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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第一部 ヘイデン屋敷

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10/11

デキル侍女とその実態

セレーナの姉ポジション、ソーニャの気苦労です。

 レイン男爵家長女のソーニャでございます。

 アールグレン伯爵家の縁戚、セレーナ様のはとこにあたります。


 現アールグレン伯爵家当主様の従弟がレイン男爵家当主――わたくしの父で、その長女がわたくしなわけです。

 アールグレン家長女セレーナ様の話し相手という名目の行儀見習い、その実態は、伯爵家を継ぐ予定のクリストフ様――当主様の弟の婚約者。


 要するに将来のアールグレン伯爵夫人なのですわ、オホホホホ。


 セレーナ様は黒髪ストレートで濃紺の目、子供かと思うほど小柄という、この国では珍しい容貌をしており、パッチリお目々と顔のラインが奥様似ですが、フツオジの旦那様にはまったく……。

 そういえば、奥様の出身国であるメリディアナ皇国の人たちは黒髪ばかりという話を聞いたことがありますわ。奥様は皇国では珍しい赤毛ですけれどね。


 異国風の容貌を気にしてか、お嬢様は王宮主催の舞踏会以来、お年頃になってもパーティーといった場所へは行きません。

 アートギャラリーへはよく行きますわね、絵を描くのがお上手ですものね。

 容貌など気にする必要はないと思うのですが。

 お嬢様は奥様譲りの儚げで可愛らしい美貌をお持ちなのですから。

 まあ、光輝くピンクブロンドと妖艶な肢体を誇るわたくしに比べれば、少々劣るかもしれませんわね。


 オホホホホ……。





 わたくしがアールグレン家に行儀見習いとしてやって来たのは今から三年前、十七歳のとき。その頃のセレーナ様はぷにぷにのお子ちゃまみたいでしたの。可愛い妹ができたと思って思い切り甘やかしたのでございます。


 ところがですわ。


 何をとち狂ったのか、いきなりアダルトな小説と挿絵を描きはじめたではないですか!


『見て、ソーニャ。わたし、小説を書いたの! ついでに絵も!』


 わたしは読むなり恐怖に震えました。そりゃもう、気絶するほど。


『何ですの、この内容。悪役令嬢?』


 この年でここまでの作品を創作できるのは、まさしく天才なのかもしれませんが……あの頭のおかし……儚げな奥様に似て、浮世離れしているのでしょうか?


『出版社を見つけてほしいの』

『そんなことをして旦那様にバレたらどうするんです?』

『お父様はわたしがすることに文句は言わないわ。だから平気』


 確かにアールグレン家は放任主義ではありますけれど……タウンハウスの管理をまかされ、好き勝手している婚約者のクリストフを見れば分かりますわ。

 観念したわたくしは、セレーナ様のためにいかがわしいアートギャラリーを見つけ、その結果、世のお嬢様方が心ときめくお話と平面的な挿絵が売りの、とんでもないギフトブックが書店に並ぶことになったのでございます。


 そんな頭のおかし……いえ、天才的なセレーナ様がヘイデン伯爵家のご子息様とお見合いをするということで、先日ヘイデン屋敷へ連れだったのでございますが。

 例によってナナメ上どころか下を行かれるお嬢様に振り回され、(あ、これは絶対お見合い失敗だわ)と嘆いていましたのです。

 案内された客間を何回も断るわ、出された食事に文句を言うわ、お世話係のメイドを突っぱねるわ……。

 おかげで滞在部屋は屋根裏部屋、食事は持ち込みの携帯食、バスタブはなく木桶。


 あり得ませんわ!


 なぜ次期伯爵夫人のわたくしがこんな目に遭わなければならないんですの?

 ナナメ下のわがままにもほどがありますわ!


 ところが、あり得ない行動が行き過ぎたのか、徹夜をしやがったセレーナ様が階段からスッ転んでしまいましたの。


(あ~っ、もう! どこまでポンコツなんですの! 旦那様に何と言ってお詫びすればいいのです!?)


