21:お持ち帰りした
拠点に帰ってすぐ、ノワとアシュがお出迎えしてくれたのでホッとした。
二頭は最近、よく眠る。
起きてる間は食欲旺盛だし、元気に駆け回っているのだが、とにかく寝る時間が増えた。
今日出かける際も眠っていたので、そっと出かけたのだ。
以前はあたしが出かけると後を追って来てたのに、と思うと寂しいけど、お年寄りだから無理もさせられない。
「こりゃまた……」
二頭を撫でている所にジオグラッドさんもやって来る。
おっと、忘れるとこでした。
あたしはジオグラッドさんの提案を呑む事にした。
何せこの世界の常識すらマトモに知らないからね。色々教えて貰うのと交換条件で。
って、何をそんな驚いてるの?
「? こっちの黒い子がノワで芦毛の子がアシュです」
「そ、そうか」
気もそぞろな返答。
馬ちゃんたちや、今日も草ボーボーの広場、畑を見て顔が引き攣ってる。
「……何かあります?」
「……何かっていうか……。この世界の事は殆ど知らねぇんだったな。追々説明してやるよ。いっぺんに詰めたら混乱するだろ?」
します。
あたしの頭脳は標準仕様なので、小分けにして頂いたほうが記憶に留められますね。
「ジオグラッドさんは……」
「長ぇだろ。ジオかグラッドでいい。敬語も要らん。肩が凝っちまう」
竜人って気さくなんだな。
んじゃお言葉に甘えてジオと呼ばせて貰おう。
「ジオの寝場所をどこにします? 見た通り、広場と畑しかないんですが」
「敬語要らんって。お前さんはどこに住んでんの?」
要らんのですか。
本人がそこまで言うなら止めにして……いいのかな?
あたしは「あの洞窟」と指差した。
「一緒でいいぜ?」
「あたしが嫌です……
嫌」
「ククッ、だよな」
あたしが言い直したのが可笑しかったのか少し笑って、ジオは近くにいるノームたちをチョイチョイと手招きした。
「『土の妖精』よ、俺の寝床を拵えてくれね? 雨風が凌げるくらいで良い。礼はこれ」
言って、腰に装着したセカンドバッグサイズの鞄から、赤や青の石を幾つか取り出し、寄って来たノームたちに渡す。
貰ったノームたち、大喜び。
「宝石……?」
「そ。土の妖精は別名、鉱石の番人と呼ばれる。彼らの手先は器用でドワーフに勝るとも劣らず。ドワーフは偏屈で、同族や余程気に入った相手にしか仕事をしないが、ノームは宝石か貴金属を報酬にすれば願いを叶えてくれる。……ま、嫌われたら願いどころか姿さえ現さないが」
報酬ですと??
ノーム、もとい土の妖精には色々作って貰ってるけど、貴金属なんてあげた事はないぞ?
「不思議そうな顔してるな。お前さんの望みを、妖精たちがホイホイ叶えてるとしたら当たり前だ。従属してんだもの」
「は? 従属!??」
字面は知ってる。でもそんなんした覚えは無いですけど!?
びっくりしてるあたしに、ジオは言った。
「魔力を譲渡しなかったか?」
「…………」
「ああハイ、その顔で分かった。――あのな、魔力譲渡は上位の者から下位者にのみ行われる契約なんだよ。成功した時点で契約は交わされたってコト」
「し、し、知らなかったよ! じゃああたし、勝手に皆を従属させちゃったのです!?」
「勝手じゃねぇよ。従属が嫌なら下位者には拒否する権利がある」
拒否する権利。
この子たちは拒否しなかったってこと?
それは嬉しいけど……。
「そもそも土妖精はともかく、草妖精は滅多にヒト族と関わらねぇ。何があった?」
草妖精はコロポックル(?)の事で間違いないよね。
「干物みたいにしなしなだった」
「干物て」
妖精たちが現れた時の状況を説明すると、ジオは険しい表情で顎を撫でる。
「……そっか。そこまで悪化してたか」
「そこまでの悪化とは!?」
「急ぎなさんな。混乱してるとこに詰めても留めらんねぇだろって。ひとまず言えるのは、お前さんのお陰でこの魔の山森は滅びを免れたって事だ。妖精たちが従属するのも納得だぜ」
いや、なんか初耳ルビが振られてなかった?
……ううん止めておこう。確かに今説明されると脳がパンクする。
それより、宝石を貰ったノームたちがジッとあたしを見つめてくるのはどうしてだろ。
「くく、お前さんが主だからな、お伺いを立ててんだよ。報酬を自分たちが貰っていいのか、依頼通り俺の寝床を造っていいのか」
えぇ? 律儀な……元はキミたちの住処だろうに。
あたしはノームのモヒカンを一人一人撫でた。
「働いて報酬があるのは当然だからね、貰っておきなよ。ジオの寝床もお願い。そうね、あの辺りによろしく」
あたしが指差すと、ノームたちは喜々と走っていき、早速モリモリ土を隆起させた。
「サク嬢ちゃんよ、妙に洞窟から遠い場所じゃねぇかい?」
「気のせい、気のせい」
「……安心してくれていいんだがなぁ。俺はこれでも紳士なんだぜ? 特に未成年の子供には手を出さねぇ主義だ」
「……22歳ですが?」
「……」
ジオは表情を消し、あたしをまじまじと見つめる。
あたしも据えた目で見つめ返した。
「あー……。大人のジョセイなら、警戒するわな、うん」
――すんっごく気まずそうにフォローされる方が、キッツい事ってあるよね……。
どうせあたしは(とある部分が)貧相ですよ。それに日本人は実年齢より若く見えるっていうし、西洋風の顔立ちが多いこの世界じゃ余計……。
ていうか一体いくつに見えたんだろう。
答えを聞く勇気は勿論、無い。
✵✵✵
夕食は定番の焼き魚と山菜キノコスープ。
洞窟そばの石テーブルにはもう一つ石椅子が造られ、ジオが着席している。
ジオは「肉はねえの?」とか不満そうだったクセに、焼き魚四十匹は食べた。生け簀が空になった。
竜人て胃が三つくらいあるの? 湖の魚が食べ尽くされないかとても心配である。
食後、刈り取った雑草を乾燥させて煮出したお茶をふるまうと、なんでかそれにも引き攣った顔をされた。
色が青汁そのものだからだろうか。
「? 見た目はアレだけど味は良いよ? 毒なんか入ってないですよ?」
「……いや、毒は効かねえからそこは良いんだけどよ」
効かないんだ。
耐性があるのかな流石竜人、と思っていたら。
「とりあえず、刈り取った雑草さ……余ってるなら俺に買い取らせてくれね?」
よく分からん商談を持ちかけられた。




