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怒鳴った人の末路


光る板が現れた直後だった。


「ふざけんなよ!!」


空気を切り裂くような怒鳴り声が響いた。


中年の男性だった。

スーツ姿で、顔を真っ赤にしている。


「何が神だ! 何が殺し合いだ!!

冗談も大概にしろ!!

今すぐ元の場所に戻せ!!」


男性は天井――

正確には、声がした方向を睨みつけて叫び続ける。


「こんなことが許されるわけないだろ!!

お前は犯罪者だ!! 警察を呼べ!!」


周囲が、静かになっていく。


誰も男性を止めない。

誰も同調しない。


ただ、少しずつ距離を取るように、

人の輪が歪んでいく。


――やめた方がいい。


そう思ったけれど、

その考えは喉の奥で止まった。


邪神の声が響いた。


「……ああ、はいはい」


明らかに、面倒くさそうな声音だった。


「こういう輩が、いつも現れる」


すると男性の足元の白い床が、歪んだ。


「――え?」


短い声。


次の瞬間、男性の身体が宙に浮いた。


見えない何かに、掴み上げられるように。


「ちょ、ちょっと待っ――」


言葉は途中で途切れた。


男性の身体が、ゆっくりとねじれる。


関節が、本来ありえない方向に曲がる。

足が空を掻くように震える。


「や、やめろ……!!

やめろおおおおおお!!」


絶叫。


喉が裂けるような、必死の悲鳴。


骨が軋む音が、はっきり聞こえた。

内側で何かが壊れていくのが、想像できてしまう。


邪神の声が、淡々と続く。


「全員、よく見ておくように」


男性は、すぐには死ななかった。


声が掠れ、言葉にならない音に変わり、それでも苦しみだけは終わらない。


私は、目を逸らせなかった。


次の瞬間、男性の身体が内側から潰れるように消えた。


血は出なかった。

肉片も残らなかった。


ただ、さっきまで人がいた場所に、何もなくなっただけだった。


沈黙。


ざわめきは、完全に消えていた。


誰も声を出さない。

誰も動かない。


私は、口元に当てていた指を、強く握りしめた。


……震えている。


自分の体が、小さく、確実に震えているのが分かる。


――怖い。


はっきりと、そう思った。


頭のどこかで、「落ち着いて状況を把握しないと」と考えている。


でも、その思考の上に、恐怖が覆い被さってくる。


――思考が、鈍くなる。


――このままだと……。


呼吸を、意識的に整えようとする。

でも、心臓の音がうるさくて、うまくいかない。


――これは、冗談じゃない。


――本当に、人が殺される。


邪神の声が、満足そうに響いた。


「ようやく分かったか?」


「これは遊びじゃない。

お前らの命を使った、俺の娯楽だ」


私は、唇を噛みしめた。


――怒鳴らなかったのは、正解だった。


――でも……。


視線を巡らせると、恐怖に飲まれながらも必死に考えようとしている人たちがいる。


顔色を変えず、現実を受け入れようとしている人たち。


邪神は続けた。


「じゃあ、説明に入る」


「お前らには、俺の力を分けてやる」


その言葉が落ちた瞬間、張り詰めていた空気が別の色を帯びた。

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