22:雑草が雑草じゃなかった件
毎朝の草刈りは、コロポックルやノームたちも総出で手伝ってくれる日課だ。
現在はそこへ、ジオが加わる。
「おーす……お前ら早いなぁ」
彼がここで共同生活し始めて数日が経った。
寝起きなのか欠伸を噛み殺し、脇腹をボリボリ掻きながら、のんべんだらりんと歩いて来る様子はどっかのおっちゃんのようである。
「こっちは刈り終わるから、ジオはそっちをお願い」
「へいへい」
工具箱から鎌を抜き取って、指定された場所に向かうジオ。
その背には、竜の翼が無い。
というか、今のジオはどこから見ても普通の人間であった。
なんでも彼ら竜人は、人間形態に変身できるのだとか。
初めて会った時は竜人モードで、戦闘や機動に向くが、魔力消費のコストもかかって半端なくお腹も空くんだそうな。
「ここはマナが豊富だから元のまんまでもイケるかと思ったんだがなぁ……。やっぱ腹は減るみたい」
本人も、湖の魚を食い尽くす勢いで食欲旺盛なのを少しは気にしたらしい。
それと、竜人モードのジオは妖精たちに怖がられ、遠巻きにされるのもちょっぴりショックだったらしい。
ここに来た翌日には人間の姿に変わっていた。
ある意味省エネモードである人間形態のジオは、顔立ちや体格、髪色なんかは同じだが翼や角、尖った耳などの人外要素が消えている。
服装も丈の長い豪奢な外套から、王都で見た平民男性のような簡素な服になり、一層とっつきやすくなった。
竜人モードの時は、その見た目の迫力に気を取られて意識してなかったけど……。
かなり男前ですね?
見た目、三十代前後。顔は精悍さと柔和さをたたえていて、青年と壮年の狭間辺りが持つ独特の色気を漂わせている。
正直に言うとお目々の保養。
そこはかとなく漂うオッサン臭がなければ……。チラと見れば今も大欠伸しながらお尻掻いてるし……。
……まぁ、そんな人だからこそあたしも遠慮なくものが言えてるんだろう。
そう自分に言い聞かせ、お尻を掻いてる映像は記憶から消去する事にした。
✵✵✵
「今日も半分でいいの?」
と訊きつつ、あたしは刈り取った草を束にするのを手伝う。
「全部を毎日買い取ると収納がパンパンになっちまうし、俺の手持ちじゃ足りねぇよ」
答えながら、ジオもせっせと束ねた草をストレージバッグに放り込んでいる。
ジオの持ってるセカンドバッグみたいな鞄は、ストレージバッグだった。容量はなんと大都市がまるまる入るくらいだという。勿論、時間停止機能付き。
すんごく羨ましいが、あたしの買った拳サイズでさえ金貨五枚だったのを考えれば、いくらするのかなんてとても問えない。
最初に着用していた豪奢な衣装といい、サラッと宝石をノームにお支払いしてた事といい、ジオはもしや良いお家の出か何かか、と思った思考は脇に置いておくとして。
何故に雑草を束ねて収納しているかというと、雑草では無かったからだ。
洞窟広場に毎日ボーボー生い茂る草、薬草だった件。
しかも、ポーションの原料になったり、内服薬の原料になったりするレア薬草。
ヒーリル草というその薬草はマナが豊富な土地にしか生息しておらず、世界的に供給不足なのだとか。
特に銀色の花が咲いたものは上級ポーションの原料になるみたいよ。
そんなレア薬草をあたしは気軽に干し草にしたり、花が可愛いからと飾ったり、お茶として(適当に)煮出してた訳だ。
どおりでジオが顔を引き攣らせつつ買い取りを申し出てきたはずである。
これだから無知は怖い。
そんなあたしに、ジオは約束を違える事なく色々教えてくれている。
例えばこの世界の基礎知識。
この世界は【ファナガイア】という名前。女神ファニティが創世し管理する、という神話が伝えられているそうだ。
四つの大陸と無数の島国が存在し、それらは海に囲まれている。
世界地図で見る東端の大陸からずーっと東へ進むと西端の大陸に辿り着くらしいので、多分惑星なんだろう。
(この問答はジオに不思議そうにされた。天動説とか地動説は議論されてない世界なのかな)
土地の緯度によって温暖地か寒冷地かに分布され、春夏秋冬の季節もある。
一時間が60分、一日24時間、三十日で一ヶ月、十二ヶ月360日で一年。
5日足りないので、スマホに表示されている月日は今後合わなくなっていくかもしれない。
ここまで聞くと、一年の日数が足りない以外は地球と然程に変わらない気がする。
王都の暮らしぶりにしても、少し文明が遅れているぐらい。服装や食習慣は西洋の18世紀から19世紀初頭の印象。
ただ、宿のトイレや水飲み場などを見ると上水道と下水道の概念が存在したので、衛生観念は近代的だ。
もしかしたら、過去に召喚されたという聖女が普及させたのかもしれないな。
しかし唯一にして明らかに地球とは異なるモノがある。
魔力ですよ!
この世界ファナガイアには、マナというエネルギーが満ちて万物に宿っている。
生命に宿ったマナは体内に魔臓器という器官を造り、その魔臓器で精製された魔力が魔法やスキル等を使用する為の源となる。
植物や鉱石等に宿ると薬草や魔晶石へと変化するのだとか。
故にマナが豊富な土地は資源に富み、体内にマナを取り込む者も多くなるので必然、魔法の使い手にも恵まれ、国そのものも栄えるそうだ。
ただし。
多量に増えたマナは年月が経つと、新鮮なものが日々劣化していくように変質する。
その変質したモノが、瘴気なのだ。




