知りすぎた男
彼はいつも知りすぎてしまう。
「ごめんなさい!」
「えっ!?どうして?だって僕はこんなにも君を愛している。君のことなら何でも知っているよ!生年月日、好きな食べ物、嫌いなこと、朝、家を出る時間、お風呂のルーティーンだって・・・」
「そういうところ!怖いの・・・」
そう言って彼女は逃げるように走り去る。
残された男。
彼はいつも知りすぎてしまうのだ。
田中太郎、29歳。彼女いない歴=年齢。フリーターをやっている。
彼の恋愛傾向は熱しやすく冷めにくい。1度惚れると病的なまでに相手を知りすぎてしまう。そういう所が受け入れられず振られ続ける。
「はぁ、彼女欲しいなぁ。どうしてできないんだろ?」彼は原因に気づいていない。
「あっ。バイトの時間だ。そろそろ行かないと」そうつぶやき、外出の準備をする。
彼のバイト先は家から自転車で15分のコンビニ。週に三日から四日ほど働いている。
使い古したママチャリに乗りバイト先に向かう。今日もレジに向かうのである。
「いらっしゃいませー」
振られたことを気にしていて、力なく接客する。
「太郎くんさぁ、もう少し元気よくできないの?」と店長が後ろから一言。
「すみません。頑張ります」「あっ。ほら、次のお客さん来たから。今度は元気よくね!」
「はい、、、。いらっしゃいませ!」精一杯の元気で言い、ふと見上げると、、、太郎の心はまた踊りだした!
目がくりくりの丸顔。パッツン前髪のボブカットが良く似合う女の子であった。服装はキャラクターが描いてあるTシャツにサンダルを履いていて、いかにもコンビニに来るためだけの格好だ。
太郎は興奮の中、レジ作業をする。
「あっ。ありがとうございました!」いつの間にか太郎は元気いっぱいだった。
「可愛い子だったなぁ。どんな子だろう?」
太郎はまた知りすぎてしまう。
太郎はそれから毎日シフトに入った。
「まだ来ない・・・まだ来ない・・・」
そして1週間が経ち、コンビニの自動ドアが開く。
「来た!」太郎は興奮しながらレジに立つ。
今日はエナジードリンク1本、サラダと菓子パン、ヨーグルトを購入していった。
それから太郎はコンビニに来る頻度、曜日、時間帯をメモした。
「そろそろ来るかな?」太郎の推測通り、女の子は来た。
もう、コンビニに来るタイミングは把握していた。
「104番ください」今日はタバコを買うそうだ。太郎にとってはチャンス。
「年齢確認できるものございますか?」
女の子は身分証を見せる。
名前は菅原ゆい、住所や生年月日も記憶した。22歳だそうだ。
レジを済ませたあと、忘れないようにスマホにメモをする太郎。
ある日、ちょうど来る時間に合わせてコンビニで待ち伏せした。
「さぁて、普段はどんな事をするのかな?」太郎はゆいに見つからないように後をつける。
ゆいはスマホを見ながらベンチに座る。
「何してるんだろ?待ち合わせかな?」太郎は建物に隠れながら見守る。
座って待つゆいのもとに男がやってくる。
「!?彼氏かな?」太郎は気が気でない。
「それにしては年齢が上のような・・・」
出発するゆいの後ろを太郎がつける。
男とゆいはホテルに入っていく。
「えっ!ホテル!?」驚く太郎。
「一体何してるんだろ?やっぱり彼氏なのかな?会っていきなりホテル?え?」太郎は混乱しながらも2人が出るのを待つ。
2人は出てきて別れる。その後、ゆいはまた別の男と会う。
「ふん?これは・・・?いやまさか・・・」驚く太郎だが諦めない。
またホテルから出てきて、先ほどと同じように3人目と会う
「ば・・・売春!?」太郎の中で確信に変わる。
「お金に困っているのかな?僕ならそんな思いさせないのに」
1日ストーカーして太郎がわかったことは、ゆいはアプリを通して男と会い売春していること、そしてゆいはしばらく家に帰っておらずネットカフェで暮らしていること。
「ゆいちゃんは家族と上手くいっていないのかな?お父さんやお母さんはどんな人なんだろ?」
太郎は次に家族を調べてみることにした。
次の日、太郎はゆいの身分証で覚えた住所に行き家族を調べる。どうやら父、母、兄の4人家族なようだ。
「ゆいは昨日も帰らなかったのか?」太郎は玄関先で会話している夫婦の会話に耳をすませる。
「そうなのよ。ママ友に聞いてみたりもしてるんだけど全然見つからないし・・・」
「家を出ますと置き手紙があってからもうすぐ1ヶ月になってしまうか・・・」
「警察に話したら死んでやる!って書いてあったし、もうどうしたら良いの・・・」泣き出す母親。
「そうだな。ただこのままいる訳にもいかないし、1回警察に相談も考えよう。また今日も探してみるよ。じゃあ行ってきます」
