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ピース・メーカー  作者: ウミネコ
第三章
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三十七話

「どうしたルーチェ?」

 部屋の外に出て、ルーチェに話しかける。

 彼女は黙ってスタスタと、宿屋のテラスに向かって歩いていったので、真も仕方なくそれに続く。

 テラスに出て、ルーチェは木製の椅子に座る。

「おいおい、一体どうしたよ、ルーチェ? 何か怒ってるのか?」

 そう言って、真も椅子に座る。ルーチェは明らかに、むっつりとした表情をしていた。

「シン、お願いだからあの男と、あまり喋らないで欲しいの」

「何で?」

「あの男は害悪よ。そして貴方には知ってもらいたくない事柄も話す」

「アレスが悪い奴だってのは俺も分かる。だけど、ルーチェの事を知りたいっていう気持ちもあるんだ」

「貴方に、過去の私の事を知って貰いたくない。現在と、未来の私を見て貰えればそれでいいわ」

「そんな……。それじゃあ意味ないだろ。過去を無くすなんて不可能なんだから」

「それでも貴方には知って貰いたくない。だって、昔の私を知れば貴方は幻滅するから……」

 ルーチェは顔を俯ける。

 真は微かな苛立ちを抱き、ルーチェに言った。

「じゃあルーチェは、俺の事を知りたくないのかよ」

「そんな事言ってないでしょ。私は貴方を――シンをもっと知りたいと思ってるわ」

「だったら俺だって同じさ。過去がどうであれ、俺はルーチェ・クラインを好きになった。好きな人の事を知りたいのは、当然の欲求だろ?」

「それでも私は、貴方に勝手に私の過去をほじくり返してもらいたくないの!」

「なっ……!」

 真が絶句すると、ルーチェは「ごめんなさい……」と言った。

「でもね、シン。これだけは憶えといて。この戦争がどういうものかを知れば、貴方は多分私から離れていく。それが、私はとても怖いの……」

「………………」

 真は黙って席を立った。

 それが一番だと思ったから。

「頭、冷やしてくる。夜までには戻るよ」

 そう言い残してルーチェの前から去った。

 ルーチェが何か声を掛けようとする気配を感じたが、真は立ち止まる事はしなかった。



 真が去って、しばらくするとリウビアが現れた。

 沈み込んでいるルーチェの前に座り、労りの眼差しを向ける。

「……どうされました、姫様?」

「シンがね、私の前から消えるんじゃないかって、不安になってたの……」

「そうですか……」

 リウビアはそれだけ言って、特に後は何も言わなかった。ただ静かに、優しくルーチェを見つめている。

「ねぇ、リウビア。シンはこの戦争の原因を知ったらどう思うかな?」

「私には何とも申せません。ただ、貴方様がとても難しい立場である事は理解しているつもりです」

 かつての私もそうでしたのだから、とリウビアは言った。

「……貴方は、実の父たちと私が内戦をしてた時、どう思ってた……?」

 ルーチェの質問に、リウビアは首を振った。

「正直なところ、よく分かりませんでした……。敬愛する姫様と、親愛する父や兄が争うところなど、見たくなかった。ただただ、悲しかった……。それだけです」

「そう……」

「ですから今回の戦争もそうです。イチジョーシンの事は、この際除外するべきです。貴方の気持ちは、貴方にしか解らない」

「そうだよね……」

「ただ姫様、これだけは憶えておいて下さい」

「? なに?」

「私は貴方に救われた時、暗闇に一筋の光明が差した想いがしました。全てが黒く覆われた私の心を、姫様は救ってくれました。――ですから、貴方が正しいと想う道を歩んで下さい。私は、貴方についていきます」

 一礼して去るリウビアに、ルーチェは「ありがとう」と言った。

 ルーチェはテラスから見える城に眼差しを向けた。

(待ってなさい、ヴァイス。貴方は私が止める。一人の姉として、貴方を止めてみせる……ッ!)

 ヴァイス・クライン。

 グロースとクラインの戦争の元凶。

 血を分けた弟を、ルーチェはどんな事があっても倒すと、かたく心に刻んだ。

 ルーチェは、ノースサイドの空を見上げる。

 空は、黒く澱んだ暗雲が立ちこめていた――

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