 そこにヒーローのごとく現れたのが、それまでお見合い相手を無視しやがっていたヘイデン家ご令息。あろうことか、セレーナ様をさらって自室へ連れ込みやがってしまいましたの。


(あ~っ、もう! このご令息もヴァカなの? セレーナ様に傷がついてしまうではないの! 泣きたい、泣きたいわ!)


 わたくしは周囲に気づかれないよう、ヘイデン屋敷の厩から盗んだ馬で走り出し、ものすごい勢いでアールグレン家へ戻って旦那様に事情を説明したのでした(チクりました)。

 いつもは穏やかで物静かで、頭のおかし……妻のためにお金をドバドバつぎ込んでいる旦那様の怒りといったら、(こんな方だったかしら?)というほど人格が崩壊しておりました。

 そりゃあもう、このまま憤死してしまうのではと思うくらい。





 かくしてお見合いは失敗に終わったのでした。


 アールグレンの旦那様はわたくしの将来の義兄。キレると怖いことがよ~く分かりました。気を付けなければいけませんわね。





「ところで旦那様、この『ドレス代』は? 桁がひとつ違うようなのですけれど」

「今年のウェディングドレス代だ」

「……(また結婚式をするのか!)」

「いつまでも美しいラリサでしてほしいからね」

「ですが毎年ウェディングドレスを新調すると経費がかさんで大変なことになりますの。刺繍などでお直しをするのではいけませんの?」

「ラリサにお古は着せられない。侯爵家から預かった大切なご令嬢なのだから」


 妻じゃなくて預かり物なんですの?


 何とこの男、結婚してから十数年、毎年奥様の実家の侯爵家からお小遣いをもらっているんですの。

 四十過ぎのお子様か!?

 しかも、奥様にはかなりの額の年金が入りますのよ。


「……分かりましたわ」


 行儀見習いにもかかわらず、わたくしはアールグレン家の財政にも関わっているのでございます。なにしろ皆さまがザルだから。

 あ、斜め下のセレーナ様は別次元ですのよ。


 奥様のウェディングドレス代は実家からのお小遣いで捻出しているものの、奥様への諸々のプレゼント、豪華な離邸の維持費などで全て吹っ飛んでいるのですわ。不足分はカントリーハウスの維持費からの補填。

 おかげで母屋の修繕が間に合わない状態。そろそろ屋上貯水槽を全面的にキレイにし、給水設備も新しくしなければと思っていましたのに。

 クリストフ様のお小遣いも減らそうかしら。


 はぁ……。


「ソーニャ、今帰ったよ〜」


 そこに飛び込んできたのは、首都のタウンハウスから戻って来た愛しのおヴァカクリストフ、わたくしの婚約者様。


「お帰りなさいませ、クリス」


 悪い虫が付かなかったか、香水やらアクセサリーやらを細かくチェック。

 だいたいヨシ!

(娼婦はこの際カウントに入れないことにしましょう。気にしたらキリがありませんわ)


「ソーニャにプレゼントだよ〜」


 渡されたのはクリスの目の色と同じグレーサファイアのネックレス。これはあれですかね、『所有印』?

 ちょっとウフフときましたわ。

 しかしわたくしは次期伯爵夫人。経済状態を考えなければなりません。今のアールグレン家の財政はカツカツです。無駄遣いなどもってのほかです。


(二番目に豪華な馬車を売って、ランク下げした中古にしようかしら……奥様が着なくなったウェディングドレスを売り飛ばそうかしら……)


「プレゼントは嬉しいのですけれど、あまり無駄遣いしないようお願いしますわ」

「婚約者へのプレゼントを無駄遣いと言うのかい?」

「アールグレン家の経済状況をお考えください」

「ハァ……ソーニャは厳しすぎる……」

「秋の収穫感謝祭にかかる費用を考えてくださいませ!」

「……かしこまりました、未来の奥様」


 アールグレン家がざっくばらんすぎるのですわ!





 わたくしは次期アールグレン伯爵夫人。

 領地の財政状態を維持しつつ、遊び人クリストフとアホセレーナ、そして頭のおかしな当主夫妻の面倒を見なければなりません。


 あぁ、頭が痛い。

☞第一部はこれで終わりです。次回から第二部『ミスター・ミハイロフ』がはじまります。婚約破棄で人生と精神が狂った人たちが登場します。

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