そう言い残し父親は会社に向かう。
見つからないように物陰に隠れる。
「うーん。家族は探しているけど見つからないみたいだ。大丈夫ですよ!お父さん、お母さん!ゆいちゃんの身の安全は僕が守っているので!」
そうつぶやき、家の前にヒーローのソフビフィギュアを置いて去る太郎。
「さて、そろそろ始めよう!」太郎はスマホを取りだし、SNSを開く。
変わったものを見つけると『家の前にフィギュア置いてあったwww』みたいにSNSに写真付きであげる人もいるだろう。心当たりのある方は気を付けてほしい。『家の前』『ソフビ』などキーワードで検索するとヒットするのだ。
「家の前 ヒーロー検索っと!」するとゆいの兄らしきSNSアカウントが見つかる。いつもの手口である。
『妹を探しています。髪型は・・・情報ある方DMください』とゆいの特徴を書いた投稿が毎日されている。
「お兄さんも探しているんだな。安心してください!もう見つけていますよ!」
夕方になり父親が帰ってくる。
「どうだった?」「いや」と父親が首を振る。そんなやりとりをし、家の中に入る夫婦。
兄が帰宅したのも確認し、太郎は窓から家の中を覗く。
夕飯の準備中のようだ。食卓には4人分の食事が用意されている。
太郎は何か気持ちが込み上がるのを感じた。
「ゆいちゃん。こんなに心配されてるじゃん」
次の日、太郎はゆいに会いに行くことにした。
ゆいがいる場所は知っている。そこに行けば良い。
ゆいはいつも通り男と会っていた。そしていつも通りホテルに入る。
太郎はモヤモヤした気持ちが込み上げてくる。ゆいが好きだからだけではない。
家族のゆいに対する思いや愛情を知ってしまったからだ。
「ゆいちゃん!」太郎は久しぶりに大きな声を出した。
「え・・・?だれ?」ゆいは戸惑う。
「なっ!なんだ君は!」連れの年老いた男が言う。
「あんたこそなんだ!若い子を買って何してる!あんたさっさと帰ったほうが身のためじゃないか?こんなところで、あんたがもめているところ見られても良いのか?」太郎は強気に言う。
「あっ。あんまりそういうことを大きな声で言うんじゃない。ゆいちゃん、また連絡するから・・・」
逃げるように年老いた男は消えていく。
「ねえ。どこの誰だか知らないけど、どうしてくれるの?あの人金払い良い人なんだけど」
「ゆいちゃん!僕は君が好きだ!」「え?なに急に?」
「でも・・・」太郎は気持ちがぐちゃぐちゃになる中続ける。
「この怒りや悲しみは君が好きだからじゃない!君のお母さんやお父さん、お兄さんの思いを知ってしまったからだ!」
「え?私の家族に会ったの?最悪なんだけど!」「会ってない!会ってないけど・・・」
太郎は続ける。「こんなことをしている君を見過ごせない!だってずっと君を探し続けているお父さん、毎日SNSで情報を呼び掛けているお兄さん、君が帰ってくると信じて、夕ご飯を用意するお母さん!その姿を見てしまったから・・・」
ゆいが想像もしていなかった家族の姿だ。
「君は!愛されている!僕の好きという気持ちより、もっと大きな好きだ!」
「なんで・・・そんなこと・・・きもいから!」それだけ言い残しゆいは去っていく。
「あっ・・・待って・・・!」太郎が言いかけた時にはゆいの姿はなくなっていた。
その日ネットカフェに戻ったゆいは兄のSNSアカウントを見る。「ほんとだ・・・毎日投稿してる・・・」
自然とゆいは涙を流していた。
「就活もしないで、大学で遊び惚けてる私には居場所なんてないと思ってたのに・・・」
ゆいは涙を拭きながらLINEを開く。家族からは心配の連絡がたまっている。
母親のアイコンはゆいが小さい頃の写真だ。今も昔もずっと変わらない。
『今日は唐揚げ作ったから食べにおいで』
『ご飯食べれてる?』
『体調崩してない?』
毎日のようにLINEはきていた。
「パパ・・・ママ・・・・お兄ちゃん・・・!会いたいよ・・・」
数日後、家のチャイムが鳴る。「あっ!あなた!ゆいが!」母親は泣き崩れている。
部屋の奥から「ゆい!」父親と兄がとんでくる。
「た・・・ただ・・いま・・・」なんだか恥ずかしそうにゆいがつぶやく。
「おかえりゆい・・・」「心配してたのよ!」「無事で良かった・・・」3人は言葉が溢れてくる。
「ごめん・・・」
父親は優しくゆいの頭をなで「ゆい、一緒にお風呂入るか・・・?」
「きもいから・・・」そうつぶやくゆいの表情は暖かかった。
ゆいと家族の絆を繋いだ太郎は今日も恋をしていた。
そして、きっとまた彼は知りすぎるだろう。




