。


「はぁ・・・アンタも椿の事が気になってるのは仕方ねぇからな。大目にみてやる。

 だが、オレ達に付きまとう意味はもうねぇだろ?2度とオレ達に構うなよ。」


それだけ言っときゃ大丈夫だろ。それよりもカスミ達が気になる。

こっそりと壁から向こうの様子を見る。


壁の向こうではカスミと椿が真っ赤になって見詰め合っている。

良い感じだ。


―つんつん―


ん?何だ?

誰かに背中をつつかれる。というかこのつつき方は楓だな?


「桜、言いすぎ。」


言いすぎ?あぁ、さっき柾に言った言葉か。


「つっても、カスミと椿がくっついた以上、もうオレ達に付きまとう意味はねぇだろ?

 そもそもオレはああいうチャラい男は嫌いなんだよ。」


ぶっきらぼうに答えるが、楓はつつくのをやめない。

いい加減くすぐったいからやめて欲しいんだが・・・


「桜、言い過ぎ・・・

 あれ、見てもまだ言う?」


「うん?」


楓に促され、カスミ達に固定していた視線を戻すと、地面にのの字を書いている柾が居た。


「いいんだ・・・僕なんてチャラい男だもん・・・嫌われたっていいんだ・・・」


ぶつぶつと小声で何かを呟いている。


「カスミと椿の事を心配しての事だし、あれでも親友の彼にとって大事な人。」


「・・・・・・っ!!」


楓の言葉に軽くめまいを感じる。


確かに椿はもうカスミの彼氏だ。その親友・・・つまり、椿がコイツの影響を受けてチャラくなる可能性だってある。

そう考えた途端、カッと頭に血が上る。


「オマエも男ならうじうじするな!!

 男だったらシャキッとしなっ!!」


カスミの為にもコイツは何とかしなければならない。

そう思うと、あまりにもな姿に怒鳴りつけてしまう。


「でも、椿の彼女の親友に嫌われちゃったしぃ・・・」


尚もうじうじと言ってくる。


「大丈夫、私にとってはとっても空気。」


楓・・・それはそれでキツイと思うぞ?


「そう言う所がオレは嫌いなんだよ!!もっとシャキッとすりゃ友達づきあいぐらいはしてやる!!

 シャキッとしなっ!!シャキッと!!」


「ハイッ!!」


再度怒鳴りつけると、すぐに立ち上がって自衛隊の映像とかで良く見る敬礼のポーズを取りやがった。

・・・ヤロウ、いじける振りをしていただけか・・・


頭が痛くなってきた・・・

眉間を押さえて目を閉じる。


もう良い・・・あくまでコイツは親友の彼氏の親友。

椿のことはカスミにしっかりと話を付けさせ、コイツの影響を受けないように指導させる。


オレはオレで、近づいてきやがったら徹底的に矯正させるしかねぇな・・・


「なら、そのふざけた態度からやめやがれっ。」


目を閉じたまま疲れたように口に出す。


―つんつん―


また背中をつつかれる。


また楓か?


「なんだ?楓。」


目を開き、振り返る。


「あ゛っ・・・」


そこには鬼が居た・・・

いや、鬼のような形相をしたカスミと、なんともいえない表情をしながら頬を掻いている椿が居た。


「さぁ~~~~くぅ~~~~~らぁ~~~~~。」


・・・・あっ・・・やべぇ・・・・

そういや、覗き見てたんだった・・・


「いやっ、ちょっと待てカスミっ。

 これは・・・・だな・・・

 オレは辞めようと言ったんだが、楓の奴が・・・」


そう、オレはそんな悪趣味な事は辞めるよう言ったが、楓と柾の奴に連れられてきたんだ。


そもそもの主犯である楓に罪をなすろうとするが・・・・あれ?


「どこに楓が居るって?」


・・・いない・・・

楓も柾も何所にも居ない・・・

・・・さては・・・「アイツ等っ!!俺を置いて逃げやがったなっ!!」


ゴスッ


脳天に熱い痛みが走る。


「・・・っつぅ~・・・」


「逃げやがったな!!・・・じゃないっ!!」


カスミがチョップの体勢で立っていた。

今の痛みはこのチョップか・・・


「ともかく、座りなさい。」


カスミの指は地面を指している。

指の先はコンクリートで、外だからか砂利が落ちていて・・・


「い・い・か・ら、座りなさい。」


再度言ってきた。

顔を見るが、般若面のままだ・・・


「もう一回言う?」


「いや・・・いいです。座ります。」


この状態のカスミには何も言う事が出来ない。

すねに小石が食い込んで痛そうだが・・・ゴクリ。

あぐらで誤魔化そうか?


「きちんと正座で。」


・・・ですよね。


オレは大人しくコンクリに正座をすると、そのまま30分程説教を受け続けた。

途中で何度か椿が口を挟もうとしたが、カスミに怒られるとすぐに引っ込んでいた。

・・・ありゃ、絶対尻に敷かれるな。


・・・まぁ、塞ぎこんでいたカスミよりは元に戻った方が良い。

足は痛かったが、暖かい気持ちでその日は家路につくのだった。


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