四十六話
ルーチェは目を閉じ苦痛の瞬間が訪れるのを座して待った。
思えば、弟と袂を分かつ原因になった母の死は、ルーチェにあった。
ルーチェが〝印石〟に触れ、怪物を呼びさえしなければ、母は死なずにすんだ。
ユアンスウを喚び、アレスを喚び、シンを喚んだ。
他にも、自分が知らない所で、たくさんの〝何か〟が喚び出されているのだろう。
それらは全て自分が願った望み。
私の祈りを世界が反映した結果。
グロースとクラインの戦争の遠因を作ったのも、自分自身。
だからきっと。
ヴァイスに指を削がれるのも、運命なのだろう。
だけどせめて。
みんなに謝りたかった。
自分に付き従ってくれる人たちに一言、ごめんなさいと言いたかった。
それが、唯一の後悔。
死ぬのが恐い一番の理由。
想像する痛みで涙が溢れ、恐怖で身体が震えた。
いまやいまやと指が切り落とされるのを待つ時間が、永遠に感じる。
ルーチェの、泣き、怯え、震える姿を彼らは極上の愉悦として眺めているのだろう。
だが、いつまでも訪れない激痛を不審に思い、そっと瞼を開ける。
捉えた視界に、驚愕し、涙した。
背中があった。
まだ日が浅いけど、いつの間にか見慣れた背中。
奇妙な格好をした、私が異世界から喚んだ少年。
些細な事で喧嘩し、ルーチェの我儘に付き合ってくれた男の子。
彼に恋をし、彼も私に恋してくれた。
神様に祈り、神様と同じ名前を持つ少年を世界は寄越してくれた。
「シン……!!」
一条真が、いつの間にかルーチェの前に立ち、〝銃〟を構えヴァイスとヴリエーミアと対峙していた。
「大丈夫か、ルーチェ?」
真は、泣きじゃくるルーチェに優しく声をかけた。
ルーチェは嗚咽まじりに、「うん……、うん……!」と頷く。
「私は、大丈夫……! シンは……?」
「俺もまあ、何とか平気だ。他のみんなはちょっと危なそうだけど……」
真が周囲を見渡す。
フーもリウビアも、ユアンスウやアリアも虫の息のようだ。頼みの綱のセラピアはアレスとともにいるが、この戦闘が終わらない限り、彼女の介入は不可能だろう。
真は銃を構え、ルーチェを抱き寄せる。
「行くぞ、ルーチェ。みんなを救い出そう」
「うんっ!」
一条真とルーチェ・クライン。
神の名を持つ少年と、光という意味を持つ少女の、反撃の瞬間だった。




