36:ハーピーゾンビ?
半径1キロメートルを粉微塵にしたハーピーゾンビ(名称が長いからこう呼ぶ事にする)はキョロキョロと視線を巡らせていた。
もしかしてあたし達の存在は感知できるけど、正確な位置が特定し切れてないのかな?
「ジオ、今のうちに最高速度で近付けない?」
「……無理だな。ありゃハーピー型だ」
やっぱりハーピーなんだ。
それが分かったのは良いけど、無理って何故?
答えはハーピーゾンビ自身が示した。
首を上下左右に回しながら、甲高い声を発する。
耳で聞き取れるかどうかぐらいのその音は、蚊避けのモスキートーンを思い出させた。
直後、ハーピーゾンビの顔がグンッとこちらを向く。
え!? なんで――
「あ、超音波!?」
コウモリなんかが高周波の音波を出して、地形や獲物の位置を特定するという。それ?
「ご名答」
答えながらジオは、素早くその場から離れる。
再び放たれた衝撃波は指向性があったらしく、離脱した場所を魔力の波動が突き抜けていくのが視えた。
「ジオ、急に動かないでよ。 結界があるから避けなくても……」
「アホ、よく視ろ。弱まってんぞ」
「え! あっ!?」
本当だ、これまで何の攻撃を受けてもびくともしなかった結界が、魔力がこそげ落ちたように薄くなっている。
まさかさっきの衝撃波で!?
慌てて結界を張り直すも、動揺する。
確か、僅かなりとも神気を帯びたスキルや魔法は、パーソナルエリアの守りを突破する可能性があると――。
「え、ちょっと待って。まさか大妖精って……」
「そ。お前さんにも危険な高位存在。瘴気で穢れたとて神気は神気、なんだわ」
それを先に言ってー!
……いや、だからジオはあれほど反対してたのか。『大妖精』なんだしそりゃ高位存在でおかしくない。察しの悪いあたしの落度だね……。
張り直した結界は、さっきよりも強固にしたけど……指向性を持たせた衝撃波に耐えられるか、自信が失くなってしまった。魔力を集中してるだけに、全方位の攻撃より破壊力が増してるだろうから。
ジオもそれを承知しているらしく、次々に迫る衝撃波を高速飛行で避け続けた。
高速飛行による移動は、上下左右に振られるフリーフォールみたいで、三半規管がやられそうになる。
「っ、……うぐ、ぅ……」
「ワリィ嬢ちゃん、耐えろよ」
わ、分かってます。
あたしもこんな場面、こんな所でケロケロしたくないからね。気張りますとも!
衝撃波が来る、避ける。
衝撃波が来る、避ける。
何度かそれを繰り返して、ハーピーゾンビはキリがないと考えたのかもしれない。
辺り一帯に響き渡る今度の鳴き声は、超音波と違った。
ほどなくして、穴から大量にアメーバ状の魔物が這い出て飛び回り、四方から大きな鳥が次々集まり出す。
その数、数百……千以上はいるだろうか。全部、魔獣? 魔鳥?
あたし達の周りを囲み、先行した数十体が仕掛けてきた。
なんで他の魔鳥たちにも位置が特定されてるのか。ハーピーゾンビがまたも異なる甲高い声を出しているので、意思疎通みたいな能力で指示してるのかもしれない。
ジオはあたしを縦抱きにし、空いた右腕を振るう。
無数に枝分かれした稲妻が魔獣たちに襲いかかる――が。
結界の外に放たれた稲妻は数体に直撃したものの、一方で魔獣から逸れたり、勢いを失って消えたりで安定しない。
雷属性に影響が強いという風属性が瘴気で淀んでいるから、上手く操れないのだ。
ジオがぼやく。
「あー……やっぱこうなるワケねー。くっそ、俺の雷をよ……」
「あたしが」
またも近付いた数体をギフトで吹っ飛ばし、もう一度と腕を振るおうとしたところで、ジオが止めた。
「嬢ちゃんの魔力は大妖精を戻す為に温存しとけ」
実は、瘴気を祓うにも魔力を消費する。消費量は規模や相手の格や強さに比例するようだ。
狂化魔獣になりかけていたクルミさんの正常化にも、実はかなりの魔力を持って行かれた。トレントは精霊と妖精の狭間にある種族で、格としては中位に位置するらしい。
とどのつまり、完全に狂化魔獣化した、あの巨大な大妖精を元に戻すには、現在の魔力量でも不安があるのだ。
「で、でも、これじゃ近付く事もできないよ。どうするの?」
迫りくる魔鳥たちは周囲に張った結界が阻むが、とにかく数が多くて前後も左右も上下も視界が埋まっている。
特に大妖精の方向に進もうとすれば、させないと言わんばかりの特攻でこちらの行動を妨害する。
こういう一致団結した連携は魔獣などにはあり得ない。間違いなく、大妖精が何らかの方法で操っているのだろう。
「こうすんの、っと!」
ジオはストレージから巨大な武器を抜き放ち、襲いかかってきた十数体へ無造作に振るった。
たったそれだけで一羽一羽が3メートルはある魔鳥は切断され、地上へと落ちていく。
「えっ、凄い! ジオ凄い! 剣筋見えなかったよ!?」
「え、そ、そう? ……コホン、俺の愛刀『斬魔』だ。魔法が使えねぇなら直接ぶった斬ればいいのさ」
ジオが(若干ドヤ顔で)掲げる得物は、あたしの背丈も超す刀身で、洋風の剣とも刀ともつかぬ形をしている。
そういえば、じいちゃんが昔使っていた道具に『剣鉈』という刃物があった。形状はそれに似ているだろうか。
ジオは斬魔なる愛刀を軽々振るい、近付いた魔物をカウンターで斬り捨ててゆく。
まだ結界に張り付く魔鳥の数体に、あたしは手を伸ばそうとした。
無意識の行動にハッとし、手を引く。
そんな余裕はない。魔鳥の瘴気を祓う余裕なんて――。
眠ったままのノワとアシュの姿を思い描き、奥歯を噛んで大妖精を見据えた。
――未熟な力では、助けたいものを全ては助けられない。唐突に、痛烈に湧き上がった悔しさを胸に刻みながら。
あたしの魔力は、大妖精の瘴気を祓う為に注ぐ。
そう決めた。
お読み下さっている皆様へ。
書き溜めが尽きかけておりまして……。
次話から週二〜三投稿とさせて下さいませ。
金曜、日曜
(と、一区切りするまでは水曜日も)
投稿、時間はこれまでと同じく正午の予定です。
ご容赦をm(_ _)m




