私よりすごい人たち
白い空間に集められた人たちを、私はさりげなく観察していた。
怒鳴っている人。
泣きそうになっている人。
呆然として動けない人。
でも、それだけじゃない。
腕を組んで、何かを考えている人。
周囲の配置を確認するように視線を動かしている人。
表情を消して、ただ状況を受け入れようとしている人。
――いる。
――私より、落ち着いてそうな人。
私は、口元に指を当てる。
これは考えるときの、私の癖。
学校でも、そうだった。
私は勉強が嫌いなわけじゃない。
授業もそれなりに聞いている。
テストの点数も、悪くはない。
クラスで言えば、中の上くらい。
でも、上には上がいる。
同じ問題を、私より早く解く人。
私が思いつかないやり方で、簡単そうに答えを出す人。
「そんな考え方、あったんだ」
何度も、そう思ってきた。
世界には、私が思いつかないことを平然とやってのける人が大勢いる。
学校だけじゃない。
それは、インターネットを見ていれば、もっとはっきり分かる。
SNS。
動画サイト。
掲示板。
誰かが、私には思いつかない発想で、私には到底できない速度で、何かを作り上げている。
難しい問題を、一瞬で解説してしまう人。
専門知識を、当たり前みたいに振り回す人。
失敗談すら、私には真似できないレベルで糧にしている人。
――いる。
――本当に、たくさん。
顔も名前も知らないのに、画面の向こうには私よりずっと賢そうな人が溢れている。
しかも、その中の何人かは私と同じ年齢か、もしかしたら、もっと若い。
――世界、広すぎ。
そう思うたびに胸の奥が、少しだけ冷たくなる。
私は、その人たちの発言を読んで「すごいな」と思って、そっと画面を閉じる側の人間だ。
発信する側じゃない。
目立つ側でもない。
考えるのは好きだけど、それを誰かに見せる勇気はない。
――だったら。
――なおさら。
このデスゲームの参加者の中にも、同じような人がいると考えるのは自然なことだった。
SNSでは凄い人ほど、案外静かだったりする。
全部分かっているのに、あえて黙っている人。
様子を見て、他人の失敗を待つ人。
――能ある鷹は、爪を隠す。
その言葉が頭の中で、何度も繰り返された。
私は、また口元に指を当てる。
――私が思いつくことは、
――きっと、誰かも思いつく。
――私が「これで大丈夫」と思った瞬間に、
――もう一段、先に進んでいる人がいる。
そう考えると、結局、行き着く答えは一つだった。
――疑いすぎるくらいで、ちょうどいい。
――自分を信用しないことが、
――今の私にできる、唯一の武器。
私は、静かに息を吐いた。
ただ恐怖しているわけじゃない。
私は世界の広さを知っているだけだ。




