30:眠る
前回ジオグラッドが出掛けた時間まで遡ります。
ジオを見送り、あたしも伸びをして鎌を用具入れに戻す。
使った道具はノームたちが整備するので、毎日ピカピカの状態で使えるのだ。
「お、今日はモッヒーなんだね。よろしく」
ノームの一人でリーダー格のモッヒーがやって来たのでその頭を撫でる。
ノームたちは十人が十人、あたしが使った後の道具を手入れしたがるので当番制にした。
当初は従属契約したと言われてもピンと来なかったが、なるほどよくよく集中すると魔力がノームやコロポックルたちと繋がっているのが何となしに分かる。
ジオが言うには、
『いや魔力の繋がりもだが、全員お前さんの顔色を窺ってるし何かに付けて側に寄って来るだろ。心身から主人に仕える僕はそういうもんさ』
だそうだ。
主従の在り方とか知らんけどあたしからしたら、こんなに慕ってくれてるのがただただ可愛くて仕方ない。名前も当然みんなに付けたさ。
――夢の内容は、深く考えないようにしてる。
大学で心理学を専攻してた同期が、夢の大半は心や記憶を整理する為だったり、ストレスの耐性を高める為に見ると言ってたんだよね。
過去も元の世界の事も、今は直視するのがキツイ。罪悪感に苛まれるのも。
夢が整理してくれるならお任せしてしまおう、という結論に至った。
アレが変な予知夢だったら怖いけど……なら尚更、今出来る事に集中したほうが良い。
という事で――失せ物探しの魔法ですよ。
因みにあたしは召喚されてから物を失くしたことはない。大抵はストレージバッグに収納してたし、湖集落では洞窟に置いてるからだ。
ストレージバッグを失くさない限り失せ物の心配は不要だろう。
じゃあ何の為かというと。
「え、感知できなくなったんですけど……」
ギフトの検証だ。
吹っ飛ばしたモノが何処に行くのか、気にしないようにしてたけどやっぱり気になっちゃったんである。
なのでひとまず、そこらに落ちてる石ころにマーキングしてから吹っ飛ばしてみた。
一瞬で何処に飛んだか分からなくなった。意味ないじゃん。
……いやいや諦めることなかれ。検証はまだ残ってる。
吹っ飛ばしは加減できるか、方向をコントロールできるか、だ。
コロポックルたちが気付いて次々に石ころを運んで来た。お手伝いありがとね。
ガンガン行きますよ。
…………
………………
……………………
気が付けばすっかり日が傾いていた。
体が気怠い感じなので一旦止める。ちょっと夢中になり過ぎたみたい。
けどやってみた甲斐はあった。
加減もコントロールもある程度できるし、マーキングした石はおよそ5キロメートルまでなら『そこにある』と感知可能なようだ。
あと、方向をイメージしなければ対象は『元の位置』に戻る性質がある事も判明した。
すると以前に吹っ飛ばした御者モドキやハイエナモドキも、王都や元の住処に戻ったのかも?
ハイエナモドキはともかく、御者モドキは不安になる。あいつ、あたしが生きてる事をバラさないでしょうね?
暗殺の失敗とか、後ろ暗い上に雇い主が激怒しそうな事実を、ベラベラ喋るとは思えないけど。
暗殺対象のあたしにも結構、言っちゃいけないような事を喋ってたんだよね。
能力の事とか話されたら困るな。それとも自分のギフトが有用だと思ってるあたしの自意識過剰かな……?
まぁ、何も起きてないうちに色々心配してもしょうがないか。
そんな事より。
瘴気に関しては、消した後に戻ったりしないんだけど。
触れないと祓えないとか、祓った瘴気がどこに行くのかという点については不明なんだよね。
今のところ、どこかの人里諸々に押し付けてない事を祈るばかりだ。
と、検証が一段落したところで。
「あれ? そういえばコロは……またノワとアシュの所?」
お昼は朝の残りで済まそうと焚き火を起こした所で、いつも肩に鎮座しているはずのコロがいない事に気付いた。
広場の真ん中は草刈りせずにワッサワサのヒーリル草を残している。馬ちゃんたちのオヤツ兼お昼寝場所として。
ノワとアシュはそこで眠っていて、そのアシュの上にコロもいた。
ほっこりとした光景に微笑ましく思ったあたしだが、ふと違和感がもたげる。
ノワとアシュは草地にぺったり首から上を付けた姿で、これは熟睡している状態であるとは知っていた。
だが馬は元々ショートスリーパーだ。特に熟睡状態の寝方は馬体に負荷がかかるので、長くても一時間くらいらしい。
ノワとアシュの場合、お年寄りという事もあってかその時間は伸びてきていた。それでも今までは二時間以内に起きていて――。
待って。
ノワとアシュは、いつからあの状態で眠ってた?
昼に見た時から体勢が変わってない。
四時間近くも――
全身が総毛立ち、あたしは二頭の元へ駆け寄った。
二頭にそれぞれ触れる。
冷たい。
「ノワ? アシュ……?」
声をかけても反応がない。
当たり前だ。冷たいんだもの。
手が震える。
呆然自失していると、頬に何か触れた。
コロが手を、蔓のように伸ばしている。
そしてもう片方の蔓で、ノワとアシュの体をトントンと軽く叩く。
何かの意図を感じるその仕草に、あたしはもう一度左右の手で二頭に触れてみた。
やはり冷たい――が。
「あっ……」
生きてる。
眠っていて、体も冷たいけど『生きてるもの』の気配がまだある。
あたしは自分の頬をバシリと叩いて混乱を沈めた。
何をすればいい? 体が冷たい。寒いのか?
まずは湖集落を包むバリア内の温度を上げた。
次に洞窟からありったけの布団や布を持って来て二頭を包んだ。
でもノワとアシュは冷たいまま。
後は何をすれば良いのだろう。ポーションを使う? けどポーションは主に外傷の治癒しか効果がないはず。
二頭には外傷などない。この状態は、高齢だからで――。
何もできる事は無いのだと思うと、目頭が熱くなった。
「大学の同期が言った夢についての話」は諸説あります。




