独身と既婚
目が覚めても、夢から覚めていなかった。
見慣れない、黒い木目調の柱と、薄茶の土塗りの壁がまず夕子の視界に入った。
制服を着たまま眠ってしまったので。プリーツスカートがしわくちゃだ。
さすがにこの格好のまま起き出すのもみっともない気がする。そう思った夕子はどう取り繕うか思案していた。
扉が開き、なんとなくヨーロッパの民族衣装っぽい格好をした女性が、何やら白い包みを用意して立っていた。
包みの中身は、ワンピースっぽい衣類だった。
「これを貸していただけるんですか?」
「ご主人様が、できるだけ居心地良くさせてあげなさいと」
そう言って笑った女性は、着ているものはなんとなくヨーロッパぽかったが、顔立ちは少々バタ臭いが東洋人のように見えた。
「アルマ様が、一緒にお食事をと」
アルマは結局新しい部屋をあてがわれて休んだという。
夕子はこの部屋に入ってすぐに倒れこむように眠ってしまったため、アルマはどうしているか気になった。
とにかく制服を脱いで、椅子の背もたれに上をかけ、スカートはベッドに置いておく。
今晩寝る時に寝押しすればよし。
その発想に思わずへたり込む。いつまでここにいればいいんだろうと。
ワンピースはボタンとリボンで留める形だった。
ファスナーという文明の利器は存在しないようだ。
それでもワンピース、一応自分で着れた。
夕子は結っていた髪を手ぐしで直す。
「お客様は嫁いでおられますか?」
唐突に言われて、夕子は目を丸くする。
「嫁いでって、結婚してるかってこと? だったら独身だけど」
「それなら、髪は下ろすものでしょう?」
言われた意味がわからない。
「嫁いで始めて髪を結うものです」
言われた言葉を吟味する。
そう言えば江戸時代は、化粧や髪形は独身と既婚で返るのが普通だったらしいと思いだす。
つまり、髪をアップにするのは、結婚してから、それ以外は下ろすってことか。そう納得してから、別の疑問に行きあたった。
髪を結うことが不可能なショートカットはどうするんだろうと。
その疑問に女は仰天して言った。
「髪を切るですってそんなことは娼婦のすることです」
言われて思わず夕子も引いてしまった。
娼婦という刺激的な言葉におののいたこともあるが、もしちょっと前に気分転換に髪形を変えようかと思ったまま行動していたら、いったい自分の身に何が起こったのだろうかとそのことにも怯えてしまったのだ。
「失礼しました」
それ以外言えなかった。
大変遅くなりました。




