分け与えられた邪神の能力
「お前らには、俺の力を分けてやる」
邪神の声は、先ほどと変わらず平坦だった。
まるで、当たり前のことを言っているみたいに。
「今から配るのは、能力だ。
能力という呼び名が嫌ならスキル、超常の力、異能、まあ、好きに呼べ」
白い空間の中央に浮かんでいた光の板が、ゆっくりと明るさを増す。
光の板には無数の項目と短い説明文が書かれていた。
――能力一覧……?
「能力の内容は、そこに全部書いてある」
邪神は続ける。
「攻撃系、防御系、補助系。
時間を操るもの、空間を歪めるもの、身体を強化するもの」
「どれも、俺の力を劣化させて切り分けたものだ。
元の俺には遠く及ばないが……」
「人間が使えば、十分すぎるほど強い」
ざわり、と空気が揺れた。
誰かが、息を呑む。
誰かが、掲示板から目を離せなくなっている。
私も、視線を外せなかった。
――本当に、能力だ。
――しかも、数が……。
多すぎる。
一目で把握できる量じゃない。
「ルールは簡単だ」
邪神の声が、少しだけ弾んだ気がした。
「一人につき、最初は一つだけ能力を与える」
「その能力は、自由に使え。
そして――」
声が、わずかに低くなる。
「他の参加者を殺せば、そいつが持っていた能力は、お前のものになる」
はっきりとした殺意の宣言。
誰かが、喉を鳴らす音がした。
「さらにだ」
邪神は、楽しそうだった。
「能力は、組み合わせることができる。
二つ、三つ……条件を満たせば、新しい力に進化する」
――進化。
その言葉に、胸の奥がざわつく。
「最終的に生き残った一人には、ご褒美も用意してある」
一瞬、間が空いた。
「劣化版ではあるが、ゲームの中で手に入れた能力をくれて元の世界に帰してやる。
まさしく神の力だ。
元の世界で使えばどんな願いも叶うだろうよ」
沈黙。
誰も、すぐには反応できなかった。
――生き残れば。
――殺せば。
――神の力を得られる。
頭が、追いつかない。
怖い。
でも、それと同時に――
この場にいる何人かの視線が、変わったのが分かった。
掲示板を見る目が、さっきとは違う。
「……質問はあるか?」
邪神は、そう言ったが、
答えを待つ気はなさそうだった。
「まあ、どうせ始まれば分かる」
そして、決定打の一言を落とす。
「能力は早い者勝ちだ」
その瞬間だった。
「え?」
誰かが、短く声を漏らす。
「最初に触れた能力が、お前のものになる」
邪神は、淡々と告げた。
「迷っている暇はないぞ」
空気が張り詰める。
誰も、まだ動かない。
でも、全員が同じことを考えているのが、分かった。
――早い者勝ち。
――取らなきゃ、奪われる。
私は、掲示板を見上げたまま、
口元に指を当てる。
――どうする?
――何を選ぶ?
心臓の音が、うるさい。
――私より、優秀な人は、たくさんいる。
――きっと、もう動き出す人も……。
その考えが終わるより先に、
誰かの足音が、白い床を強く叩いた。




