プロローグ
――気がつくと見知らぬ場所に立っていた。
おびただしい怒号と悲鳴。
むせ返る血の匂いと異臭。
周囲は炎のカーテンがそびえ立ち、大気は熱を帯びている。吸い込むと肺が焼けるようだった。
天空は赤く染まり、パチパチと爆ぜる音が鳴り止む事はない。
――ここは戦場だ。
映画やドラマなどで繰り広げられる紛い物ではなかった。
五感を通して伝わって来る情報を、脳が紛れもない現実だと断じている。
風に乗ってくる阿鼻叫喚の声に耳を塞ぎ、眼前に倒れている人に手を触れた。
徐々に消えていく体温。
無念を刻んだ人の死相。
不意にこみ上げてきた吐瀉物を辺りに撒き散らした。
一頻り吐き終えると、声を掛けられた。
面を上げると、眼に映ったのは銀の煌めき。
哄笑している男の顔は、まさにいまこの瞬間、自分を殺すのだと直感した。
そいつは、カチャッ、と冷酷な金属音を響かせ、剣を振り上げた。
目を見開き、臓腑の底から捻り出したヒッという悲鳴に、男は喜悦し満足したようだ。
肉迫する銀の輝きが、少年に届くその瞬間――
黒い球体が戦場一帯を呑み込んだ。
「……これは一体、どういう事なのかしら……?」
少女達が戦場に赴くと、既に戦は終わっていた。
それどころか、戦場は異様に静まり返っている。
死骸はおろか、生存者の気配すら存在しない。
本当にこの場所で戦争があったのかと疑ってしまう程、辺りは静寂に包まれていた。
「……ん?」
少し離れた先に、巨大な穴がぱっくりと空いているの判った。よくよく見ると、無数の不自然な穴が、周辺の建物や地面に穿たれている。
少女は周囲の諫めを聞かず、大穴に向かって馬を走らせた。
「何かしら、この大穴は……」
戦場に空いた大穴へと駆け下りる。
穴の最深部には、人が一人倒れていた。馬を降り、少女は彼(彼女)に近寄った。
「……この子、誰……?」
気絶している少年の顔を、少女はマジマジと見つめた。
見知らぬ風貌に、見かけぬ服を着た彼を少女は好奇の目でつぶさに観察する。この世界の人とは一線を画する、異質な空気を纏った彼を……。
自分とそう年齢の大差のない少年を、少女は馬へと運び込んだ。
そして穴の上の方で「姫様ッ!」と叫ぶ仲間達の元へと、少女は戻っていった。
この作品は、前作のアバターとは一切関係がありません。前作の人達や設定は似ているだけで一切関連がありません。
というのは嘘で、この作品は前作のアバターと若干リンクしています。
蓮也と竜二の戦いの後に、今作の主人公が興味本位でやってきた〝ドーム〟で異世界にワープして、ヒイヒイしてしまう物語です。
前作の方々は一切登場しないので、ご安心ください。
また今作の『ピース・メーカー』は、5月か6月の末日までに終わる予定になっています。
どうかそれまでお付き合いくださいませ。