37:これでも真剣なんです
ベタフラ=漫画用語。
黒い背景にイナズマフラッシュ。
※後書きの補足を前書きに移動致しました。
以前にお読み下さった方々、後書きまでモヤモヤさせてしまった事をお詫び致しますm(_ _)m
ジオは巨大な剣鉈を軽々振るい、断続的に迫りくる魔鳥を次々斬り捨てていく。
ハーピーゾンビはというと、時に衝撃波に加え、巨大な両翼による旋風を巻き起こし、呼び寄せた魔鳥ごと攻撃してくる。
合わせれば数百は斃れたろうか。しかし全く数を減らす様子がない。
寧ろ増えてる。ハーピーゾンビが何度も鳴き、いなくなった以上の魔鳥を呼び寄せ補充しているからだ。
湖集落の周辺には魔獣があまり寄って来ない。なので、どこにこれほどの魔鳥がいたのだろうと驚いてしまう。
「チッ、キリがねぇ。――仕方ねぇな。俺が惹きつける、嬢ちゃんは死角から大妖精に近付け」
ジオが言った。こんな戦闘場面ではありそうな台詞、シーンだろうが……。
離れろ、って事ですか。無茶ブリですよね? ここをどこだと思ってます?
高度数百メートル以上の空中ですが??
「……翼付きの人は簡単に言うよねー。ジオから離れた瞬間、地面にベチャッ、で終了ですよ」
「いやいや、飛べるだろ、嬢ちゃんは――っと!」
背後から襲って来た魔鳥の蹴爪をサッと避け、逆袈裟で反撃しながらジオは答えた。
「妖精たちをバリアで包んで浮かせるだろ。なら自分も可能じゃねぇのかい?」
「…………ッッ!!!」
あたしは背後にベタフラを背負った心持ちがした。
――ジオ、天才か!?
うわー盲点だった。あたしも飛べるかもしれないの? え、マジ?
とか自問自答してる時間が勿体ない。ひとまずやってみよう。
いつもはどうしてたっけ?
妖精たちは、結界で包んで『来い』と念じるだけであまり意識してなかったけど……。
パッシブバリアを改変する。浮け、風船みたいに、空中に留まるように、と念じる。
すると僅かに浮遊感があり、縦抱きしているジオも体重の軽減を察したのか、ニッと笑った。
「お、できたな。んじゃ魔鳥らが次に来て、反撃した直後に離すぞ。認識阻害も忘れるなよ。そうしたら、俺のバリアは解除しろ」
「え、でも……」
「バリアがあったら陽動にならんだろ。――安心しな。ハーピーの衝撃波は避けられるし、雑魚程度にやられる竜人はいねぇよ。分かった?」
「……りょ、了解!」
いきなり離すとか怖いけど、ここで「無理」とは言えない。あたしを抱えてるせいで、ジオの動きが制限されている事くらい分かる。
あたしはできるあたしはできる、浮ける、飛べる。認識阻害もね。落ちるなよ。
十数体の魔鳥が一斉に襲いかかってきた。それらを斬り捨てて、ジオが叫ぶ。
「よし、行け!」
腕から離れると同時にバリアが球体状に拡がり、なんとか空中に留まる。
浮いた!
それから、やや躊躇いはしたもののジオの結界を解除する。
同時にジオからも見えなくなったろうが、あたしのいる方向にパチッとウィンクして「頼んだぜ」と一言。
そして惹きつけるという言葉通り、ハーピーの正面に陣取った。そこへ数百以上の魔鳥たちが、好機とばかりに殺到する。
「ジオ……!」
あたしは自分のバリアでよたよた浮きながら、声を挙げた。
魔鳥たちが囲んだ中央から、赤い血飛沫が跳ねるのが見えて息を呑む。
直後、凄まじい轟音と共に雷電が迸った。
消し炭となった魔鳥がボトボト落ちて行く中、ジオは血だらけの姿でその場に静止し、ニヤリと豪胆に笑んだ。
「……接触して直にくらわせりゃ、風の影響がどうとか関係ねぇよなァ?」
肉を切らせて骨を断つ、ってヤツ? 余裕はありそうだけど、あんな血まみれで大丈夫なんだろうか。
魔物や魔獣は血の匂いに惹かれてやって来る性質があるというし、血を流したのもあたしから魔鳥たちの気を逸らす為に敢えて、なのかもしれない。
……じゃあ尚更あたしは、自分のやるべき事に集中しなきゃ。
幸いというか、認識阻害でも気配を察知するハーピーゾンビだけれど、ジオがその魔力と存在感を放って目立ってくれているお陰で、あたしの方には意識を向けてないように見える。
それに、飛行する魔獣としてはハーピーゾンビ自体の動きはあまり速くない。巨大だから少し動いただけで数十メートル単位だけど、それでも鈍重な気がする。
今のうちに背後に回って、なんとか近付いて……。
――なのにどうして段々高度が落ちてるんでしょうね?
妖精たちの時にはこんな事なかったよね、重いの? あたしの体重が重いの!?
あ、ちょ……近付きたいのに藻掻くほど離れてゆくとはこれ如何に……!
目の端に、ジオが剣鉈で魔鳥を次々倒し、時に雷電で一網打尽にしているのが映る。
あたしはと言えば透明なバブルボールっぽいその中、手足を掻いてカエル泳ぎよろしくエッサホイサ上空へと登ろうとしていた。
ノォオォーー……!!
ジオや周りが死闘を繰り広げる中、なんであたしだけこんなギャグマンガみたいな……泣きたい……。
ちょっとギフトさん! 今は重要な所なんですよ!
ギャグをかましてる場合じゃないの! せめて浮いて! 浮き上がってできればゾンビさんの背後まで行って!
心の中で叫ぶと、ふっと魔力が抜け、代わりに先程より身体が軽くなった。
そして上空へと浮き上がって行く。
念じれば、やはりよたよたとではあるが望んだ方向に進む。
魔力をまた消費しちゃったようだが、この際仕方ない。
このまま行っちゃって!
ハーピーゾンビと百メートルほどの距離を保ちながら、ゆっくり背後に回る。
もっと速く、とは思うけどこの速度が限界みたい。練習したら改善するかな?
そんな事を思いつつ、けれど集中を切らさないよう維持しつつ、背後に回りきった。
あとは近付くだけ――。
――と、百メートルを切って近付きすぎると、流石にハーピーゾンビも何がしかの気配を察するらしい。
センサーみたいな器官でも付いてるのかな。
グルンっと180度、真後ろに回る黒々した頭部。
濁った血色の双眸と目が合った。
気分としてはホラーよね、これ……。




