45:悪役令嬢? との邂逅
『ピンクの髪』とか『ストロベリーピンクの髪』とか、=ヒロイン枠って思っちゃうのって、ウェブ小説にある異世界令嬢モノの影響かしらね……。
まぁそれを差し引きしても、こんな場所で会う『ヒト族・令嬢風』の人物なんて厄介事の気配しかない。
とっとと去ろうと手綱を引こうとしたのだが。
「――お待ち下さい!!」
彼女のほうが一手早く、声をかけて来た。
「翼持つ天馬を駆る御方、お助け下さり誠にありがとうございます。わたくしの名はフローレンス、訳あってこの地に放り込まれた詮無き身であり、決して害意を以て踏み荒らす意図はない事を釈明させて頂きたく存じます。どうか」
彼女は言い、それはそれは綺麗な――恐らく上流階級のお辞儀を披露する。カーテシーって言うんだっけ。
え、それ降りて来てって事? いやいや、釈明なんて要らないよ。害意がないならもうそれで。
なのに美しい声で、切実に続けるのだ。
「――わたくし達は現在、難儀しております。とても厚かましい願いとは重々承知の上でお頼み申し上げます。貴方様のお慈悲を、もう一度乞い願いたく存じます」
「お嬢様! そのようなどこの誰か分からぬ者に助力を乞うなど――」
「レヴィン、黙って。――どうか、伏してお願い致します」
途中で口を挟んだのは、兵士っぽい制服を纏った茶色の髪の青年だ。
あたしは『破落戸を指定』して吹っ飛ばしたので、ピンク令嬢の関係者らしき彼は除外された模様。
……どうしよう。
躊躇したものの、あたしは降りる事にした。青年のほうは反対みたいだけど、女性は分別があるようだし、うっかり助けちゃった手前もあるしね……。
「ありがとうございます」
二人から少し離れた場所に降り立つと、彼女――フローレンスと名乗った女性は更に頭を低くした。
レヴィンと呼ばれた、顔立ちの整った青年が彼女の前に駆け寄り、警戒するようにこちらを見据える。
その手には槍が構えられていて闘志に満ちているが、彼自身は殴られた跡や、刃物が掠ったような傷があった。重症まではいかないものの立っているのが辛そうである。
うーん、話は早く済ませたほうが良いかな?
「……それで、どんな事情があって、どういった助力が欲しいんです? 何でもできる訳じゃないから、そこは承知してね」
端的に尋ねると、兵士風茶髪青年がいきり立った。
「貴様! フローレンスお嬢様はローゼンブルク侯爵家のご令嬢であらせられるぞ! そのような物言いは無礼だろう!」
「レヴィン! お止めなさい! ……それにわたくしはもう『令嬢』ではないわ。家には縁を切られたのですもの」
「……お嬢様……」
レヴィン……いや『兵士青年』でいいや。兵士青年は、お労しいという表情で彼女を見つめる。
フローレンスお嬢様は彼を手で制しながら、数歩前に出た。
「大変申し訳ありません。彼に悪気はないのです」
「……そちらの兵士青年に興味はないので、貴女が謝らなくても良いですよ。――で、さっきの答えは?」
素っ気なくなっちゃうのは仕方ないと思って欲しいな。だって兵士青年の態度がいけ好かないんだもの。
彼女を守りたいっていう気持ちだけは分かるから、今のとこ責める気はないけどね。
「は、はい。実は――」
そうして(漸く)語られた話によると。
彼女フローレンスは、バランドル王国の侯爵家令嬢であり、王太子アーナンドの婚約者だったという。
全て過去形だ。何故ならフローレンスは先日の夜会で王太子に婚約破棄され、聖女に危害を加えようと画策した容疑で追放処分を命令されたからである。
勿論フローレンスは冤罪を主張したが聞き入れられず、生家の侯爵家にも信じて貰えず縁を切られ、この魔の山の森へと強制的に護送されてしまった。
兵士青年は騎士爵家の出身で侯爵家に仕える護衛。フローレンスが追放された事を知り、単身追って来たという。
漸く止まった馬車に追いついた彼が目にしたのは、護送していた下級兵たちと、彼らに森の中へ引き摺られて行くフローレンス。
下級兵たちは護送後は彼女を森に放り込むだけの仕事だったが、若く美しい女性だという事で不埒な考えを抱いたらしい。
兵士青年はフローレンスを守るべく戦ったが、多勢に無勢。呆気なく取り押さえられ、危機に陥ったところへあたしが現われた――と。
え、あいつら下級とはいえ兵士だったの? どっかのならず者かと思ったよ。
しかしよくよく考えれば、制服っぽいなりをしてたかな? 着崩しすぎてパッと見分からなかっただけか。
ていうかフローレンスお嬢様、あの王太子の婚約者で、破棄された挙句追放って……。
悪役令嬢テンプレとツッコめば良いのか、相変わらず王太子クソだなと呆れれば良いのか。
まぁ話を聞く限り、彼女は『悪役』を押し付けられたマトモなご令嬢で、本当に悪いのはどっちなのか明白だけど。
「……事情は分かりました。それで、貴女たちはどうしたいんで?」
「……わたくしは、隣国に参ろうと考えております。ですが手荷物どころか、魔物と戦う術も奪われており……。人の脚で数ヶ月はかかる『魔の山』の踏破にはとても至らないでしょう。なので――宜しければ、貴方様の天馬にてわたくしたちをお連れて行って頂けたら、と……」
魔物と戦う術を奪われた?
そこに引っかかり、彼女を探ると確かに妙な感じを受ける。
破落戸もとい下級兵士の一人の台詞を思い出した。
『コイツって確か、魔力を封じられてるはずですぜ?』
…………うわぁ……。
もしや王太子、彼女の魔力を封じた上で魔の山に放逐するのを命じた訳? うら若き女性を?
あたしの時と同じ――いやそれより鬼畜じゃん。
マジでサイテー。
しかし隣国に行きたいのかぁ。帝国にも良い印象はないんだけど。
でもバランドルに残るよりはましかな。都会じゃなく田舎でひっそり暮らす分にはなんとかなるのか。 護衛君もいるし。
貴族の元令嬢が平民に混じって生活できるのかな? とも思うけど……。
これは訊かない方がいいよね……藪蛇になる気がする。




