24:魔物と魔獣と狂化魔獣
ところで、レア薬草には時々銀色の花が咲くものがあると説明したと思う。
上級ポーションの原料になるってアレよ。
原料! すわポーション精製!? と思ったがジオも知らないポーション造りのノウハウをあたしが知る訳もなし。現状はひたすら刈って保存に留まっている――というのはさておき。
銀色の花なので、最初から『誰』の仕業なのかは分かっていた。
「コロ……今日も盛大に生やしたね……」
朝起きるたび、昨日キレイに刈り取った広場がまたもボーボー青々と生い茂る風景。それが毎日繰り返されるあたしの気持ち、分かる?
しかもそれ、イタズラでもなんでもない、悪意など欠片もない可愛い妖精の『お礼』なんだよね……。
そう、コロポックル第一号、頭にちょんと咲いた銀の小花がチャームポイント、コロの所業ですよ。
肩の上で誇らしげに胸を逸らす姿は非常にかわゆいのだが、彼(彼女?)は毎晩『月夜の晩にオ◯リナ吹いてる』モフモフ生物の如く草木を芽吹かす何かの儀式でも行っているのだろうか。
朝食のスープを温めながら一日の予定を考える。
はい、今朝も日課の草刈りからスタートです。
コロは叱りません。可愛いから。
ていうか以前に一度、頑張り過ぎないよう伝えたらシュンとしちゃったんだよね。
今はレア薬草と判明して需要が高まったけど、雑草であっても好きにさせる気だったよ。
あんな可哀想なシュン顔させるくらいなら、毎朝の草刈りの方がマシなんだ。
勿論、ご褒美の魔力もあげちゃいます。
ギフトの膜で包んだ魔力をシャボン玉のように幾つも飛ばすと、コロ及び妖精たちがそれぞれ受け取って踊る。
比喩じゃなく実際に踊る。どうやら踊るのは、妖精にとって最大の喜びの表現らしいんだわ。
「今日も皆、朝早くから畑仕事と道具のメンテナンス、ありがとね〜」
あたしが声をかけると尚更喜んで踊りが激しくなる。
湖集落、朝の恒例行事だ。
「相変わらず器用なことしてるなぁ……」
声に振り返ると、森の奥からジオがダラダラ歩いて来るところだった。
近くのコロポックルたちがササッと逃げたので、今回も狩りをしてきたのだろう。草の妖精は血の匂いが好きではない。
「今日は何ー?」
訊くと、「猪」との回答。
ジオは集落に住み始めて二日目には『タンパク質=魚』生活に音を上げた。竜人は元々肉が主食らしいので耐えられなかった模様。
以降、自分で獲物を獲ってくるようになった。
「嬢ちゃんも要る?」
ドンと積み上げられる、葉っぱに包まれた一つ十キロはありそうな巨大な肉塊が十数。
頷くと、その半分をジオはくれた。太っ腹だ。
正直、獲物本体の持ち込みでなく他で解体して来てくれるのは有難い。
コロポックルたちが血の匂いを嫌がるし、あたしも目の前で動物が裁かれるのは……ね。
草葉の陰から亡きじいちゃんのお叱りが聴こえる気がするわぁ。
『生き物食うのに罪悪感なぞ要らん。そげな言ったら魚はよ? 蜜柑は、キュウリはよ? 大事なんは獲った生き物に感謝ァ忘れんよう食うこった』
感謝はしてるよ。お肉好きだし、美味しく頂いてます。
でも捌くのはどうしても無理でした。
最初の頃ジオに習おうとしたら、濃密な血の匂いと諸々に倒れそうになってしまったのだ。
すると仕草はオッサンだけど気遣いの粋なジオが、狩るたび他で捌いて肉塊の差し入れをしてくれるようになった。滞在費(の一部)代わりだってさ。
あたしとしては開き直って、全力で徴収する所存です。
因みにジオが獲って来るのは大型の魔獣が殆どだ。
小動物はダメで大型の魔獣なら大丈夫……というのはエゴだなぁとは思ったけど。
ひとまず論点を戻す。
ジオが言うには、魔獣と魔物は違うらしい。そして、魔物は食べられない。
瘴気溜まりから直接生まれる魔物は、その体の隅々に瘴気が染み込んでいて、摂取した方も瘴気症になってしまうからだ。
では魔獣は、というと、通常の動物が瘴気で変異した存在である。
殆どの動物は人間と同じく瘴気に侵されると瘴気症となり亡くなってしまう。しかし一定数は瘴気と馴染み、それらが魔獣になるそうだ。
瘴気が原因というのは魔物と同じだが、変異したての魔獣は体内に『核』が造られ、そこにまず瘴気が貯蔵されるので肉には影響がないとか。
しかし内臓系は影響が強いから捨てるしかないし、時が経つと肉部位にも瘴気が回ってやはり食べられなくなる。
肉部位――つまり体の隅々まで瘴気が回った魔獣は、更に危険な存在である『狂化魔獣』に進化するらしい。
昔々には単体で複数の国家を滅ぼした伝説級とかも存在したんだって。
魔物、魔獣、狂化魔獣の見分け方も聞いた。
魔獣は、通常動物の姿をしたまま体が三倍以上巨大化するから分かり易いとか。
そして魔物と狂化魔獣も、魔法をある程度使い熟す者なら見分けられるという。
体に満ちた瘴気が煙のように纏わりついてる為だ。
胡桃のトレントに初めて会った時を思い出すね。
あの時トレントは、狂化魔獣になる一歩手前の状態だったらしい。
瘴気に染まりきった『核』が暴走し、体表へと滲み覆い尽くす事で狂化魔獣へと変貌するのだとか。
トレントの中心にあった、蛭のようなアメーバのようなアレかな、と思う。
……本当に危ないとこだったんだな。今現在、林檎や桃の仲間と一緒に光合成してる平和な姿からは想像もできないけど。
良かったね、クルミさん。
「クルミさん」は胡桃のトレントの名前だ。名前がなくちゃ不便なんだよ。
林檎のトレントは「リンゴさん」桃のトレントは「モモさん」。
果物ではない方々にも「シラカバさん」等の種に因んだ名が付いている。
ジオに「まんまじゃねぇか」とツッコまれたけど、あたしが覚えられればそれで良いんです。




