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「ジャナイ方」の異世界見聞記  作者: 那内


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43/48

43:客観的に見た湖集落


 ジオは暫くあたしを凝視した後、詰めていた息をフーと吐き出した。


「…………ありがとさん。助かるぜ、嬢ちゃん」


 感無量といった様子で謝意を述べるジオに、あたしは頷く。


「でも、それとこれとは別なんだよね」


「――……ん??」


 ジオはきょとんとした。


「それとこれとは別、ってなんだ?」


「ジオさんや、あたしに黙ってること、なぁい?」


「黙ってること……???」


 本当に心当たりがない様子に、あたしも首を傾げる。


「あれ……? 瘴気溜まりが結構あちこちにある事、黙ってたよね?」


 そこで漸くジオはギョッと顔を引き攣らせた。

 あ、やっぱり的中じゃん。


「あー、嬢ちゃんそれにはな、ちと事情が……」


 ジオは途端に視線を泳がせ、しどろもどろになった。


 因みに、ジオを信頼すると言ったのは別におべっかでも何でもない。根拠があるから信用しただけだ。

 ジオが黙っていた事についても、それこそ『事情』があるからだとも思ってる。


 けど、何故それを訊いちゃいけないのか純粋に疑問なのよ。


「ジオ? 言わないで苦茶ニガチャの刑になるのと、言って美味しいお茶を飲むの、どっちが良い?」


「…………」


 あたしはにっこり笑った。


 さあ、洗いざらい吐いちゃいましょうね。


✵✵✵


 じっくり話を聞く為に石テーブルへ移った。

 そこで気まずげなジオが自供した内容に、あたしが返したのは一言。


「なぁんだ」


 ジオの供述(?)は要約すると。


 まず、森の瘴気を祓うのは大方、賛成している。

 が、この湖集落に貴重な資源があるのを周知されるのは危険を伴うので、簡単には森に踏み込めない現状を保つべきでは、と考えたとの事。


 それって、あたしも懸念してた事と一緒では?


「結界があるし、認識阻害も同期してるよ? それだけじゃ駄目なの?」


 だからこそ湖集落には魔獣が寄り付かないし、魔鳥の大群を見て驚いた訳だが。

 ジオは頭の後ろを掻いてから、腕組みした。


「嬢ちゃんの結界を破れる奴はそうそういねぇだろうさ。だが問題は『この森でまた採取物が採れる』と認知される事でな」


 ジオが分かり易く、噛み砕いて説明してくれる。


 魔の山一帯は現在、密接するバランドル王国と帝国のどちらもが自領権を放棄している。

 理由は以前にも聞いたが、瘴気が溢れた地帯は魔物と魔獣が生まれ、そこから出た魔物が人里を襲った場合、賠償が発生するからだ。


 そもそもマナが瘴気に変わり資源が採取できなくなった場所など、百害あって一利なし。わざわざ手に入れたいと考える者はいない。


 しかし、再び資源が豊富に採取できると知れればどうなるか――。


 そこまで言われ、あたしは腑に落ちた。


 国家――この場合、位置的に一番近いバランドル王国かな。それが「ここは我が領土である」と主張したら、誰も反対する事はできない。というか、ありえない。

 自国民にとっても自分たちが富む機会なのだから、あたし一人が反対したって聞き入れられるはずがない。

 んで『税金』なんかの理由付けで、この湖集落の資源は徴収される可能性が高い訳か。


 因みに、ジオが買い取ってくれたレア薬草の代金は既に三世代が何不自由なく生涯暮らせる額に達していて、この湖集落の資源を全て売り払うと超大国の国家予算に匹敵するらしいよ?


 あははー。いつの間にそんなリッチになってたのかしらー?


 ……ホント。ふざけんな。


「つまりジオは、湖集落を守るだけじゃなくて『マナが戻りつつある森の状態を隠す』のも同時にやるべきだと考えてる訳ね」


「そういう事。――もう一度言うが、森の瘴気を祓うのは良いこった。が、森の境界から数十キロメートルは瘴気を残しておくのが現状、良策だと愚考した。それでも踏み込んで来る奴はいるだろうが、間口は狭められる。……まぁ、最善ではねぇがな」


 自分でも納得している訳ではない、といったジオの表情に、『でも瘴気を残しておくと良くないんだよね?』とは言えず、あたしは口を噤んだ。


 多分、一番良いのは『魔の山の瘴気を全て祓っても、良識のある人々によって採取量が制限される』――環境保全対策みたいな制度が設けられる事なのだろうけど。

 しかしそれはこれまでの話と経験から、全くアテにならない。


 では二番目に何が良いかというと、全ての瘴気を祓って尚且つ、あたしが魔の山全域を結界で護る事……なんだろうけど。


 全域は無理なんだよねぇ……。


 いや、マナを取り込んで魔力に換える新型結界のお陰で、あたしの魔力は常に満タンなのよ。


 でも、この場合『出力が足りない』と表現するべきかな?

 結界を拡大しても、今のところ半径30キロメートルがせいぜいなのだ。


 初期に比べたらかなり広範囲になったものの、魔の山一帯どころかバランドル王国側の森を覆うにも全然足りない。

 思い出して欲しい。この湖集落に辿り着くまで約一ヶ月かかってる事を。


 休憩などで途中に足が止まったり、森歩きで歩行速度が多少落ちてたのを考慮しても、一日八時間で計算すると、森の入り口からざっと――720キロメートル。

 しかもこれ半径だから、直径1440キロメートルの円形結界を最低でも作らないとならない。

 日本の本州をまるまる覆うのに等しいですね。今はとても無理です。


 ……ジオの提案を受け入れるしかないだろうな。


 ていうか、彼がここまで警戒するのは何故かなと考えたら……もっと恐ろしい事に気付いちゃった。


 マナが豊富な場所には資源が満ちる。それは妖精たちが大きく関わっているからだと、もう知ってる。

 なら、他にも知ってる者はいるのか?

 知ってるとしたら、どんな行動に出る? 聖獣や霊獣に対しては?


 ジオに訪ねれば、懸念した通りの答えが返ってきた。

 ……もうね、人間でごめんなさいって感じです。


 言ってもしょうがないので、とりあえず結界の強化と、周辺の瘴気だけでもなんとかしますか。


 ジオ、申し訳ないけど訪問は、数日くらい待ってね。


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― 新着の感想 ―
瘴気だまりのことをだまっていた理由はそういうことだったんですね〜。まぁ確かに争いが起きるかもしれないし、ろくなことにはならないような…。 瘴気は良くないけども、人間ももっと良くないのかもね…。 ほどよ…
なるほど、倫理観の薄い王族のいる国と接していますものね。彼らは環境保護どころか、この辺りが砂漠になるまで資源を搾取しかねないですよね。帝国もあまり良い国ではなさそうですから、ジオ殿の懸念もご尤もかと思…
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