ある日の出会い 2
夕子はヒアリングがあまり得意ではなかったそのため単語の応酬になったが、かろうじて意思の疎通はできた。
名前はアルマ。年は八歳。ここはどこかわからない。
全く役に立たない情報だけが交わされる状態ではあったが。
血の滲んだ足にハンカチをまいてやる。
「どこから来たの」
そう呟いてからその単語を思い出す。
アルマは向こう側を指差した。
夕子がそちらに行ってみると、内側から破壊されたような状態のぼろけた木箱が置いてあった。そしてその木の破片に、かわいた血のついた痕跡の残るものがあって。裕子はアルマの足の傷跡をちら見してみた。
「ここにいたの」
思わず声が震える。
木箱のサイズは、たぶん子供が入るくらい。それですべての状況が分かった。
小さい子供を箱に詰めて運ぶ。どう考えても犯罪だ。だらだらと背中を冷や汗が伝った。
誘拐犯。それとも人身売買。
どちらにしても凶悪犯罪、もしそんな連中に見つかれば命はない。
夕子はアルマの手を握った。
この場を離れよう。そうだそんな凶悪犯に出くわしたっていいことななにもない。
きょろきょろと周囲を見回して誰もいないのを確認しつつ足音を殺す忍び足でその場を後にする。
廊下には等間隔に、壁にはめ込み式の行燈のような火がついている。だから進むには問題はなかった。しかし、そんなものがあるということは頻繁に人の行き来があるということでもある。
曲がり角に来るたびに、誰もいないのを確認しながらそろそろと進む。
ここは人身売買か、誘拐犯のアジトだ、できるだけこの建物から離れなければ。
そろそろと、ゆっくり、それでいて全速力で夕子は外を目指した。
歩いて行った先に階段があった。それも上り。今まで歩いていた場所に窓はなかった、だからここは地下かもしれない。
そう思った夕子は階段を上ってみることにした。
階段は、石畳で舗装されている。まるで屋外の階段だ。
進んだ先には、窓のある廊下があった。窓から外をうかがう。そして夕子は失望に舌打ちした。
そこは二階だった。どうやらこの建物は一階にはあえて窓を作らず、二階以上に窓を作る仕組みらしい。だとすればこの建物から出るには、一度、一回に戻って玄関をくぐらねばならないらしい。
「やっぱり防犯のためかな」
無駄なことをしてしまった。
それに窓から見たこの場所はあちこちに別棟がある、結構大きな建物だった。
「玄関の位置は、あんたに聞いても無駄か」
アルマに聞いたとしても箱詰めにされていた少女にこたえることができるはずもなく。そもそも言葉の疎通も不能だ。
「君は誰だ?」
ふいに背後から声をかけられた。それは日本語だった。