黎明
異世界というのがある。我々の住む日本から見た海外の事についてであったり、全く知らない事柄の広がる場所のことを云うが、ここでの異世界は言葉もそのまま、次元だの時だのが私達の住むこの世界とは異なった空間のことである。名前はオズワルドと言った。
特徴は大陸が一つであること、東西南北で異なった文化が醸成され、10を超える国と地域が点在していること、その全てが同一の神を進行していること、そして何より、魔法や異能を始めとしたファンタジーの存在が当然のように認められている事だろうか。文化のレベルにしてもいわゆる中世ヨーロッパ、という程度。つまり日本の若者なら一度はマンガやゲームで触れたことのある世界観だ。
事の発端は唯一にして絶対の神、アルカヌムの思いつきだった。
アルカヌムは実体を持った不老不死の存在で、性格は貞淑かつ奔放、性別は男であり女というひどく適当な―面倒なのでまとめるが―〝人物〟だった。アルカヌムの記した『己を律し他を律せよ、良く生きよ』という戒律の一文からして、まず一本筋の通ったものを感じさせないのだ。が、だからこそ誰にでも信仰された。実直な騎士からすれば神の言う『律する』と言うのは至極マトモで、他者にそれを振るっても大義名分として利用できる。逆に浮浪者や悪党からすれば『良く生きよ』という一文を元にして、自分たちの好きなように生きる、つまり盗みも犯しも自由なのだ、と言い切ることも出来た。
勿論、お互いに相手の理論に矛盾があると言って戦うことも出来るのだが、そこは適当な神を信じる物同士。何となくどちらのやり方も仕方ない、というようなぬるい空気の元に妙な抗争も無く、ほとんど全ての人々はアルカヌムの教えを生きる支柱にしていたのだった。
さて、話は戻って神の気まぐれとは何か。簡単に言えばまた別の異世界から人を引っ張って来て、異能を与え、その上で各国に彼らを割り振って戦わせようというものだった。理由は『同じものを信じているくせにいつまでもバラバラでは困る』から。相変わらず神らしくもないふざけた内容だったが、直後、ある二カ国を除いたオズワルド世界、大陸全土にアルカヌムの用意したホログラム映像―人々はそんなもの見たことも聞いたことも無いので、それ自体にもたいそう驚いた―が流された事により、事はどうも冗談ではないらしいと、停滞と平和を好んでいた衆人はにわかに気ぜわしく、戦いを身近に思いながら生き始めることとなる。