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第9話

僕は治療を受けるために治療室の冷たいベッドの上に仰向けで寝ている。

ガラス越しには担当ナースのアイリが様子をうかがっていた。

僕の頭には透明のヘルメットのような物が被せられ、胸には心臓を覆うように特殊なシールが貼られている。

「マモル君、聞こえますか。」

治療と言っても医師はいない。

声をかけたのは医療オペレーターだ。

「はい。」

僕は返事をした。

医者という職業は今は存在しないのだ。

診断は機械がやってくれるし、治療もマニュアルがあってそれに沿って医療オペレーターが医療器具を扱い治療する。

医療オペレーターの資格は2種類ある。

ロボットのみ、とロボットと人間の治療が出来るもの、との二つだ。

もちろん後者のが難しい。

また、手術と言っても昔のような生々しいものではない。

血も出なければ傷も残らない。

しかし、今でも難病といわれる病気は存在する。

そんな病気に対しては、ごく少人数の選ばれた人間が治療方針を打ち出してマニュアル化しているのだ。

昨日言ったアイリの「アーミニズム」という言葉がふっと頭をよぎった。

「では、始めますよ。」

そんなことを考えていると、医療オペレーターの声で我に返った。

そして部屋から麻酔用のガスが噴出し、それを吸うとだんだん意識が薄れていった。

この瞬間が一番嫌だ。

意識が薄れていく中で、僕の頭の中にまるで手のひらが入ってきたような感じがし、僕の脳をぐにゅっと掴まれるような感触がするのだ。

いつも、そこで僕の意識は無くなるのだ。

今度目が覚めればベッドの中だ。


僕は1時間の治療を受け、8時間後に目を覚ました。

もう夕方の6時だった。

ぼやけた視界に現れたのはアイリだった。

「気分は悪くないですか?」

いつも暫くは頭がモヤモヤするのだが、いつものことなので僕は

「はい。」

と答えた。

一通りのチェック項目を終えるとアイリは

「では、明日、また来ますね。問題なければ、明日退院できますよ。」

といつものように、にっこりと微笑むと部屋を出て行った。

アイリはとびきり美人ではないが、なんとなく相手をホッとさせる。

入院しているから、そう感じるのだろうか?

でも、もう少し話をしてみたい、そんな人だ。

まだ、ちょっと重い頭で僕は思っていた。

その日の晩は、久しぶりに、あの夢も見ずぐっすりと眠ることが出来た。


朝、9時。

僕の部屋をノックしてアイリが入ってきた。

「おはようございます。昨日はぐっすり眠れましたか?」

僕は

「ええ、久しぶりにぐっすり眠れました。」

と元気に答えた。

「変わった事はないですか?」

「今のところ、特に。」

僕は答える。

「では、お昼まで様子を見て、変わりなければ退院になります。」

「分かりました。」

普通の受け答えの会話しか出来なかった。

「あの・・・。」

と僕が言うと不思議そうな顔でアイリは僕を見つめた。

「退院は何時ごろになりますか?」

あぁ、そんな事か、と言うような表情でアイリは

「早くて2時頃になります。遅くても3時には退院できますよ。では。」

と、言って部屋を出て行ってしまった。

本当はそんな事じゃなくて、君と話がしたかっただけなのに・・・。

僕はそう思ったが、なんだかナンパな若造と思われるのも嫌だと思った。

おかしいのかも・・・。

このまま何も言わずに退院した方が良さそうだな。


君と話がしたいのだけど・・・・


出かかった言葉を僕は飲み込んで退院した。

アイリは

「退院おめでとうございます。お大事に。」

と、いつものようににっこりと微笑んでいた。

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