誤解がとけた?
アルマの手を引いたまま夕子はだらだらと冷や汗を流しながら振り返る。
まずい、見つかった。殺される、もしかして私死亡フラグが立ちましたか。
そんなことを考えながらぎしぎしと音を立てそうにぎこちなく首を動かした。
目の前に立っていたのは、なんとなくぞろりとした見慣れない衣装を着た男だった。
色はくすんだ緑。
グレイのスーツ姿のサラリーマンを見慣れた目には異様な格好だが、それ以上に目を引くのは、男の皺一つないつるりとした顔とは裏腹に、目にまぶしいほどの白髪だった。
プラチナブロンドだろうかとも思ったが、顔立ちはたぶん東洋人なんじゃないかと思われた。
それに日本語を話していた。
「その子はアルマか、どうして君がアルマを連れている?」
夕子が手を引いている子供を指差す。
「泣いてたから、保護したんです、怪我もしてたし」
そう言ってアルマの足を指差す。
ハンカチで応急手当てしただけで、そのハンカチも新しい血をにじませている。
「それはどうもありがとう、妹が世話になった。それで、君はどうしてここにいる?」
思ってもみないほど柔らかな対応に、夕子は戸惑いながら話せる範囲で話すことにした。
「ええと、ですね」
これまでの経緯を話し終えてふいに夕子は気づく。そう言えばこの子のことを妹と呼んでなかったか?
「ええとなんで妹さんを箱詰めしたんでしょう」
素朴な疑問を口にしてみた。
「箱詰めにして、送ってもらったんだよ」
「なんで?」
生き物は宅配便で送っちゃダメなはずだと夕子は思わず突っ込んだ。
「だってほんの数分のことだし」
言っている意味が分からない。
「魔法使いに送ってもらえば、ほんの数分でどんな遠いところからでも届くからね、まあ子供はうかつに暴れられたら困るから箱で固定して運んだんだろう」
「こっちにはそんなものまでいるの?」
日本語が通じるからと油断してはいけなかったようだ。
「君のような来訪者はたまにいるから、たいがいは勝手に帰る。それまでここで過ごすといい」
妹を箱詰めにして送ってもらうような非常識な人だが、それでも善意に満ちた言葉で、そう言ってくれた。
この言葉に頼るしかないが、果たしてこれからどうなるのだろうと夕子は前途に不安を覚えた。
建物の一階は窓もなく。玄関のみ。人のクラス部屋は二階以上にあるのだと言う。
夕子にあてがわれたのは、寝台と、そのわきに小さな机のある、ビジネスホテルの一番安い部屋みたいな場所だった。
とはいえ、泊めてもらえるのはありがたい。野宿するには気候がやや寒かったから。
あてもなく逃げ出していても、果たして生き延びられたか自信はなかった。
アルマとあのアルピノの彼が兄弟であるのは色を除けば二人がよく似ていたのでそうだろうと思うことにした。
疑うには疲れすぎていた。
結局あてがわれた寝台に突っ伏して、夕子は眠ってしまった。