20:ジオグラッド
めちゃくちゃ爆笑している竜人、ジオグラッドさん。
なにこれ。あたし、そんな笑えるギャグを言ったつもりはないぞ。
「くはっ、くく……や、悪い。ご尤もだ。そっか、お前さんには種族の違いは、問題視するトコじゃねぇのか……」
「……?」
「ふふ、お前さんには俺ら亜人を見た瞬間にヒト族が滲ませる『嫌悪感』みてぇなのが無い。それが奇妙ってか、不思議に思えたもんでな。すまん、ちと試したっつーか」
えぇ……。お試し行為とか、どうかと思うよ?
まぁ、それだけ種族の問題が根深くて、この人も嫌な気分を味わったのだと考えるとね。
奇妙に感じるのも、仕方ないかもしれないけどさ。
ジオグラッドさんは笑いを治め、真面目な表情に戻った。
「事情の続きだ。姉の瘴気症を治せるのは、聖女の聖浄化のみだった――はずだが。お前さんにもできるのを、確認した」
「……聖女じゃありませんが?」
「そうだな。お前さんの力は、聖浄化でも光魔法でも無いようだ。だがそこらの細かい事は良いんだよ。重要なのは、瘴気症を治せるか否か、だ」
結果良ければ全て良しって言うもんね。
でもあの、訊いていいかな。
「瘴気症って、もしかして……、火傷の跡みたいな状態の事で合ってます? それとも凶暴化する事?」
「ん? 前者だろ。瘴気症は皮膚が火傷の跡みてぇに爛れて、深刻化すると内臓もやられる。常識だろうに。……なんだ? 俺も試されてんの??」
「…………いや、そういう訳では……」
「………………」
ジオグラッドさんが訝しげに見てくるので、いたたまれず目を逸らす。
超基本的な知識だったのか。不味ったかな。
「…………ん? もしかして」
「……なんでしょう」
「俺の魔力を無効化した力……単なるスキルじゃねぇよな。ギフト持ちか? とすると……」
あ、また。
スキルとギフトの違い??
何の違いがあんの?
「サク、お前さん。ひょっとしてひょっとすると、異世界人じゃねぇか??」
わあ、大当たりー。
いやこれ肯定していいの? 誤魔化すべき?
「異世界人てぇと、聖女召喚の巻き込まれか。昔から時々そういう例があるらしいし、先々代の聖女の時にもいたからな。――だが何でこんな所にいるんだ? 召喚に巻き込まれた奴も、聖女ほどじゃねぇが手厚く保護されなきゃならねぇはずだぜ。確か国際法で定められてる」
誤魔化す前にスルスル情報を開示された。これ、ほぼ確定として話されてるよね。
仕方ない、観念しよう。
「追放されたんで」
「……あ?」
「一緒に来た聖女ちゃんに、怖がられまして。それを信じた王太子が『出て行け』ーと」
ジオグラッドさんは首を捻った。
「怖がられた、って。お前さん、何かしたのか?」
「いいえ? 初対面なので別に恨みがあったワケでなし。あたしが近くにいたら何ぞ邪魔だと思われたみたいデスね」
死んだ魚の目になっているのが自分で分かる。
それを見たジオグラッドさんも、スンッとチベスナ顔になった。
「…………なんか、ご愁傷さん?」
「いえ、ジオグラッドさんこそ」
いやホントにね。あの美少女は何故あたしを邪魔と判じたのかね。
張り合っても勝負にならないタイプだと思うんだ……と言ったら虚しくなるけど。
ジオグラッドさんのお願いもね。
亜人の国なんて、人の国に無い技術とか持ってそうじゃん。チョチョイと聖女ちゃんに活躍して貰って、恩でも売っといたらいいのにねー。
そんなの関係なく人間主義を守る方が大事っすかそうですか。
「……あー、そんな聖女だけでなくお前さんにも瘴気をどうにかする力が与えられたのは、女神ファニティの思し召しかね」
「さあ……? あたしにもなんでこんな力があるのか分からないです」
女神……ファニティ? 様にもお会いした事がございませんし。
言うと、ジオグラッドさんはまたククッと笑った。
「ま、俺も神のご意志なぞ知らんがね。ここは一つ、バランドル王国に邪険にされた者同士、仲良くしねぇかい?」
「はあ?」
「俺はお前さんにウチの国に来て姉貴を救って欲しい。だが、会ったばかりの俺に付いて他国に行くのは不安だろ?」
そうですね。それが一番の理由ですね。
お姉さんの瘴気症とやらはお気の毒だけど、そこへ行ってちゃんと無事でいられるかが、今のあたしには最も気になるところだ。
なんたって、お招きされた某国には追放された上に殺されかけたもので。
「だから、お互いを知る時間を作ろうぜ? そんで、お前さんが俺を信用できる奴だと思えたその時、改めて力を貸してくれ」
「…………」
あたしはジオグラッドを見た。
ジオグラッドも真っ直ぐあたしを見つめてくる。
その言葉に冗談は混じっておらず、真摯な金眼は凪いだ水面のよう。
「……それ、ここで暫く暮らすって事です?」
「おう。上空から眺めた時、湖の畔に集落があった。妖精もゾロっと住んでたようだし、あれがお前さんの住処だろ? ちょこっと間借りさせてくれや。隅っこでいいから」
ちゃっかり確認してやがる。
なんかこの人、飄々してるようで抜け目がない感じだな。
――まぁ、それでも。
「お姉さんを治したいのに、急がなくていいんです?」
「……姉貴は強い竜人だ。瘴気への抵抗力も半端ねぇからな。……暫くは持ち堪えてくれるさ」
一瞬、何かを堪える表情を抑え込んで。
あたしの意志を尊重してくれるという言葉には、きちんと誠意が感じられた。
……どうしようかね?




