邪神のデスゲーム
「――お前らには、殺し合いをしてもらう」
声が落ちてきた。
怒鳴り声ではなかった。
かといって、冗談めいた調子でもない。
説明文を読み上げるみたいに、平坦で、無関心な声だった。
「それは俺が見て楽しむためだ」
……え?
私は反射的に周囲を見回した。
白い。
床も、壁も、天井も。
境目が分からないほど、全部が同じ白で塗り潰されている。
人がいる。
制服の人。
スーツの人。
部屋着みたいな格好の人。
――なんで?
――さっきまで、私は……。
頭の奥が、ふわっと浮いた感じがする。
え?
え?
私は教室にいた。
机があって、黒板があって、窓際の席で――
次の授業のことを、ぼんやり考えていたはずだ。
「……今の、聞いた?」
近くで、誰かが小さく声を出した。
「殺し合いって……」
「ドッキリじゃないの?」
「いや、ここ……どこだよ……」
笑い声が一つ、すぐに消えた。
誰も怒鳴らない。
誰も取り乱さない。
ただ、みんな同じように戸惑っている。
私も、たぶん同じだ。
――状況が、理解できない。
私は無意識に、口元に指を当てていた。
考えようとするときの癖だ。
――誘拐?
――集団で?
――でも、どうやって……?
視線を巡らせると、
ざわめきの中でも、比較的静かな人たちが目に入る。
腕を組んで考え込んでいる大人。
周囲を観察するように視線を動かしている学生。
落ち着いて息を整えている人。
――……いる。
――私より、ずっと冷静そうな人。
私は別に頭がいいわけじゃない。
成績だって、せいぜい中の上くらいだ。
学校はもちろん、学校以外にも私以上の能力を持つ人は大勢いる。
つまり、こういう状況下で私より早く理解している人が必ず居るはずなのだ。
「俺は神だ」
上から声が、また響いた。
姿は見えない。
なのに、どこからでも聞こえる。
「正確には邪神だがな。呼び方はどうでもいい」
邪神。
その単語を、頭の中でなぞる。
――本気で、言ってる……?
「これから始まるのはゲームだ。ルールは簡単だ」
誰かが、息を呑む音がした。
私は、ただ聞いている。
怖い、という感情は、まだ追いついてこない。
代わりにあるのは、現実感のなさだけだった。
――夢?
――でも……。
床の感触は確かだ。
服の重さも、靴の中の感覚も、全部ある。
「まずは、これを見ろ」
白い空間の中央に、光が走った。
現れた光る大きな板に、何やら単語が大量に並んでいる。
掲示板……?
私は、それを見つめながら思った。
――教室に、いたのに。
――気が付いたら、ここにいる。
――意味が、分からない。
そして同時に、こうも思っていた。
――ここにいる人の中には、
――私よりずっと優秀な人が、きっとたくさんいる。
――だから……。
――下手なことは、しない方がいい。




