42:待たせてごめんね
予約時間を間違えておりました
m(_ _;)m
本日は急遽手動で投稿致します。
「違う違う。足の裏の一番広い面で鐙を踏むんだよ。踵は下げて真下に重心をかける……そうそう」
ジオの指導を聞きながら、おっかなびっくりノワの背に騎乗し、広場を歩かせる。
何をしてるかって?
乗馬の訓練ですよ。
ここんとこ数日、ノワとアシュ交互に乗馬練習。今日はノワ担当で、アシュはどこかにお散歩に行っている。
老いても可愛かったノワとアシュは霊獣化し、それはそれは果てしなく凛々しく美しいイケ馬と美馬に生まれ変わった。
ノワは水属性の霊獣で、馬体が大きくなった(そして毛艶が素晴らしい)ぐらいの変化だけど、アシュは霊獣ではなくなってしまった模様。
アシュは聖獣だそうだ。
風の大妖精が『祝福』なる儀式? をしたじゃん?
同属性の高位妖精や高位精霊に『祝福』を受けると、生物の格が上がるらしいのね。
なので霊獣より格上の風の聖獣、『天馬』に相成っちゃった模様。
いやあ、美しいのも納得てなもんよね。
他に言う事がないのかと問われたら、無い。
そりゃ、以前だったら聖獣だキャッハーと浮かれたかもしれないけど、アシュは一時、目覚めるかどうかの瀬戸際だったし。
あたしとしては現在、元気になってくれたのが一番なので、天馬だろうがペガサスだろうが、ペーガソスだろうが種族なんて何でも良いのよ。
唯一心配だったのは相方が格上になっちゃったノワだけど、今でもアシュと仲良いし。
懸念も問題もありはしませんね。
それはそれとして。
二頭は霊獣・聖獣化したあの翌日、あたしが起きてから妙な行動を取るようになった。
何故か執拗にあたしの背に鼻面を押し付け、グイグイ押して来るのだ。
構って欲しくてイタズラしてるんだろうと思っていたが、ジオに指摘された。
『背に乗って欲しいんじゃねぇの?』
曰く、ノワとアシュは馬車馬として使われていたが、元々は乗馬用に調教されていたのでは、との事。
なんでも、首や脚の太さに体型、二頭の性格などが、馬車馬や農耕馬とは異なるのだそうだ。
馬車を引いていたのは、老馬などは貴族や騎士団から民間に下げ渡されるからではないかと。
そうなの?
……いや、分かるよ。だって二頭はそもそも色合いが良かったし、お顔も整ってるもの。品もあると思ってたんだよねー。親の欲目とかじゃないよ、決して。ええ。
そっかー、貴族に飼われてたのかもしれないのか。
二頭を捨てたその家は許さんけど、お陰であたしが逢えたのだから少しは感謝もしてあげよう。
話が逸れたけど、二頭のちょっかいは「乗ってよ」というお誘いだったみたい。
そりゃ乗るよ!
決定したら早かった。ノームたちの行動が。
ノームは皆が物造りの匠だが、それぞれ得意な分野が異なる。
今回は革製品が得意な子が主導で、素晴らしい馬具を拵えてくれた。
こうして準備が整ったはいいけど、乗馬経験なんて子供の頃『ポニーに10分』くらいしかないあたしが、即乗りこなせる訳がない。
そこで困った時のジオグラッドさんですよ。
ジオはヒト族の国々をぶらぶら行き来したり、ヒト族のフリをして暮らした事もあるんだって。
当然、乗馬も得意だと自信満々に言い切ったので、習う事に致しました。
教官ジオは基本スパルタだけど、褒める時は褒める。
「学校の先生とか家庭教師にも案外向いてそうだよね」
「ガラじゃねぇよ」
そうかな? 説明とか教え方が上手いし、生徒とも良くコミュニケーションが取れそうだけど。
まあ、本人にその気がないのを無理に勧めても意味がないか。
しかし今の問答で、この世界に『学校』が存在するのが分かった。
それともジオの国だけなのかな?
「ねえ、ジオの国ってどんな所?」
「ほれ前見て背中のばせ。……ん? ウチの国? 亜人が住む国って言わなかったか?」
「聞いた。でもそれだけじゃなくて、どんな風習があって何が流行ってるとかさ」
言うと、ジオはニヤと笑った。
「おや、嬢ちゃんがウチの国に興味持ってくれるとは。そろそろ訪問を考えてくれるのかい?」
「いいよー」
サラリと答え、手綱を引く。
少しで良い。ノワもアシュも賢いので、あたしが多少下手くそでも意を汲んでくれる。
馬体が大きいから降りる時に少し怖いけど、連日乗るようになれば段々慣れて来た。
えいやっと地面に降りてジオの方へ行く。
ジオは変な顔をしていた。驚きと放心の中間辺りの、間抜けな表情だ。
何を聞いたか分からないような顔、が適切かな?
「……あー、嬢ちゃん。なんて言った??」
はは、当たり。
あたしは息を吸って、吐いた。
……こういうのは照れ臭いね。でもちゃんと言わなきゃね。
「あたしに色々教えてくれて、ありがとう。あたしを守ってくれて、ありがとう。あたしの信頼を得る為に、気持ちを尽くしてくれて、ありがとう」
真っ直ぐジオを見つめると、その瞳の瞳孔が細くなっていくのが分かった。
あはは、驚いてるなぁ。
「ジオの国に行くよ。お姉さんの瘴気症、治してあげる。――一ヶ月以上も待たせて、ごめんね」
瘴気症は火傷のような跡から想像できる通り、苦痛があるという。放置すると内臓まで届き、死に至るという。
滞在し続けるジオに、それとなくお姉さんは大丈夫なのか訪ねた事が何回かあるけど、「姉貴は強い竜人だからな」と笑って答えていた。
あたしに負担をかけない為だったと、今は分かる。
例えそれが、あたしの力を利用したいのと同義だったとして。
『信頼を得る』なんて曖昧で確実でもないそれに、言葉を違える事なく尽力し続けてくれる人が、どれ程いるんだろ?
信頼しないはず、ないでしょう。
ホント、待たせてごめんね。




