隠された王
目の前の女性は、面白そうに二人の食べっぷりを見ていた。
かほるも、肉と野菜の串焼きを手に取りながら、その女性、アルマを観察してみる。
長い黒髪を、頭頂部に結い上げ、残りは背中にたらしている。
髪には、宝石の付いた髪飾り。ややあき気味の、襟元にもネックレスが光っている。
その容姿は東洋人のように見えるが、完全とは言い切れない。
東洋人を主体とした混血と考えたほうがいいのかもしれない。おそらくその切れ長の目が、東洋人を連想させるのだろう。
年齢は、若いような気がする。
おそらく自分達とそう変わらないのではないかとかほるはあたりをつけた。
彼女が何を知っているのかはわからない。しかし、彼女が自分達を呼びにきたということは、何故自分達がこんな場所にいるのかを理解している可能性が高い。
同じ結論に狼も達したのか、まず彼が口を開いた。
「何で俺達があそこにいるって気付いた?」
その質問には肩をすくめるだけだった。
「貴方達ではなかった、本当は一人だけのはずだったの」
「つまり、俺達のうちどっちかに用があった、しかし何故か二人でいたって事か、だがそれじゃ、校舎の玄関からあそこまで運んだのはあんたってことになるぞ」
アルマは笑って頷いた。
「そう、私がすべての手配をした、隠された王を呼び戻すために」
「さっきの奴が言っていたな、隠された王と」
かほるがそう言うと、アルマも続ける。
「かつてこの地で行方をくらました王は、かの地に渡ったことがわかりました。だからかの地から再び呼び戻した」
アルマの言ったことをかほるは頭の中で整理する。
「あのな、それじゃまるで、俺か狼が隠された王ってことになるぞ」
「ええそうです」
あっさり返されて思わず目が点になる。横でおそらく狼も同じような顔をしているのだろう。
「ええとだな、その王様だかなんだか知らないが、詳細も聞かないでどっちが王様かなんてわからないだろう?」
気を取り直して、かほるはアルマにそう尋ねた。
アルマはまず聞いた。
「お腹は膨れましたか?」
あれだけ合った皿はほぼ二人で食い散らかし、ほぼ残骸が残るのみになっていた。
「貴方達がいたあの建物、かつては人が住んでいたのですけれど」
アルマの話では、あの建物内では。よく人が行方不明になるのだという。
それだけでなく。どこの誰ともわからない人間がいつの間にかいたこともあった。そのため、いつの間にかあの建物は放置され、元々住んでいた者達は別の場所、すなわちここに引っ越した。
そこまで聞いて、かほると狼の脳裏に、先ほどまでいた東村高校の怪奇現象が、脳裏に浮かび上がった。
二人は横目でお互いを窺う。
「私が幼い頃、兄が生きていた頃までは、私どももあちらに住んでいたのですけれど」
アルマの話は、海の向こうの本国から、王族の幼児がこの地を訪れたことから始まっていた。