若将軍エアハルト
朝方の珍事と王妃・王女2人による状況説明を経て、午後。山城睦月は当世風の軽鎧を身にまとって馬上にいた。周囲には同様に馬に跨った若武者が数人と女性が一人。背後には100人程度の歩卒が足並みを揃えて、しかしのどかな中をゆっくりと行進中であった。
『……あの。ねえ、ちょっと……エレナ?』
『気安く呼び捨てにしないでもらいたいわね!それとも何かしら勇者サマ、貴方の世界では王様もお友達感覚で接するわけ?』
『それは違うけど……いや、だってさ、他に知ってる人もいないし、そもそも山賊の掃討とか言われても僕、というか元の世界の人って戦争とかほとんど歴史の中のお話だし……』
『勇者が聞いて呆れるわねー。いいから、アンタは馬から落ちないようにどっしり座って待ってればいいのよ。如何に他の国に劣っていても国軍は国軍、将軍たちだって百戦錬磨なの。……あぁ失礼、私達は使節団だったわね。通りがかりに両国にとって邪魔な山賊をぶっ潰してから挨拶に向かう、勇者様ご随伴の使節団……ねっ?』
そんなエレナの言葉にうーん、とムツキは唸りつつ、周りの将軍、特に若く凛々しい一人の男に目を向けた。まず銀髪。これはムツキの元いた世界である日本では、というより世界的にも珍しい髪の色だろう。彫りは深く、一言で表すなら眉目秀麗。それでいて時折こちらを向いて気遣うように微笑むあたり、きっと国でもファンは多いはずだ。
彼の名はエアハルト・フォン・バウマン。エイデン王家の遠縁だとかで、しかし決してお飾りやコネの役職にはついておらず、腕の方も素晴らしいのだ――とは熱っぽい視線を彼に送り続けるエレナの言であった。
やがて2時間もしただろうか。各々の世界についてや今後のことについての話をすすめるうち、一隊は標高こそ低いが鬱蒼とした森を持つ、ある山の手前に差し掛かっていた。察するにここが山賊の根城だろう。木々の間からは小さく煙が昇るのも見えている。隊の長であるエアハルトは駒から降り、早速兵士たちに作戦の内容を伝えていた。
やがて静かに行動開始。まず十名程度の人員が木々に紛れて哨戒にあたる賊を潰す。それを不審がる者らを一挙に黙らせるため、更に十数名。落ち着いたところで本営を取り囲み、残りの人員も含めて雄叫びを上げながら突撃、蹂躙する。
鮮やかな手口だった。その練度の高さはエアハルト直下の部下ならでは、また大国同士となれば話も変わるのだろうが、美形で腕の立つ若将軍と言う評判に嘘は無いらしかった。ムツキですら憧れるのに、まさか年頃のエレナが何とも思わないはずもなく、本来は二人して山の麓で待つように言われたのだが、ついつい、ムツキの好奇心も手伝って、2人は血潮の舞う戦場の隅にまで駒を進めたのだった。