第2話
私の仕事はデパートの託児ルームの保母だ。
ここには人間の子供しか来ない。
人間はロボットに比べてもろい。
そして誘拐の危険が高い為に施設には必ずと言っていいほど、こういった託児ルームが設置されている。
多くの人間は人間の子供を欲しがっている。
けれども、自分達では出産に耐えれない身体へと進化してしまっていた。
人間は妊娠3ヶ月以内に病院でロボットの代理母の子宮に胎児を手術で移動させなければならないのだ。
そのまま妊娠を続ければ6ヶ月で母体も胎児も死んでしまう。
だが、代理母の費用はかなり高額のため、闇では誘拐した子供を代理母の費用よりも安く人身売買し、子供の欲しい人間に売りつけている、と言う現状なのだ。
誘拐のニュースはよく流れている。
私はかつてニュータイプのボディが欲しくて代理母をした事があった。
お金がただ欲しかったのではない。
私も人間と同じように誰かを好きになり、子供を産み、結婚したかったのだ。
そうすれば人間に近づける、そう思ったのだ。
私達にとって人間は愚かだが、憧れでもある。
人間は産まれるのに10ヶ月ほどかかる。
産まれて赤ちゃんの顔を見た時は、検査のモニターで見るのとはまた違って、とてつもない幸せに私は包まれた気分だった。
しかし、それも束の間、親元にすぐに引き取られてしまった。
彼らは私に何度もお礼を言ってくれた。
母親は、私の出産メモリーも買ってくれた。
よっぽど気に入られていたらしい。
代理母などしなければ良かった。
赤ちゃんを”取られて”そう思った。
私の育児プログラムは作動した。
医療オペレーターに切るかどうするか聞かれたが、次の就職先を託児所にしようと思っている、と答えるとにっこりと笑って、それ以上何も言わなかった。
私のベイビー・・・
私のベイビー・・・
どこにいるの?
時々夢にうなされる。
私も、今度は好きな人の子供が欲しい。
そう強く願っていた。
「すみません。」
受付にロボットの夫婦がやってきた。
「少し預かって欲しいのですが。」
私はにこりと笑顔で
「はい。大丈夫ですよ。初めてのご利用ですか?」
とロボット夫婦に尋ねた。
「ええ。そうなんです。」
母親が答えた。
「では、お子さんと、どちらでもかまいませんので親御さんの名前をこちらに記入してください。」
夫婦は見つめあって夫が記入することに決まったらしい。
JJ75390863a-mi ユージン
homo-マモル
上が親の名前。
シリアルナンバーの後に好きな名前を付けれる事になっている。
下が息子の名前。
正式には人間の名前の後ろには両親の名前も付属される事になっている。
homoとは優性遺伝子という意味だ。
一応、人間がまだこの世の中を仕切っているため仕方ない。
でも、近いうちにロボット倫理委員会でこの名前の付け方は変えられるだろうと思う。
「分かりました。では、お買い物を楽しんできた下さい。」
「お願いします。」
そう言って夫婦はフロアーの向こうに消えていった。
「マモル君、こんにちは。」
私は声をかけた。
「こんにちは。」
にっこりと微笑んで挨拶してくれた。
3歳くらいだろうか。
やや茶色がかった髪にブルーの瞳。
なんとなくアジアンテイストが漂うが、愛くるしい天使のような男の子だ。
素直ないい子。
きっと、あの夫婦の育児プログラムは高級品を使っているのだろう。
この子を愛しているのだろう。
そう感じた。
私が産んだのも男の子だった。
きっと、これくらいになっているだろう。
そんな考えがが頭部から渦を巻いてグルグルと私の身体を包み込んでしまったようだった。