懐かしい言葉
思いっきり腕をねじり上げられて男がけたたましくわめき散らす。
その言葉はかほるにとって整合性のあるものだった。
「こいつ、英語をしゃべっている、どうやらここは地球上のようだぞ狼」
「あのな、こいつの武器を見てみろ、たとえ地球上でも、十八世紀以前のイギリスなら、異次元に落ちたのと変わらないじゃないか」
言われてみれば、この建物の中にも配線らしいものを見た記憶がない。
見渡してもスイッチらしいものもない。いや、よく見れば、壁のくぼみは何かを燃やして明かりにするための場所なのでは。
「どうしよう」
「ええと、英語わかるんなら、こいつ尋問してみろや」
言われてかほるは肩を逆関節に決めた。
『さっきは何の真似だ』
かほるは小学生の頃からちびっ子英語教室に通っていた。
『王を隠された王を殺すためだ』
王という単語で、かほるは英国史を検索してみた。
隠された王という単語に引っかかるものは何も見つからなかった。
「適当な拘束するものは持ってないか?」
狼に訊いても狼は小さく首を振るだけだった。
「じゃ、シャツを脱げ」
奪い取ったシャツで、腕を縛り上げた。
「気絶させるとかできないのか?」
シャツを奪われた狼は寒そうに、身体を抱きしめる。
この場所の気温はやや低い。石造りの建物のせいもあるのだろうけれど。
「王って何だろうね」
「馬鹿にするな、キングぐらい聞き取れる」
狼は胸を張った。しかし、それが聞き取れなかったらそれは十分問題だと思う。
「イギリス史を丸暗記しているわけじゃないからわからないけど、隠された王って誰のことだろう」
「そんなこと、俺が知ってるわけないだろう」
「だからそこで胸を張らないでくれ」
かほるはなんだか疲れて、建物の窓から外を見る。
「一階じゃだめだな、二階以上登れば、遠くまで見えるかな」
「門題は、階段がどこにあるかだ」
建物の外壁から三階以上の高さがあるのは確かだが、未だに階段を見つけていない。
その時、狼が口を開いた。
「どうやら、新手だ」
くすんだ毛織らしい衣服を着た中年男。その男は、二人を見たとたん逃げようとした。
狼が取り押さえる。その時男は叫んだ。
「助けてくれ」
二人は顔を見合わせる。
「十八世紀に、イギリスに日本語を話せる人間は」
「いるわけないと思うんだが」
かほるは、取り押さえる手を思わず緩ませてしまった。