実はそうでした2
翌日三人は、放課後、居残って地図帳を開いた。
日本地図に、かほるは記憶をたどりながら線を引いていく。
「大体、こんなもんだったか?」
太平洋側がごっそりと削れている。そして大陸側の地図をさす。
「この辺がなくなってたよな」
狼は難しい顔で日本地図をみつめた。
「日本列島の形を変える規模の核爆発ね」
確かに、重ねてみれば、アルマの所有地は、変わり果てた日本列島だった。
「そういえば、沖縄は書いてなかったな」
「消し飛んだか、忘れられた無人島に成り果てたか」
検証を続けるほどに気が滅入ってくる。
「どれだけの人間が死んだんだろうな」
「国のいくつかが全滅しててもおかしくないな」
「それできく話かよ、下手すれば生き延びた人間のほうが少ないかもしれないぜ」
それ以前の歴史が完全に断絶していた以上その可能性が一番高い。
爆心地がどのあたりかは今のところ予測が立たない。
しかし、被害がアジアに限った話ではないだろう。
あの地図はアジア近辺しか記されていないが、ユーラシア大陸の被害があれだけで終ったとは考えにくい。
「それで、この大規模破壊はいったいいつごろ起きるんだ?」
狼がうそ寒そうに呟く。
「いつごろ?」
言われてかほるは腕を組んで首をかしげる。
「西暦の書き込みはなかったよな」
そして考え込む。
「確か、天の彼方に逃げ延びたって言う記述があったけど」
「天の彼方って、たとえば、宇宙ステーションとか?」
狼が窓の向こうを見た。
その時点で博次はついていけていなかった。
「数千人規模の難民を受け入れられる宇宙ステーション」
考えてみても、そんなものが今現在存在しないのは明らかだ。
「そんなもんができるまでに、後何百年かかると思ってるんだ?」
「何百年は言いすぎだろう、たぶん二三百年」
言ってみてかほるはため息をついた。
「つまり、俺たちの知識は何の役にも立たないってことだ」
少なく見積もっても、二三百年後の核戦争に備えろといわれても、誰にどうしろというのだ。
「つまり、大破壊の前の、大文明社会なのか、ここが」
ようやくついていける道を見つけたのか、博次が口を挟む。
「大文明ね、その少し手前ってとこだ」
「ぜんぜんそんな風に見えない」
「まあ、ローマ帝国だって理想社会とかいうけど、乳幼児死亡率は高いは、奴隷社会だわ、到底理想社会とは程遠い現実があったよな、けっこう貧富の差も激しかったらしいし」
「理想社会も実際に生きてみたらけっこう生きずらいってあるんだろうな」
二人は遠い眼をして呟く。
結局核戦争を起こして大絶滅した文明がそんな立派なものだとは思えなかった。
「しかし、大文明につながる文明か、学ぶものも多そうだ」
そう力みかえる博次に、二人は顔を見会わせた
「ああ、そうだな、こっちとあっち、三年二人で勉強しようか」
かほるは苦笑しながら博次の肩を叩いた。
「しかし、どうして狼がかほると引きずられたんだろう」
「ああ、今のですべての謎が解けた」
狼は笑う。
「たぶん、俺は先祖なんだろう。お前たちの」
二人はまじまじと狼を見る。
「DNAが一致したからだろう。俺から受け継いだそれをかほるが使っているから、それで俺も巻き添えを食ったんだ」
「つまり、始祖王ドールのそのまたご先祖?」
狼は人を食ったような顔をして笑う。
「当たり前だろう、誰だって先祖のDNAを使って生きてるんだ」
かほるが脱力したように呟く。
「歴史ってそんなもんかもな」
窓の外はゆっくりと日が暮れつつあった。
次回からは登場人物を入れ替えた新シリーズになります。