第12話
部屋に着くと、私はバッグの口を開け、散らばっている中から今日買ったメモリーチップを探した。
今日のものは見つかったが、数えてみると1枚足りなかった。
その足りない1枚は、エイジの最期の日のものだった。
どこに?
そう言えば、お店から出る時、エアバイスクルとぶつかりそうになってバッグを落として中のものが散らばってしまった・・・。
拾い忘れて店の前にまだあるのかもしれない・・・・。
私はすぐ決断して、24時間レストランに向かった。
タクシーから飛び降りると入り口の辺りを丹念に探したが無かった。
私は途方にくれながら暫く歩いた。
そして、まさかと思いながらもマモルの所へ電話をする事にした。
私はバッグから手鏡型の携帯電話を取り出すと教えられたように番号を打った。
手鏡からマモルの小さなホログラムが浮かび上がった。
あぐらをかいている。
「あ、アイリさんだったのか。」
私はかけておきながら何と言ってよいのか迷っていると
「もしかして、これアイリさんの?」
と言ってエイジの名前が見えるようにマモルは顔の前にメモリーチップを差し出して言った。
「そうです。探していたんです。まさか、と思ってマモルさんに電話を・・・。」
「僕も目の前に置いて、まさかと思っていた所なんですよ。」
お互いの顔がほころんだ。
そして、私の中では予定外に、またマモルと会う事になったのである。
今日もまた24時間レストランに、仕事が終わると私は向かっていた。
少し残業せざる得なくて約束の時間を少し過ぎてしまった。
もう、マモルは先にいるかもしれない。
ドアが自動に開くと飛び込むように店の中に入る。
簡易ロボットに
「オヒトリサマデスカ」
と迎えられたのに
「待ち合わせしている人がいるんです。」
と答えて店内を見渡してマモルの姿を探す。
窓際の席でコーヒーを啜っている姿を見つけた。
「こんばんは。」
私は軽く息が切れている事に気づいた。
「こんばんは。」
マモルは今口に付けようとしたカップを置いて言った。
「すみません・・・。少し遅れてしまって。」
「いえ。僕もちょっと前に着いたところですから。」
優しい声だった。
「これ。」
と言ってポケットからエイジのメモリーチップをマモルはテーブルに置いた。
「本当にすみません。ありがとうございました。」
顔が自然にほころんだ。
「アイリさんは、やっぱり笑顔がいいね。」
そう言われてドキリとした。
エイジにもよく言われた言葉だ。
「僕ね、入院した時からアイリさんの事気になってたんですよ。昨日、偶然会えてとても嬉しかったんです。そして、そのメモリーチップがまたアイリさんに会わせてくれました。よかったら僕と付き合ってくれないだろうか?」
そんな事言われると思ってもいなかった。
多分、びっくりした顔をしているに違いない。
「僕ばかり、いろいろ話してしまったけど、アイリさんはどう思っているんだろう。こんな、数回しか会った事ない男を、どう思っているのかなんて僕は馬鹿な事を聞いているのかもしれないけど。」
真剣な眼差しだった。
マモルは誠実な人間なのだろう。
だけど、今気持ちに答えるだけの余裕もないし、自信も私には持ち合わせていなかった。
「私、今はダメなんです。」
なんだか泣きそうな気持ちになってきてしまう。
「それに、私の先には未来が無いんです。」
そこまで言うのが精一杯だった。
マモルは黙って耳を傾けていた。