第13話
未来が無い?
僕はこれ以上踏み込んではいけないのか、それとも踏み込むべきか躊躇した。
過去は現在を映し現在は未来を映す。
未来が無いと思えるのは現在に問題があると言うのか?
覚悟して僕は言った。
僕は最後まで投げ出さない自信が出来ていた。
「未来が無いって。よかったら僕に話してみませんか?」
アイリはうつむいたままで、なかなか顔をあげようとしなかった。
僕はアイリが何か傷を負っているのだと思い悲しくなった。
僕に出来る事は何も無いのだろうか?
今、僕はアイリにとって、ただ側にいるだけの存在で、もしかしたらアイリは僕の存在すら感じてくれていないのではないかと思うとますます悲しくなった。
このまま、アイリがこの席を立ったらそれで終わりなんだろう。
僕はこうして待つしかないのだ。
うつむいたままのアイリが
「マモルさん。あのメモリーチップの中身見ましたか?」
と聞いた。
「実はどうしようかと迷ったけど、やめた。誓って言う。見ていない。」
正直に言った。
すると、ゆっくりとアイリは顔をあげた。
「・・・私は、もう誰も好きになれないと思うんです。私は、信じれなかった。ただ側にいてくれるやさしい存在を。そして・・・私は彼を強制終了に追いやってしまった。」
そこまで言うのが精一杯という感じで優しい瞳は哀しく歪み潤んでいた。
それが、あのエイジと言うロボットのメモリーチップだと言う事がわかった。
「もういいよ。」
言わなくても、僕も悲しみをこうやって共有しているから。
心の中で呟いた。
僕たちの出会いは幸せには満ちていなかった。
と、思う。
だけど、僕はアイリに本能的に惹かれた。
説明の出来ない気持ち。
どこから、そんな気持ちが湧き出てくるのかは知らない。
どこに、こんな気持ちがしまわれているのかも知らない。
それをDNAのせいにする?
そんな目に見えるものに左右されているとは思えない。
だから僕たちは従わざる得ないのではないだろうか。
アイリの凍った心を僕は溶かしたい。
僕はその事ばかり考えた。
それが届いたのか分からないけど、アイリは僕に寄りかかってきてくれるようになった。
アイリは子供が出来ない身体だから、僕たちは結婚できなかった。
代理出産で養子をもらう事も考えたが、やはり高額なので諦めた。
人類滅亡対策で種の保存が出来なければ結婚できない、というシステムになっているこの世の中は間違いだ。
結婚だけが愛の形ではない。
人類を継続させる為に結婚があるのではない。
いつかは滅んでしまうのだ。
なのに、その流れに必死で逆らっているだけだ。
僕は両親の反対を説得して、昔のフランス人のように同棲生活をし始めた。
愛のある生活こそが僕たちの真実。
残すべきものだと思う。
だんだん白くなっていく意識の中で僕は自分の人生を振り返っていた。
父や母の笑顔。
アイリの優しい眼差し。
僕を生涯苦しめた、あの夢。
ああ、アイリ。
僕もそこに今から行くよ。
4つの優しい手のひらに乗せられて、僕は宇宙の果てに旅立つのだ。
そこには永遠の君がいる。
笑顔で招いているアイリが見える。
さぁ、僕の手をしっかりと握っておくれ。
離れないように。
それが、僕のたった一つの願いなのだから。