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ピース・メーカー  作者: ウミネコ
第一章
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七話

 一条真は現在、クライン城の牢獄に囚われていた。

 牢屋の内装は以前と同じで、代わり映えのしない殺風景が広がっている。

 どうしてこうなった、とクライン城到着直後の事を思い返す。



「姫様、ご無事でしたかッ!?」

「ええ、ありがとう。心配をかけましたね」

 城門を守護する衛兵が、ルーチェの帰還を喜んだ。

 深夜だというのに、門前は人だかりが出来ていて、皆ルーチェを心配しているようだった。

 彼女は兵士に慕われているのだな、と真は感心した。

 真は途中まで走らされ、へとへとの状態だったが、衛兵たちが喜んでいるのを見て、素直に良かったな、と思った。

 しばらくすると、衛兵の一人が真の方を見やり、ルーチェに「この者は?」と訊ねた。

 ルーチェは少し悩んだ後、何か閃いたように「不審者です」と答えた。

 瞬間、衛兵が一斉に真に襲いかかってきた。

 為す術もなく真は捕縛され、ルーチェを見ると、彼女は愉しそうに笑っていた。



「くそっ……、あの女のせいで俺は……ッ!」

 歯ぎしりしながら真はルーチェを罵った。

 あぐらをかき、腕を組みながらルーチェの事ばかり考える。どうすればこの場から逃れられるのかも。

 だが自問しても、解答はない。

 真にこの場で成せることは、ルーチェを罵倒することと、自身の不遇を呪うことくらいだ。

 諦めてもう寝ようと簡易ベッドに仰向けで転がると、ガシャン、と鉄の錠が外される音がした。

 見ると兵士が一人立っていて、出ろ、と身振りで合図したので、真は大人しく中から出た。

「ついてこい」

「……どこへ連れて行く?」

「姫様の所だ。姫様じきじきにお前を取り調べするそうだ」

 上等だ、とこれまでの扱いの鬱憤を晴らすために、意気揚々と真は兵士の後をついていった。



「連れて参りました」

 簡素な木製の扉を開くと、そこはアンティーク調の空間が広がっていた。

 壁際には蝋燭があり、仄かな光が室内を照らしている。姫様のベッドというと、もっと豪華な物を想像していたが、真の世界にもあるようなベッドとなんら遜色ない。

 椅子に腰かけていたルーチェは、「ありがとう」と言うと、兵士に下がるように命じる。

 兵士は敬礼し、黙って室内を去っていった。

 完全に兵士の気配が無くなると、ルーチェは真に向き合った。

 綺麗なドレスに身を包んだルーチェに、真は見とれた。

「どうシン。一日に二度も牢屋に入れられた気分は?」

「……なかなか、悪くなかったよ」

 皮肉で言ったが、彼女は嬉しそうに笑うばかりだ。見てくれは良くても、内面が伴っていないような彼女に、真は腹黒い性格なのだと悟った。

「本当に貴方って変わってるわね。普通、あんな事されたら怒るでしょ? 異世界の人って、貴方みたいな人達ばかりなの?」

「……ふん。悪かったな。俺は女を怒るのが苦手なんだよ」

 微笑しながらルーチェは真に、椅子に座るように促す。そしてテーブルの上に、ティーカップを置いた。

「さて、と……。夜も遅いし、率直に話しましょうか。シン、貴方の力を私たちに貸してください」

「力って……? 俺には何の力も無いって言ってるだろ?」

「それは貴方がまだ自分の力に自覚してないだけ。貴方には間違いなく〝ピースメーカー〟の力が備わってる。私はこの目で見たんだから、保証します」

「見たって……何を?」

「貴方が振るった剣から、黒い球体が発生したこと。そしてその黒球が、敵兵の命を奪ったこと。私は気絶する直前、確かに目撃しましたよ?」

 挑むように問われるルーチェの視線。だが真は力無く首を振った。

「残念ながら、きみの幻覚だろう? あの時は俺も無我夢中だったんだ。何が起こったのか、さっぱりだ。俺も混乱してたしな」

「起こったことを、否定するの?」

「否定じゃない。だけど俺は自分の世界ではそんな力ないんだ。どこでにもいる平凡な学生。とりわけ特技もない、ただの高校生だ。

 アレだって、こっちの世界じゃ日常茶飯事なんだろ? 俺の世界のルールとは違う」

「こっちの世界でもそうですよ。あんな現象、ころころ転がってるわけじゃないの。あの力は間違いない〝ピースメーカー〟の力。クライン王国でも、一握りしか扱えない力よ」

「その滅多にない力が、俺に備わってるなんて、なんで分かる? きみの見間違いかもしれないだろ?」

「解る。私には解るわ。貴方は〝ピースメーカー〟の力を持っている。間違いなく」

 確信に満ちたルーチェの言に、真は気圧された。

「……理由は?」

「女の直感。それだけで理由は十分です」

「話にならないよ……」

「信じてもらおうとは思ってません。それに、シンには選択肢なんて残されてないの。

 私たちに協力して、元の世界に変える方法を探すか。

 それとも、クライン王国の牢屋で一生を終えるか。

 そのどちらかしか、シンにはない」

「………………」

 確かにルーチェの言う通りだ。自分の未来はその二択しかない。

 ごねても仕方ない。ここは彼女に協力するべきだ。

「……分かったよ。きみに協力する」

「本当ッ!? ありがとう!」

 ルーチェは真の手を取り、喜んだ。

 そんな彼女を真は赤面しながら、この子は苦手だ、と思った。

 ゴホン、とわざとらしく咳払いし、真はルーチェの手をほどく。

「んで、俺は具体的に何をすればいい? 何を君に協力すればいいんだ?」

 ルーチェは思わしげに椅子から立ち上がり、室内を歩く。

 そして何かを決意したように、ふぅーっと息を吐いた。

 ルーチェは机上に、バッと地図を拡げる。

「……現在、私たちの国、クライン王国はとある国と戦争状態にあります」

 ああ、と頷き真は、ルーチェに話を続けるよう促す。

「その国の名はグロース。軍事国家でとても巨大な国」

 地図上にあるグロースと、クラインを交互に指し示す。約十倍ほど国土の面積が違う。

 ……何か、嫌な予感がする。

「シン、貴方は私と――私たちと一緒にグロースを破り、クライン王国を平和に導いて欲しいの。それが私が貴方に協力する条件」

 素敵なかわいい笑顔で、ルーチェは言う。

 真は自分の足元が崩れ、底なしの暗闇に落とされたような気分で、彼女の言葉を聞いていた……。

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